歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

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Ⅱ、道中ザコが襲い来る

28、ケモ耳美少女の物理攻撃

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 一瞬の間を置いて、

「グ、グォアァァッ!」

 グレンデルが身をよじって咆哮を上げた。

「瘴気をまとう肉体を切り裂けないと言うなら、その肉体で押しつぶしちゃえばいいのよ!」

 レモの言葉と同時に、グレンデルがその禍々まがまがしく光る両眼から、光線のようなものを発射した。

「おわっ」

 思いがけぬ攻撃に、俺はレモを抱きしめ急降下する。木の上に着地すると、林が障壁となってグレンデルの光線は届かない。

 俺の腕の中で、レモはおびえるかわりに興奮している。

「すごいっ、授業で習った『邪光線』の攻撃! 初めて見たわ!」

 まあ俺の張った結界があるから、かすっても大事には至らねえと思うが……

「ジュキの胸についてるおめめは『聖光線!』とか出ないの?」

「出ないし、そんなモンスターみてぇな攻撃あんたの前でやんねえし」

 俺はムッとしながらグレンデルの様子をうかがう。

「さんざん目から邪光線出しやがって、鬱陶うっとうしいな」

 俺たちの存在に気付かれたなら、堂々と近付いて仕留めてしまいたいのだが、これではうかつに近寄れない。瘴気を光線化したあれに当たるたび、精霊力の結界がそがれるから、聖剣に集中できないのだ。

 そのとき、街道に止めた馬車の方から、

「わたしも巨人さんと遊ぶー!」

 場違いな声が近づいて来た。

「ユリア!」

 ロック鳥にまたがって飛んでくるユリアは、両腕に大きな石をたくさん抱えている。

「えいっ! えいっ!」

 あろうことか鳥の背中に立ち上がって、巨人の目玉めがけて石を投げ始めた。

「ユリア、危ないよ……!」

 焦る俺に反して、

「ヒットぉぉぉっ!」

 ガッツポーズしてるレモ。重なる枝の間からグレンデルの姿を見ると、両眼に石が嵌まっている。おかげで邪光線は止まったが――

「ウゴオォォォッ!!」

 怒ったグレンデルは両手で手当たり次第に大木を引っこ抜いて、ユリアに投げつける。

「凍れる壁よ、かの者を守りたまえ!」

 慌てて氷魔法でユリアを防御するが、

 ベキベキッ!

 強度が足りなかったか!?

「はいよーっ」

 しかしユリアは、氷壁を突き破ったひときわ太い一本をがしっと両手で受け止めた。

「ユリア行っきまーす!」

 グレンデルに投げ返す!

 口からも邪光線を吐こうとしたのか、ぐわっとあけた大口に、

 がすっ。

 ぴったりと大木が嵌まった。

「ナイスコントロール!」

 手をたたくレモに、

「わー、巨人さんブロッコリー食べてるみたーい!」

 はしゃぐユリア。いや、グレンデル苦しんでるだろ、どう見ても。

「わたしもおなかすいちゃった!」

 気ままな発言を残して、ロック鳥とともに馬車へ戻っていった。

 目と口をふさいだ異物を取り除こうともがくグレンデルの両手を、

風鎖封ウインズカテーナ!」

 レモが風魔法で縛った。

 怒り心頭に発したか、その場で足を踏み鳴らすグレンデル。瘴気の森が揺れ、大地が波打ち、魔法学園の女子生徒たちの悲鳴が異様に大きくなる。

「キャー、助けて! お師匠様ー!」

「天使様ーっ!」

 レモがうんざりした顔で、

「ジュキ、ご指名よ」

「指名されなくても、こいつぁ倒すしかねぇだろ」

 俺は聖剣アリルミナスを構えると、翼を羽ばたいて高く飛び、視覚を奪われたグレンデルのうしろから近付いた。

「巨人よ、無にかえれ!」

 輝く聖剣をまっすぐ振り下ろす。つるぎから発する虹色のオーラに触れた途端、グレンデルの姿は黒いかすみへと変わってゆく。砂上の楼閣のごとく、木々のへし折られた瘴気の森の大地へ溶け崩れて行った。

 残されたのは大きな魔石が一つだけ。ラピースラ・アッズーリの実験魔獣とは違うから、魔石は一つだけだしけがされてもいない。

「うっちゃっておくのも勿体ねぇし、持っとくか」

 俺はグレンデルになぎ倒された幹の上に降り立つと、大きな魔石を拾い上げた。そのときうしろで、

「グギギ……」

 と不快な笑い声がした。振り返りざま、

「水よ、やいばとなりてはしれ!」

「ピギャッ!?」

 驚きの声をあげてうしろへ飛ぶ、子供のような緑色の影。おそらくゴブリンだろう。ということはほかにもいるはず。

おびただしき凍れるつぶてよ!」

 四方八方に小石状の氷を無数に飛ばす。

「グギャッ!?」
「ギッ!?」
「ギャギャッ!?」

 木々の陰から次々に聞こえる悲鳴。俺はその隙に翼を広げて舞い上がった。

「マテ!」
「アノ女ホシイ!」
「オイラノ!」

 下からゴブリンたちが次々に石を投げてくる。

「凍れる壁よ」

 ゴブリンたちはユリアみたいに怪力じゃないから簡単に防げるけど。

「こりゃあ雑魚モンスターが次々と出てきちまったのか?」

 ひとり言のつもりだったが、

「みたいね」

 風魔法で舞い上がったレモが、俺のとなりに並んだ。

「グレンデルが地団駄ふんでたから、みんな興奮しちゃってるんでしょ」

「はぁ。とりあえず広範囲に―― 熱湯!」

「「「ギャァァアァァッ」」」

 確かに手ごたえはあったのだが、

 ブゥゥゥン!

 耳障りな羽音を立てて、今度は吸血蠅ヴァンパイアフライの大群が襲ってくる。

吹夥矢ヴァンミッレアロー!」

 レモが広範囲に風の矢を飛ばし、さっさと片付けるが――

「キャー、大変ですわ、お師匠様! スライムの大群が!」
「嫌ぁぁぁっ、ドレスのすそにくっついたぁ!」

 魔法学園の生徒さんたちが大騒ぎしている。

「魔術実習にドレス着てくる方がバカなのよ」

 つんとしているレモ。ああいうお姫様ぶった同級生が嫌いなんだろう。

「とはいえ放っておくわけにもいかねぇな」

 俺は魔法学園生がかたまっている街道近くへ飛んでいき、

「水よ、しき者包みて凍てつきたまえ」

 とりあえずスライムを全部、凍らせた。

「まあ、かわいい! 天使の美少女!」
「きゃーっ、こっち向いてーっ!」

 このお嬢様方、怖くても喜んでもいちいち黄色い声をあげるんだな。そして今度は――

「嫌よぉっ、コボルトの群れがこっちをにらんでるわ!」

「凍てつけ」

 二足歩行の犬みたいな奴を凍らせて、空中に待機しているレモのもとへ戻る。

「こんなん、きりがないぞ?」



 ─ * ─



どうやって魔物たちをしずめるのか!? 次回に続く!
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