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第三章:帝都編/Ⅰ、姿を変えて帝都へ旅立つ

03、故郷の村で褒めたたえられ歓迎される

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「逆光のせいで顔は見えなかったけど声から察するに、私の姉クロリンダでしょうね」

「ええっ!?」

 毎回、躊躇ちゅうちょなく攻撃するな、レモのやつ…… 

「なんであんたの姉さんが? 俺の出身村を襲うなんて――」

 自己紹介するとき話したから出身地を知っているのは不思議ではないが、攻撃する理由なんてあるか?

「ラピースラ・アッズーリに乗り移られてたんでしょ」

 事も無げにのたまうレモ。

「アルバ家の人間になら乗り移れるようね。と言っても、あんな弱っちいのに乗り移ったって意味ないけど」

「レモせんぱいの魔法でドッカ~ン一撃だったもんねーっ」

 楽しそうなユリア。きっとラピースラ自身も、一瞬で吹っ飛ばされてびっくりしたんだろうなー。

 人垣をかきわけて、親父がおぼつかない足取りで近づいて来た。 

「ジュキお前――」

 震える声で俺の名を呼んだと思ったら――

 どぱーっ

 いきなり泣き出した!

「お、お前っ、立派になって! 詠唱省略して魔術構築まで出来るようになって……!」

 声が震えてたのは、俺の力を恐れてたわけじゃなく感動してたのか。

「しかもいいところのお嬢さんたちと仲良くしやがって!」

 公爵令嬢と伯爵令嬢だって打ち明けて平気かな、この人……

「お前、村のばあちゃんたちにしかモテなかったのに! ずびーっ」

 鼻すすりながら無駄な情報を暴露する親父。ムッとする俺の腕の中で、レモが安堵のため息をついた。

「良かったわ。ジュキに片思い中の幼馴染とか出てこないみたいで!」

「ないない」

 ぱたぱたと手を振る俺に、

「心配してたの。ジュキって優しくてかっこいいから、地元でも絶対モテてたはずだと思って」

「いや、チビで魔力無しだったから相手にされてませんでしたが?」

「え~、でもその綺麗な声は子供のころからだったんでしょ?」

 レモの指先が優しく俺の頬をなでる。ちょっと恥ずかしくて、俺は目をそらしつつ、

「教会で歌ってるガキとか別にモテないだろ。魔法で家業手伝ったり、稽古試合で優勝する剣士見習いとかじゃないんだから」

「うっそ信じらんない!」

 貴族のお嬢さんと、田舎の村の子供たちでは価値観が違うのかも。少なくとも竜人族や獣人族は、強い者を認める傾向が強い。

「ジュキちゃん、なんで急に魔法が使えるようになったんだ?」

 親父の元冒険者仲間が、俺のまわりに集まってきた。

「詠唱省略なんて現代にゃあ、できるヤツいねぇんじゃねえか?」

「しかもそのすっげぇマジックソード、ダニエーレのおさがりじゃねえよな?」

 ダニエーレってのはうちの親父の名前。親父は冒険者時代に自分が使っていたマジックソードを、俺にゆずってくれたのだ。だが精霊力が戻った直後、己の力を把握していなかった俺は、莫大な力を剣に流して割ってしまったのだ。この件、親父に謝んねぇとな。

「おいお前ら! うちのジュキは村を救った英雄だぞ? 気安く質問攻めにするな!」

 俺たち三人の前に立ちはだかる親父。

「えっ、ジュキのお父様ですって!?」

 レモの目がぎらぎらと輝く。嫌な予感…… 

 少し離れたところに避難していた女性たちの輪の中から、目をうるませて母さんがこちらへ歩いて来た。

「ジュキちゃん、母さんも何があったのか訊きたいけれど、旅の疲れもあるでしょう。まずはうちに帰ってゆっくりしなさいな。お嬢さんがたも」

「えっ、ジュキのお母様!?」

 さらにテンション上がるレモ。二人の前に進み出て、ひざを曲げて挨拶した。

「お父様っ、お母様っ! わたくし聖ラピースラ王国アルバ公爵家のレモネッラです!」

 うちの両親、驚きのあまり言葉が出てこないじゃん。

「あの、あのっ! 聖剣の騎士ジュキエーレ・アルジェント卿を私にくださいっ!」

 おお。予想を上回る暴走っぷり。

「せ、聖剣の――?」

 完全に混乱しているうちの母親が気の毒ですらある。

 俺が聖剣を手に入れたことも、騎士爵に叙されたことも話していないのに、色々すっ飛ばしすぎだよ、レモ……

「わたくしジュキエーレ様と恋人として、お付き合いさせていただいてるんですっ!」

 一生懸命、叫んじゃうレモがかわいい。固まっている親父たちに代わって、

「な、なんだって?」

 村人たちが騒ぎ出す。

「公爵令嬢さんがこんな田舎出身の竜人族と!?」

「だってジュキは帝国一強い聖剣の騎士で、とっても優しくていつも私を守ってくれるもん!」

 レモが俺の腕を引っ張ったと思うと、ぎゅっと抱きしめて胸を押しつけてきた。つつましいサイズとはいえ肘にふんわり感じるやわらかさに、俺は平静を保とうとこっそり深呼吸した。

