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Ⅱ、ユリア嬢は天然娘

11、ユリア・ルーピ伯爵令嬢を救う

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「ついにスルマーレ島に着いたわーっ!」

 島に降り立ったレモが歓声を上げた。

 スルマーレ島は干潟の上に作られた人工島で、港湾都市として栄えている。島と言っても砂浜などなく地面は石畳で覆われ、その上には所狭しと立ち並ぶ建物がひしめき合っている。

「すっげぇ都会じゃん…… 領都ヴァーリエよりにぎわってるんじゃねぇか?」

 海辺の村出身の俺としては、もうちょっとのどかな町を想像してたんだけどな。

「ほんと! にぎやかな街で気持ちが華やぐわ!」

 レモのキラキラとした笑顔を見ていると、俺の気持ちまで明るくなってくる。

 海の税関を通りすぎると、運河のほうから次々と小舟が近づいてきた。

「商人ギルドまで乗せていくよー!」

「絹織物商会に行くお客さんはいるかい?」

「中央大橋まで行く方ーっ、立ち乗り定員十名様~」

 セレニッシマ号から降りてきた客を取ろうと、小舟の上から船頭たちが次々に声を張り上げる。

「銅貨一枚、冒険者ギルド行き! 団体様には割引もあるよ~」

 ひときわ大きな声に振り返った俺は、

「あれ乗ってくか。ギルドに行きゃあ地図も手に入るだろうしな」

「そうね! 小舟で運河を行くなんて素敵! 乗ってみたいわ!!」

 はしゃぐレモがかわいい。

 揺れる小舟に桟橋から乗り込む。水面をすべり出すと、潮風が心地よい。船頭は一本のかいを器用に操って、船を進めてゆく。

「師匠に出す手紙、一応ジュキにも読んで欲しいの。ほかに追加した方がいい内容あるかしら?」

 小舟に渡された板に腰を下ろしてしばらくすると、向かいに座ったレモがポーチから便箋を出した。

「個人的な手紙なのに、俺が見ていいの?」

「当たり前じゃない! ジュキのことにもふれてるし、目を通してほしいわ」

 信頼されてる感じがしてうれしい。こういうの、恋人っぽいよな。

 折りたたまれた便箋をひらくと、流麗な筆記体がつづられていた。



<親愛なるセラフィーニ師匠

 ご無沙汰しております。日増しに陽射しも強くなってきた今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

 私は、ホワイトドラゴンの血を引く美しい竜人族の少年と出会い、恋に落ちて婚約しました。優しくて素敵な方です。ほとんど無限の精霊力を持っていて驚くほど強いので、帝国中探しても彼にかなう相手はいないでしょう。師匠にもぜひご紹介して差し上げたいです!

 今は彼と多種族連合ヴァリアンティを旅しています。こちらはほとんど夏のような気候です。

 ちなみに母の病状は、私の聖魔法で一瞬にして全快しました。

 ところで師匠にうかがいたいことがございます。

 ・現在の帝国騎士団長はどなたでしょう?
 ・ラーニョ・バルバロ伯爵をご存知でしょうか?

 私は彼に、スルマーレ島へ向かう船の中で会いました。本物かどうか疑っております。
 彼について何か情報をいただけると幸いです。

 ・「魔石救世アカデミー」という学術団体をご存知ですか?

 団体の創立者で代表を務めるラピースラ・アッズーリとは、どのような人物なのでしょう?

 師匠との勉強が途中で終わってしまったことは悔やまれますが、学園の外には私の知らない世界が広がっていました。学んだことを生かして、バンバン敵を倒していく所存です。

 帝都に参りますときはぜひ師匠にお目にかかりたいです。

 それではお体ご自愛下さい。

     レモネッラ・アルバ>



 けっこう俺のことが書いてあって反応に困る! 時には魔物のような外見だとさげすまれる俺のことを、美しいと言ってくれるなんて――

「ジュキったら、ほっぺがピンクに色づいちゃって、かわいさ三割り増しよ」

 満面の笑みを浮かべたレモにからかわれてしまった。 

 口をとがらせて目をそらした俺の手を、レモが優しくにぎる。日差しに輝く彼女の髪が、水面みなもを渡る風を含んでふわりとなびいた。

「なんで止まってやがんだ?」

 船頭がひとりごちたのは、小さな太鼓橋をくぐった直後だった。密集する建物が両岸から見下ろす、さして幅の広くない運河に俺たちの乗った船と同じような小舟が、ふきだまりの落ち葉のように寄り集まっている。

「大変だ! 女の子が運河に落ちたぞ!」

 誰かの叫び声が聞こえて、船頭も俺たちも状況を理解した。

「助けに行ってくる!」

 俺は船の上に立ち上がると同時に翼を広げ、首元の留め具をはずしてマントを落とした。

「ジュキ、がんばって!」

 空中で広がった白いマントをレモがしっかりキャッチしたのをうしろに見つつ、渋滞する小舟の上を飛ぶ。

「白い羽の少年が――」

 足止めを食らった船の上で、人々が俺を見上げる。。

「天使が助けにきたぞ!」

 肩から角生やした天使がいるわけねぇだろ。

 普段は背中から生えた翼も、肩から突き出す枝分かれした水晶のような角も、魔法で隠しているのだ。

「落ちたのはルーピ伯爵家のお嬢様だ!」

 なに!? まさかレモの後輩だっていう獣人族の少女!?

「ユリア様が? また!?」

 またってどういうことだよ?

 渋滞の先頭に着くと、金色に輝く装飾だらけの小舟の上で、恰幅のいい老人が必死の形相で水底を見つめている。

「大旦那様、すぐに魔術師が到着しますから!」

 彼まで運河に落ちないよう、使用人らしき男が老人の暑苦しいコートを引っ張った。俺は彼が見下ろす水面に命じた。

「水よ、我が意のままに!」

 その途端、運河の一点に渦が起こり、螺旋らせんを描きながら立ち上がった。水流のリボンに包まれて運河から引き揚げられたのは、ふっくらとした頬にあどけなさの残る愛らしい少女だった。



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「ユリアの登場、一瞬じゃねえか!」
と、お怒りのお客様、申し訳ございません。
次回はちゃんと動いてしゃべりますので、しおりをはさんでお待ちください!
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