歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

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Ⅱ、ユリア嬢は天然娘

16、伯爵邸武器庫に忍び込んだ盗っ人は?

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「レモせんぱいが魔術剣大会に出場すればいいんだ!」

「女の子が出られるわけ――」

「レモせんぱいが男の子の服着て出場して強いからさくっと勝って、わたしのコンニャク者になって、わたしを旅に連れ出してくれればいいのっ!」

「そっか、私が魔術剣大会に出場――」

 レモの目が輝きだした。これは嫌な予感がする。

「楽しそう!!」

 やっぱり。

「だめだよ、危ねぇから」

 速攻止める俺。

「なんでよーっ」

 ふくれっつらするレモに、

「怪我でもしたらどうするんだよ?」

「そんなの自分で聖魔法使って治すわよ」

「俺はあんたが攻撃されてるとこなんか見たくねーの!」

「なによ、ジュキの過保護ーっ!」

 レモは駄々っ子のように両脚をバタバタして、座ったまま絨毯を踏み鳴らした。

「ジュキばっかりずるいわよ! 女装したり魔術剣大会に出たり、楽しいこといっぱいして!!」

 ええ…… まさかの反応……

「私だって色んなこと体験したぁぁぁい!」

 高い天井に向かって絶叫しやがった。

「ジュキくんが客席から援護してあげれば、レモせんぱい怪我しないよ?」

「いや、それはさすがに反則なんじゃ――」

 言いかけた俺をさえぎって、レモが人差し指を立てた。

「いいわね、それ! ジュキなら呪文も唱えないからバレないわよ。ユリアを悪い婚約者から守るっていう正しい目的のために取る手段なんだから、反則じゃないわ」

 すごい屁理屈だなおい。でもセレニッシマ号の中で俺たちを襲った魔物伯爵も出場するんじゃ、ユリアを守らなけりゃならないのは確かだ。

「だけどレモ、あんた魔法剣マジックソードも持ってないし、剣の扱いだって知らないだろ?」

「あら。一応、魔法学園で習ったのよ?」

 そうなんだ。

「レモせんぱいは剣技の授業、取ったんだよねー」

 ユリアはそれから俺のほうを向いて、

「選択科目だから男子ばっかなんだよ?」

 なんとなく想像つくわ、貴族令息たちに混ざって剣を振るうレモの姿……

「ユリア、伯爵邸に余ってる魔法剣マジックソードってないかしら?」

「武器庫にいっぱいあるよーっ! 選び放題!」

 ぴょこんとソファから飛び降りるユリア。

 それまで黙って壁際に立っていた侍女が、

「ご案内しましょうか?」

 と声をかけてくる。

「うん、お願い!」

 元気にうなずくユリア。おいおい、まじかよ……

「あの……、勝手にいいんですか?」

 ソファから立ち上がりながら、誰にともなく尋ねた俺の言葉に侍女が柔和な笑みを浮かべて答えた。

「ユリア様が決めたことでしたら、伯爵様も大旦那様もオールオーケーですから」

 溺愛父と溺愛じじいめ。

「その二人はなんでユリア嬢に婚約者を見つけようとしてるんだ?」

 高い天井から色ガラスをあしらったシャンデリアが下がる廊下を歩きながら、俺は侍女に問いかけた。 

「レモネッラ様がいらっしゃらないと学園にすら通えないユリア様をご心配されて、早く良い方を見つけて差し上げねばとお思いになられたようです」

 その考えは分からなくはないんだが――

「でもなんで魔術剣大会?」

「それは、伯爵様がユリア様にどんな方がお好きかと尋ねたとき、ユリア様が『レモせんぱいみたいに強い人』と答えたからですわ」

「なるほど。それで魔術剣士が欲しがりそうな聖剣を賞品に、参加者をつのったってわけか」

「だけど聖剣って――」

 と口をはさんだのはレモ。

「――精霊教会にあるんでしょ?」

「はい。ですが現在の所有権は大旦那様にございます。大旦那様のおじい様が精霊教会に多額の寄付をされたとき、感謝の印としてゆずり受けたと聞いております」

 それで代々ルーピ伯爵家に伝わってるってことか。あれ、でも――

「聖剣はこの屋敷にはないんだよな?」

「ありません。ルーピ伯爵家礼拝堂という別の建物の聖具室にございます。三代前のご当主様がゆずり受けたときに、ヴァーリエ大聖堂から運んだそうですよ」

「えっ、もとはヴァーリエにあったんだ!」

 ヴァーリエ大聖堂は一応、精霊教会の本部である。そこに眠っていたお宝をスルマーレ島領主の礼拝堂に移してしまうあたり、背に腹はかえられぬってやつか。精霊教会のふところ事情は厳しいんだろうな……

 大理石の立派な階段を下りきると、大きな木彫りの扉があらわれた。

「こちらになります」

 解呪の呪文を唱えようとした侍女が、

「あ、鍵あいていますね。今日はドワーフ父娘おやこの武器職人に、メンテナンスをお願いしている日でしたっけ」

 扉を押し開けようとすると、ユリアが突然しゃがみこんだ。

「この穴なぁに?」

 彼女の指さす大理石の床に、ちょうど人一人通れそうな穴が武器庫内に向かってななめに掘られている。

「侵入者!?」

 青ざめる侍女。トンネル掘りの術を得意とする姑息な野郎を一人知っているが、ヤツは聖ラピースラ王国の地下牢につながれているはずだ。

「魔術兵を呼んでまいります!」

 たった今下りてきた白い石階段を駆け上がる侍女の背中を見送りながら、俺はつぶやいた。

「待ってる理由もねぇよな」

 レモもうなずいて、

「頼むわ、ジュキ。念のため私はユリアを守るわね。風護壁ヴェントムーロ!」

 風の結界を張った。こちらの会話が侵入者に聞こえていたら、別の出口から逃げているか、それが不可能なら攻撃呪文を唱え始めているだろう。

「我が力の結晶たる氷よ、この衣にまといて守護となれ」

 俺も一応、衣服に防御術をかけてから両開きの扉を押し開けた。 

 四方の壁におびただしい数の槍や剣が並んでいる。それを物色している小さな影は――

「えっ、ジュキ? キサマがなんでここに!?」



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武器庫内に忍び込んでいたのは誰?
また、なつかしい出会いを果たしてしまうのか!?

次話に続く!
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