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第二章:聖剣編/Ⅰ、豪華客船セレニッシマ号
09★イーヴォ、食い逃げ王の称号を得る
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時は六日ほどさかのぼって、アルバ公爵領の広場にて――
「食い逃げ王が出たぞ!」
「今度はパオロの軽食屋がやられた!」
「またかよ!? 今朝はルチアーナさんの菓子屋だったじゃねえか!」
「あいつら一日に何回食い逃げしやがるんだ」
「大食い王でもあるのか?」
集まった商店主たちが口々にぼやく広場から少し離れた石畳の下に、地属性の術で穴を掘って隠れたイーヴォとニコの姿があった。
「おい聞いたか、ニコ。俺様もついに王と呼ばれるようになったぜ!」
「食い逃げ王と大食い王ですか。称号を二つも得るなんて、さすがイーヴォさん!」
とりあえず思考停止で褒めておくニコ。
「はっはっは! ようやく世間も俺様の真価に気付き始めたようだな」
聖ラピースラ王国の王都を発って丸一日。彼らは街道に出没する野盗に襲われては逃げ、街道沿いの飯屋で食い逃げしては店主に追いかけられて逃げ、旅人の財布をねらってはつかみかかられて逃げ、とにかく逃げまくるうちになんとかアルバ公爵領に到着していた。
「そろそろ騒ぎも収まったころか?」
イーヴォが穴から顔を出そうとしたとき、アルバ公爵家の私兵と見られる男が広場へやってきた。
「民よ、よく聞きなさい! 重要な伝達が二つある!」
良く通る声で宣言すると、人々が集まって来た。
「ひとつ! 先日、王都の聖ラピースラ大聖堂を破壊したイーヴォ・ロッシと二コラ・ネーリの首に賞金がかけられた!」
「え…… 新聞で地下牢に入れられたって読んだがなぁ」
小声でつぶやいた領民へ、
「昨夜、脱獄したそうだ。赤髪と黒髪の竜人二人組だ。生死は問わん!」
地下で本人たちは顔を見合わせた。土の中に逃げ込んでばかりいるせいで、イーヴォの赤髪はほとんど茶色に、ニコの黒髪は灰色に変わっていた。
「ふたつ! となりの多種族連合自治領ルーピ伯爵家から告知を頼まれた案件だ。腕に覚えのある者に告ぐ。スルマーレ島にて開催される魔術剣大会で見事優勝した者は、ルーピ伯爵家令嬢ユリア様と婚約する権利、ならびにルーピ伯爵家礼拝堂にて保管されている聖剣アリルミナスを所有する権利が与えられる。大会では魔術の使用も認められているから、剣士以外の者も奮って応募するように、とのことだ」
地面の下で話を聞いていたイーヴォが、こぶしを握りしめた。
「これだっ! 俺様に必要なのは、選ばれし者だけが使える武器だったんだ!」
「え、なんでいきなり……」
思い込みの激しいイーヴォに、ニコは目を見開く。
「だっておかしいだろ? Sランクパーティ『グレイトドラゴンズ』のリーダーで、最強のはずの俺様が、脱獄囚ごときにボコボコにされるなんてよ」
イーヴォはいまだ、グレイトドラゴンズが次々とモンスターを倒しまくってギルドポイントを稼いだのが、自分の手柄だと信じていた。現実には彼らが戦っていたモンスターたちは、後衛のジュキエーレが持っていた固有ギフト<歌声魅了>で状態異常になっていたのだが。事実、ジュキエーレを追放したあとパーティはモンスターに歯が立たなくなって没落した。それでもイーヴォは過去の栄光にすがっていた。
「脱獄囚ども素手でしたよ?」
「そうだ。だがあいつらはかつて、剣や槍を使っていたと言っていた。つまり俺様も、武器を持てば身体能力が強化されて、殴られなくなるってことよ!」
原因と結果が入れ替わったような気がして、ニコはよく考えようとしたが、彼には残念ながら思考という習慣がなかった。
「そうと決まれば、クロリンダ嬢からさっさと報酬を受け取って、スルマーレ島を目指すぞ!」
「でもイーヴォさん、今朝焼き菓子とコーヒーを食い逃げした店で、クロリンダ嬢は北の塔に幽閉されてるって聞いたじゃないですか」
「ああん? そんなのお前の土魔法で崩せばいいじゃないか」
「塔を、ですか?」
「それ以外何があんだよ。塔に閉じ込められてんなら、塔を壊せばいいだけだろ?」
そんなことをしたら塔の中にいる人間が無事では済まない、などと突っ込んでくれるサムエレはもういない。
「なるほど! さすがイーヴォさん!」
「ニコ、お前もちっとは頭を使えよ」
二人はモグラのように地下を掘り進み、アルバ公爵邸へ向かった。
「北の塔ってぇとあれだな」
アルバ公爵邸裏門近くの地面から、イーヴォが顔を出した。午後の日差しを受けて土に影を落とす木々を見れば、方角くらいは分かる。
「よし、ニコ。やれ」
「任せてください! ――聞け、土の精……」
ニコが呪文を唱え始めた。
-----------------
かわいそうなクロリンダ嬢は、ニコの土魔法の餌食になってしまうのか!?
