捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ

文字の大きさ
10 / 21

10 人気の真相(義姉視点)

しおりを挟む
「どうしてお茶会を開いたらいけないのっ!?」

「はぁ~。だから我が家には、そんな金はもうないと言っているではないか。夜会用のドレスはあるのだろう? それなら夜会まで我慢しなさい」

「お父様のわからずや!」

 お兄様とお母様が、あの土臭い女を追い出してから、お父様は変わってしまったわ。
 今までだったら、お茶会を開いても文句を言わず、新しいドレスを買ったら褒めてくれていたのに、あの日を境に小言ばかり。
 お兄様やお母様にも辛く当たってばかりで……まったく、あんな女一人居なくなったくらいで何だっていうのよ!

「ジュリエット。また、お父様に無茶を言ったそうだね」

「お兄様! 無茶なんて言っていませんわ。わたくしはただ以前のようにお茶会を開きたいといっただけですわ」

「ジュリエット……いま、我が家は大変なんだよ。領主の座を下された俺までも、駆けずり回らなくてはならないくらいにね」

「知りませんわ! 殿方はお金を稼ぐのが楽しいのでしょう? だったら淑女はお茶会を開いて綺麗に着飾るのが楽しいのですわ!」

 お兄様は残念なものを見るような眼で見てくるけれど、本当のことでしょう?
 だって、お父様なんて商談があるといって一年の半分は家にいないし、お兄様だって王都に行ったきり戻ってこない時期があったじゃない。
 だったら淑女である、わたくしやお母様がそのお金を使って着飾るのは正しいことでしょう?

「と、とにかく。我が家は以前のような状態ではないんだ。ジュリエットも大人しくしていてくれ」

 そう話すと、お兄様はふらふらしながらも、わたくしの前から去っていった。
 もう! お父様もお兄様も! お茶会がどれだけ大事かわかっていないわ!
 近隣の令嬢や夫人を呼んで開催されるお茶会は、淑女にとっての戦い! これによって結婚相手が変わるっていうのに!

 まあいいわ。夜会に出る確約はもらえたし、わたくしの魅力は夜会でみんなに知ってもらいましょう。
 ふふふ、今から楽しみだわ。以前の夜会では伯爵令息や、侯爵令息がダンスに誘ってくれたのよね。

――――――

 お兄様にエスコートされて夜会に来たけれど、この華やかな空気は本当に素晴らしいわ。
 ドレスも製作したばかりのもので、わたくしにピッタリだし、今日の主役ね。

「……ほら、あれがペルヴィス家だぞ」

「……ああ、あれが降爵するって噂の?」

 おかしいわね? いつもだったら、我が家が夜会に参上すれば、たちどころに人垣ができるっていうのに、今日はひそひそしてるだけ?

「みなさん、どうしたのかしら? いつものようにお喋りしていただけない?」

 お兄様のエスコートから抜け出して、いつもお茶会をしている令嬢たちの輪に入っていく。

「……なにかしら? まさか私たちに話しかけているわけではないわよね」

「ふふ、あり得ませんわ。爵位が下の者が許しも得ずに話しかけるなど」

「そうですわよね」

 なによなによ! いつもだったら、ジュリエット様って慌ててくるのに無視するってこと!?
 それに爵位が下!? あなたたちだって子爵令嬢なのだから、同じでしょ!

「ジュリエット、みなさまの邪魔をしてはいけないよ」

「ちょっと! お兄様! 邪魔をしないでちょうだい!」

「ジュリエット……屋敷でも説明したが、我が家は男爵家になったのだ。今までと同じようにしてはいけないよ」

「だからと言って、あんな失礼を許すの!?」

「ジュリエット……そろそろ黙れ! お前もマリーを追い出すのに加担しただろう? その報いを受けているのだと、なぜわからない!?」

 それまで優しかったお兄様が、急にあの出来損ないのマリーに話しかけるような口調になった。
 なぜ? どうして? という感情よりも先に怖いと感じてしまった。
 それにマリーを追い出すのに加担した? それはお兄様が考えて実行したことで、わたくしは関係ないじゃない。

「いやっ!」

 怖いお兄様から逃げるように、会場を早足で歩き続ける。
 足はお兄様の方が早いから、てっきり追いかけてくるかと思ったけど、お兄様は失望したような顔でこちらを睨むばかり。

