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波の屋から──────ダストタウンの策略
しおりを挟む「俺たちゃ億万長者になる。それが条件だ」
「で? また古傷を増やすのかい?」
「こりゃ勲章だぜ。少なくとも俺はそう思っているよ」
「顔半分メタルになるのがかねえ……………」
筋骨隆々の「スネーク」の浅黒い肌は赤く染まっている。まあ誰だってクロスビーの酒場で10分も居ればそうなる。普通なら20分も居れば歯の半分は床に散らばっているだろう。世の中はそんなのが普通だ。しかしながらクロスビーの店には美味いメスカルは無論のこと、豚のガツを煮込んだトルティーニャもどきには評判がある。なにしろ鷹の爪を一人前で1ダースは使う。人によっては(根性のあるやつなら)「カラミゲンA」というパウダーを山ほどかける。
言われた通り「スネーク」の左目から顎にかけてはステンレス・スティールで覆われている。話す時には無骨な蝶番が雑音を撒き散らす。それはかつて<塩>を求めて「門番」と戦った時に作ったものだ。ステゴザウルスのような鋼鉄の化け物とやりあって生き残った人間は今の所彼しかいない。
「政府からな、オファーがあった。それで俺りゃあ条件をつけた。今度のは凄いぜえ?あの化け物を塵にしてこましたるわ」
「昔もそんな事言ってなかったっけ」
「ありゃあな、俺が迂闊だったってことだけだ。ちゃんと準備さえすればよかった」
「準備すりゃあ勝てるのかよ、あの妖怪によお」
「勝てるともさ。ほとんど機械だって形だけでも人間だからな。人間は死ぬんだ。そうじゃねえかい?」
「……………たしか以前は対空用のガトリングガンだったよな」
「おうさ! しかしな、人間だと勘違いしてたからああなった。最初から化け物と考えりゃモノゴトは難しくなんかねえんだよ」
「何を使うんだい?」
「スネーク」は「特別製」を一気に煽る。アルコール分98%のナイスな蒸留酒だ。
「そこらへんはまだ内緒だがな。スタッフがいる。どうだ? 金持ちになりたくはねえか? お前以前にゲリラでトラップの専門家だったって言うじゃねえか。そういうインテリがな、今回は必要なんだよ。
語りかけられた男は「クロスビーの店」でもう5回も喧嘩に負けて歯を三本テーブルに並べていた。この店には似つかわしくない神経質そうな華奢な男だ。「不機嫌なマハ」と呼ばれている。
「歯医者にも金がかかるしなあ」マハは言うと、ストロチナワヤの58%を口にする。クロスビーの店で40%以下の酒など望んでも無駄だ。
「スネーク」は我が意を得たりといった「ドヤ顔」で頷く。
「よおおおしっ、お前は男だ。しかも英雄だ。俺がチェーザレ・ボルジアならお前はニッコロ・マキャベリってとこだな。どうだ? このチリは美味いぜっ」
真紅の煮込みが盛られた皿は半分溶けかかっていたのでマハは慎ましくも遠慮した。
「俺はまだ顔半分金属製じゃないんでね」
スネークは大笑いしてマハの背中をどついた。
また一本歯が飛び散ったが、おおかた前から緩んどったのだろう。
「善哉、善哉。旅は道連れ。共に散ろうか桜のように!」
「残念だけど散りたくはないんだ」
「ん? だから言っているじゃねえか。散るのは「塩の湖の化け物さ。うわはははははっ」
「……………だといいんだけどね」
「クロスビーの店」では同時に三つの喧嘩が起こっていた。ひとりは腹にナイフを刺されたまま火搔き棒で相手の頭を割り、もう一方では頭を鷲掴みにされた男が靴に仕込んだ飛び出しナイフで相手の首を蹴り飛ばし、肥満した男が暖炉に首を突っ込まれ焼き加減はウェルダンになっている。ナイスバディな女は盛った毒で死にかけた男の財布を掠め取り金を取ろうとした男の手のひらはアイスピックでカウンターに釘付けにされていた。
いつも通りの光景に「スネーク」はほっとしながら手配書を破り取り「マハ」と作戦の打ち合わせを始めていた。
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