次話、お楽しみに!
しおりをはさんでお待ちください★
「食い逃げ王が出たぞ!」
「今度はパオロの軽食屋がやられた!」
「またかよ!? 今朝はルチアーナさんの菓子屋だったじゃねえか!」
「あいつら一日に何回食い逃げしやがるんだ」
「大食い王でもあるのか?」
集まった商店主たちが口々にぼやく広場から少し離れた石畳の下に、地属性の術で穴を掘って隠れたイーヴォとニコの姿があった。
「おい聞いたか、ニコ。俺様もついに王と呼ばれるようになったぜ!」
「食い逃げ王と大食い王ですか。称号を二つも得るなんて、さすがイーヴォさん!」
とりあえず思考停止で褒めておくニコ。
「はっはっは! ようやく世間も俺様の真価に気付き始めたようだな」
聖ラピースラ王国の王都を発って丸一日。彼らは街道に出没する野盗に襲われては逃げ、街道沿いの飯屋で食い逃げしては店主に追いかけられて逃げ、旅人の財布をねらってはつかみかかられて逃げ、とにかく逃げまくるうちになんとかアルバ公爵領に到着していた。
「そろそろ騒ぎも収まったころか?」
イーヴォが穴から顔を出そうとしたとき、アルバ公爵家の私兵と見られる男が広場へやってきた。
「民よ、よく聞きなさい! 重要な伝達が二つある!」
良く通る声で宣言すると、人々が集まって来た。
「ひとつ! 先日、王都の聖ラピースラ大聖堂を破壊したイーヴォ・ロッシと二コラ・ネーリの首に賞金がかけられた!」
「え…… 新聞で地下牢に入れられたって読んだがなぁ」
小声でつぶやいた領民へ、
「昨夜、脱獄したそうだ。赤髪と黒髪の竜人二人組だ。生死は問わん!」
地下で本人たちは顔を見合わせた。土の中に逃げ込んでばかりいるせいで、イーヴォの赤髪はほとんど茶色に、ニコの黒髪は灰色に変わっていた。
「ふたつ! となりの多種族連合自治領ルーピ伯爵家から告知を頼まれた案件だ。腕に覚えのある者に告ぐ。スルマーレ島にて開催される魔術剣大会で見事優勝した者は、ルーピ伯爵家令嬢ユリア様と婚約する権利、ならびにルーピ伯爵家礼拝堂にて保管されている聖剣アリルミナスを所有する権利が与えられる。大会では魔術の使用も認められているから、剣士以外の者も奮って応募するように、とのことだ」
地面の下で話を聞いていたイーヴォが、こぶしを握りしめた。
「これだっ! 俺様に必要なのは、選ばれし者だけが使える武器だったんだ!」
「え、なんでいきなり……」
思い込みの激しいイーヴォに、ニコは目を見開く。
「だっておかしいだろ? Sランクパーティ『グレイトドラゴンズ』のリーダーで、最強のはずの俺様が、脱獄囚ごときにボコボコにされるなんてよ」
イーヴォはいまだ、グレイトドラゴンズが次々とモンスターを倒しまくってギルドポイントを稼いだのが、自分の手柄だと信じていた。現実には彼らが戦っていたモンスターたちは、後衛のジュキエーレが持っていた固有ギフト<歌声魅了>で状態異常になっていたのだが。事実、ジュキエーレを追放したあとパーティはモンスターに歯が立たなくなって没落した。それでもイーヴォは過去の栄光にすがっていた。
「脱獄囚ども素手でしたよ?」
「そうだ。だがあいつらはかつて、剣や槍を使っていたと言っていた。つまり俺様も、武器を持てば身体能力が強化されて、殴られなくなるってことよ!」
原因と結果が入れ替わったような気がして、ニコはよく考えようとしたが、彼には残念ながら思考という習慣がなかった。
「そうと決まれば、クロリンダ嬢からさっさと報酬を受け取って、スルマーレ島を目指すぞ!」
「でもイーヴォさん、今朝焼き菓子とコーヒーを食い逃げした店で、クロリンダ嬢は北の塔に幽閉されてるって聞いたじゃないですか」
「ああん? そんなのお前の土魔法で崩せばいいじゃないか」
「塔を、ですか?」
「それ以外何があんだよ。塔に閉じ込められてんなら、塔を壊せばいいだけだろ?」
そんなことをしたら塔の中にいる人間が無事では済まない、などと突っ込んでくれるサムエレはもういない。
「なるほど! さすがイーヴォさん!」
「ニコ、お前もちっとは頭を使えよ」
二人はモグラのように地下を掘り進み、アルバ公爵邸へ向かった。
「北の塔ってぇとあれだな」
アルバ公爵邸裏門近くの地面から、イーヴォが顔を出した。午後の日差しを受けて土に影を落とす木々を見れば、方角くらいは分かる。
「よし、ニコ。やれ」
「任せてください! ――聞け、土の精……」
ニコが呪文を唱え始めた。
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かわいそうなクロリンダ嬢は、ニコの土魔法の餌食になってしまうのか!?
次話、お楽しみに!
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