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第76話、美少女たちとめぐる学園祭
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「この小瓶を買えば、あなたも好きなことで稼げます!」
野郎ばかりが取り囲む、むさ苦しい人垣の真ん中で惠簾は声を張り上げ怪しい商売の真っ最中。
「惠簾ちゃーん!」
玲萌が飛び跳ねながら手を振ると、こちらに気付いた惠簾は俺をみつけて、
「あっ、橘さま!」
ぱっと花が咲いたように笑った。俺も片手を上げ、
「よぉ惠簾。その小瓶ってなに入ってんの?」
「うちの境内で採取した神聖な空気ですわ!」
と、ふんぞり返る。「いまは風の時代ですからっ!」
「ん? 俺が生まれてからはずっと俺の時代だぜ?」
「惠簾ちゃん」
一人の男が人垣のなかから声をかける。「その小瓶、いくらなんだい?」
「ひとつ銀貨一枚ですわ」
「高いなあ…… 高山神社の空気なんて行けば吸えるし」
その通りである。
「むしろ惠簾の吐いた二酸化炭素のほうが売れるんじゃねえか?」
我ながらなかなかの妙案と思いきや、
「わ、樹葵なんか発想がイヤ!」
玲萌にドン引かれてしまった。
「俺は買わねえって!」
あわてる俺のところへ、人垣を分けて惠簾が近づいてくる。
「ご安心ください橘さま。あなたさまには直接……」
白衣からするりと細い腕が伸び、俺の頬を両手ではさもうとしたそのとき――
「わーやめて!!」
玲萌が割って入ってきた。
「樹葵の唇はあたしのものなのっ!」
俺の前で両手を広げて通せんぼする。
「あら、玲萌さんたら涙目……」
え、まじ!?
玲萌が何を悲しんでるかは分からねぇが、俺は玲萌を泣かせたりしないんだ!
「そんなことしねぇから、な」
そっとささやいて、うしろから包み込むように彼女を抱きしめる。
「樹葵――」
玲萌の指先が俺の腕にふれた。
「けっ、なんだよ見せつけやがって」
客の男が悪態をつく。そういうつもりじゃなかったんだが……
そこへ夕露がぱたぱたと走ってきた。
「玲萌せんぱーい、魔術研究発表おわったから何か食べに行こうよぉ」
「いいわね。ちょっと早いけどお昼にしよっか」
というわけで俺たちはそれぞれ屋台で食いもん買ってきて、木組みの仮設舞台の前に並んだ竹の長床几(ベンチ)で早めの昼食を取ることにした。仮説舞台の上では創作魔術『みかんの皮が一瞬でむける術』の発表がおこなわれている。
「あつっ、たこ焼きあつっ」
玲萌がはふはふしながら、
「樹葵のそれ、焼きそば?」
「うん。塩焼きそばだよ」
「あたしもそれ迷ったのよね~ 半分こしない?」
「するする」
ぶんぶんと首を縦に振る俺。美少女と焼きそば半分ことか、生きててよかったぜ。
「じゃあ樹葵、あーーーん」
いきなり玲萌が俺の口もとにたこ焼きを持ってくる。えっ、半分こってお互いに食べさせあうのか!?
「橘さま、それよりわたくしの買ったじゃがばたーいかがです?」
惠簾もじゃがいもを切り分けて差し出してくる。
「ほら樹葵、たこ焼きパクって行っちゃいなさいよ」
「ふうふうふう。橘さま、稀代の巫女の吐息がけじゃがばたーですわよ!」
ええ…… これどーしたら――
美少女ふたりに餌付けされて困っていた俺を助けたのは夕露だった。
「あ、いいな! わたしにもあーんってして、おにいちゃん!」
甘えた声を出しながら、俺に焼き鳥の串をひとつ持たせる。
「ハハハ、食べさせてほしいのか? 赤ちゃんみたいだぞ」
俺はこれ幸いと夕露に焼き鳥を食わせる。だって玲萌のタコか惠簾の芋か選んだら角が立ちそうじゃん……
「あ、あっちのほうがよかったかも」
玲萌が小声でつぶやいた。
午後も俺たちは、凪留たち召喚魔術専攻が毛の生えている召喚獣たちを集めて開いている『モフモフふれあいカフェ』をのぞいたり、バカでかい紙の上に米粒ひとつ乗せただけで『存在 ~私と世界~』とか題名つけてる『有志による先端美術展』を観に行ったりと、学園祭を満喫した。