「さっきからお嬢さんが言ってる聖剣の騎士ってのは――?」

 親父の当然な問いかけに、俺はスルマーレ島のルーピ家礼拝堂で聖剣アリルミナスを手に入れたこと、聖剣でモンスターを倒してルーピ伯爵領を救った褒章に騎士爵をたまわったことを話した。

「す、すげぇ……」

「うちの村から爵位持ちが出るとは」

 どよめく人々。

「そうだよ、ジュキくんすごいんだよ! あっ、わたしはユリア・ルーピです!」

 元気に自己紹介するユリア。

「ルーピ家ってまさか……」

 さすがに多種族連合ヴァリアンティ自治領内の伯爵家なので、その家名に聞き覚えのある者も多いようだ。不要に騒がせてもしょうがないので俺が、

「察しの通り、ユリア・ヌーヴォラ・ルーピ伯爵令嬢だよ」

 さっさと答えを告げた。

「ジュキくんはわたしのお兄ちゃんなのーっ」

 空気を読まずに宣言するユリア。

「あんなかわいいケモ耳令嬢が妹を名乗り出るとは、嫉妬で気が狂いそうだ!」

「いや、俺は公爵令嬢さんの恋人になりたい人生だったぞ!」

 血涙を流すおっさんたち、横にいる奥さんにどつかれる。

 俺はそれから、生まれた翌日にニセ聖女に封印された精霊力が解放されて、魔法を使えるようになったことを説明した。

「じゃあやっぱりヴァーリエ冒険者ギルドに現れたSSSランク冒険者ってなぁ、お前さんかい、ジュキちゃん」

 薬屋のお婆さんの問いにうなずく俺。

領都ヴァーリエの話がモンテドラゴーネまで伝わってるの!?」

「わたしゃぁ十日ほど前に魔法薬の買い付けにヴァーリエまで行ってね、冒険者ギルドへ薬草をおろしに立ち寄ったとき聞いたのさ」

 親父の冒険者仲間が、

「俺らの村からSSSランク冒険者が出るとは、なんたる名誉!」

 諸手もろてを挙げて喜ぶ姿に、母さんは目頭を押さえた。

「もう、守ってあげなくちゃならないジュキちゃんじゃないのね」

「母さん――」

 なつかしさに鼻の奥がツンとする。でもみんなの前で涙を浮かべるなんてカッコ悪いこと、絶対できない。 

「おかえりなさい、ジュキちゃん!」

 俺に駆け寄ってくるなり、ぎゅーっと抱きしめてくれる母さん。うーん、レモの前で恥ずかしいからやめてほしいけど、やめてくれってのもかわいそうで言えない……

「ジュリアーナさん、素晴らしい息子を持って良かったな」

 近所の人の言葉に、

「ジュキちゃんは精霊力なんか戻らなくても、SSSランクだの騎士だのにならなくても、ずっと昔から素晴らしい子でした!」

 きっぱり主張する母さんに、おっちゃんはたじたじのていで、

「いや、そりゃそうだけどさ、ロッシさんちなんか息子が罪びとになっちまったんだぜ?」

 おお。イーヴォ・ロッシがお縄になったニュースはもう村まで伝わってるのか。

「あの夫婦、気の毒にすごすごと家に引っ込んでいったな。弟や妹もたくさんいるってのに、イーヴォめ恥さらしだぜ」

「イーヴォはガキの頃から乱暴だったからあきらめもつくが、それにくっついて一緒に罪を重ねたネーリさんちの息子はもっと情けねえよなあ」

 ニコラ・ネーリの両親も、そういえば姿が見えない。

「あの二人は昔から、かわいいジュキちゃんをいじめておったから、ツケが回ってきたんだろう」

 薬屋のお婆さんの言葉に、

「そうだそうだ。四大精霊王様の天罰じゃ」

「ほんとにねぇ!」

 うなずく年寄り連中とおばちゃんたち。

「それじゃあ今夜はモンテドラゴーネ村の英雄をたたえて『ジュキエーレ・アルジェント卿凱旋祝賀会』をひらかねえか?」

 親父の冒険者仲間が提案すると、

「いいなそれ! ジュキちゃんがせっかく素敵な女の子二人連れて帰ってきたし、今夜は村をあげて祝宴だ!」

「よっしゃ、酒の用意だーっ」

 村にいつもの活気が戻って来た。

「うちに案内するよ」

 俺はレモとユリアの手を取って、両親と共に一年と数ヶ月ぶりの実家へ向かって歩き出した。

 我が家へ続くなだらかな坂道を登りながら、レモがやわらかい笑顔を浮かべた。

「やっぱりジュキって愛されて育ったから純粋なのね」

 さすがレモ、実にポジティブな解釈だ。うん、そういうことにしておこう!



─ * ─ * ─ * ─ * ─



次話は初の試み【敵side】です。

帝都にいるラピースラ・アッズーリと皇子は、何をたくらんでいるのか?
クロリンダに乗り移ってあっさりやられたラピースラは何を思うのか?
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