そしていよいよ俺たち生徒会員による舞台『魔王の娘は護衛の騎士と逃げ出したい』の時間となった。学園祭の雰囲気にどっぷりと浸かっていた俺たちは、すっかり土蜘蛛のことなんか忘れていたのだ。
野郎ばかりが取り囲む、むさ苦しい人垣の真ん中で惠簾は声を張り上げ怪しい商売の真っ最中。
「惠簾ちゃーん!」
玲萌が飛び跳ねながら手を振ると、こちらに気付いた惠簾は俺をみつけて、
「あっ、橘さま!」
ぱっと花が咲いたように笑った。俺も片手を上げ、
「よぉ惠簾。その小瓶ってなに入ってんの?」
「うちの境内で採取した神聖な空気ですわ!」
と、ふんぞり返る。「いまは風の時代ですからっ!」
「ん? 俺が生まれてからはずっと俺の時代だぜ?」
「惠簾ちゃん」
一人の男が人垣のなかから声をかける。「その小瓶、いくらなんだい?」
「ひとつ銀貨一枚ですわ」
「高いなあ…… 高山神社の空気なんて行けば吸えるし」
その通りである。
「むしろ惠簾の吐いた二酸化炭素のほうが売れるんじゃねえか?」
我ながらなかなかの妙案と思いきや、
「わ、樹葵なんか発想がイヤ!」
玲萌にドン引かれてしまった。
「俺は買わねえって!」
あわてる俺のところへ、人垣を分けて惠簾が近づいてくる。
「ご安心ください橘さま。あなたさまには直接……」
白衣からするりと細い腕が伸び、俺の頬を両手ではさもうとしたそのとき――
「わーやめて!!」
玲萌が割って入ってきた。
「樹葵の唇はあたしのものなのっ!」
俺の前で両手を広げて通せんぼする。
「あら、玲萌さんたら涙目……」
え、まじ!?
玲萌が何を悲しんでるかは分からねぇが、俺は玲萌を泣かせたりしないんだ!
「そんなことしねぇから、な」
そっとささやいて、うしろから包み込むように彼女を抱きしめる。
「樹葵――」
玲萌の指先が俺の腕にふれた。
「けっ、なんだよ見せつけやがって」
客の男が悪態をつく。そういうつもりじゃなかったんだが……
そこへ夕露がぱたぱたと走ってきた。
「玲萌せんぱーい、魔術研究発表おわったから何か食べに行こうよぉ」
「いいわね。ちょっと早いけどお昼にしよっか」
というわけで俺たちはそれぞれ屋台で食いもん買ってきて、木組みの仮設舞台の前に並んだ竹の長床几(ベンチ)で早めの昼食を取ることにした。仮説舞台の上では創作魔術『みかんの皮が一瞬でむける術』の発表がおこなわれている。
「あつっ、たこ焼きあつっ」
玲萌がはふはふしながら、
「樹葵のそれ、焼きそば?」
「うん。塩焼きそばだよ」
「あたしもそれ迷ったのよね~ 半分こしない?」
「するする」
ぶんぶんと首を縦に振る俺。美少女と焼きそば半分ことか、生きててよかったぜ。
「じゃあ樹葵、あーーーん」
いきなり玲萌が俺の口もとにたこ焼きを持ってくる。えっ、半分こってお互いに食べさせあうのか!?
「橘さま、それよりわたくしの買ったじゃがばたーいかがです?」
惠簾もじゃがいもを切り分けて差し出してくる。
「ほら樹葵、たこ焼きパクって行っちゃいなさいよ」
「ふうふうふう。橘さま、稀代の巫女の吐息がけじゃがばたーですわよ!」
ええ…… これどーしたら――
美少女ふたりに餌付けされて困っていた俺を助けたのは夕露だった。
「あ、いいな! わたしにもあーんってして、おにいちゃん!」
甘えた声を出しながら、俺に焼き鳥の串をひとつ持たせる。
「ハハハ、食べさせてほしいのか? 赤ちゃんみたいだぞ」
俺はこれ幸いと夕露に焼き鳥を食わせる。だって玲萌のタコか惠簾の芋か選んだら角が立ちそうじゃん……
「あ、あっちのほうがよかったかも」
玲萌が小声でつぶやいた。
午後も俺たちは、凪留たち召喚魔術専攻が毛の生えている召喚獣たちを集めて開いている『モフモフふれあいカフェ』をのぞいたり、バカでかい紙の上に米粒ひとつ乗せただけで『存在 ~私と世界~』とか題名つけてる『有志による先端美術展』を観に行ったりと、学園祭を満喫した。
そしていよいよ俺たち生徒会員による舞台『魔王の娘は護衛の騎士と逃げ出したい』の時間となった。学園祭の雰囲気にどっぷりと浸かっていた俺たちは、すっかり土蜘蛛のことなんか忘れていたのだ。
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