「伯爵令息様、侯爵令息様、助けてください」

 このお二人は以前の夜会でダンスを誘ってくださった令息……だったら、助けてといえば、お兄様からわたくしを助けてくれるはずだわ。

「ははっ、助けてだって」

「助けて差し上げたらよろしいのでは?」

「いやだよ。マリー嬢のいない……もとい、ポーションのないペルヴィス家なんて何の価値もないじゃないか」

「まあ、そうですね。でも、私はポーションだけでなくマリー嬢にも興味はありましたよ」

「ほう?」

「だって、あのラージュ家の血筋ですよ? ポーション以外にも素晴らしい知識を有しているかもしれないじゃないですか」

「なるほど。確かにペルヴィス領では美容品なんかも特産だと聞いたな。令嬢たちが噂してた」

「ですよ。母もお気に入りでしたが、マリー嬢がいなくなった時期から手に入らなくなったって嘆いていますよ」

「伯爵夫人が? あの美しいご婦人が褒めるのなら相当だね。マリー嬢がいなくなる前に粉をかけておけば良かったかな」

「無理ですよ。マリー嬢はお茶会はおろか夜会にも出てきませんでしたし、ペルヴィス家もラージュ家も取り合わなかったですからね」

「そうだそうだ」

 なにを……何を言っているの? どうして、わたくしが困っているのに助けるよ、の一言もないの?

「お……お二方」

「……ああ、まだいたんだ。平民のお嬢さんが来るところじゃないよ。とっとと帰りな」

「まだ男爵令嬢ですよ」

「ははっ、どっちにしたって俺や伯爵令息に気軽に話しかけていい立場じゃないね」

「まあ、それには同意しますね。ペルヴィス家のお嬢さん、今回の無礼は見逃しますから、早めに帰宅なさい」

「そ……そんな」

「私たちは関わりがないのでペルヴィス家に対して思うところはありません。ですが、夜会に参加している人全員がそうではないのですよ」

「マリー嬢を逃がしたことは恨んでいるけどな」

「まぜっかえさないで下さい」

「う……恨みって。商売の話ならわたくしは関係ないじゃない!」

「おいおい、マジで言ってる? ペルヴィス家の令嬢といえばお茶会をメチャクチャにすることで有名だぜ?」

「お茶会をメチャクチャになんてしていないわ! わたくしの美貌に嫉妬した方の勝手な噂ですわ」

 確かに十代中頃には、わたくしの酷い噂が出回って、お茶会に呼ばれなくなったこともあったわ。
 でも、すぐに噂は解消されたもの。

「私も聞いたことありますよ。曰く、ペルヴィス家の令嬢はお茶会で商談もせず、人脈も作らず、ドレスや宝石の自慢ばかりしていたと」

「お茶会よ! 綺麗なことを自慢して何が悪いの!?」

「ははっ……マジで言ってる?」

「お嬢さん。お茶会というのは商談と人脈形成の場です。自領の特産品を紹介し、他領の特産品の話を聞く。ペルヴィス家は美容品が特産品でしたから、美貌をみせつけることは間違っていません。ですが、それなら他領に美容品を販売したり、原材料を仕入れる話をしなければなりません」

「まるでガキだな。こんな基礎中の基礎を知らないで、貴族を名乗ってるなんて、陛下が知ったらブチ切れるんじゃないか?」

「本当に、陛下がやってくる前でよかったですよ。……ああ、そこの給仕。こちらのお嬢さんが、体調を崩しています。休憩室に案内して、ご家族……ペルヴィス男爵を呼んで差し上げなさい」

「はっ」

「おっ、使用人を呼んでやるなんて優しいじゃん」

「一応、前回の夜会では人脈形成のためとはいえ、ダンスに誘いましたからね。そちらも、義理はあるのでは?」

「結局、身になる話はなかったし、ノーカンだね。知ってるかい、お嬢さん。あんたが嫌われてるのは夜会でも身になる話ができていないからだぜ?」

 伯爵令息と侯爵令息の笑い声がする中、わたくしは給仕に引きずられるようにして休憩室へと案内された。
 商談って……人脈形成って……なによ、そんなの知らないわよ! だって、お母様は美しさを自慢すれば良いって……お父様もお茶会に出席すれば、それだけで良いって。
 その後やってきたお父様にもお兄様にも叱られたけれど、お母様だけはわたくしをかばってくれた。
 でも、伯爵令息と侯爵令息の話していた言葉ばかりが、わたくしの頭の中をぐるぐると回り、それしか考えられなくなっていたの。
 わたくしがこれまでしていたことって? 他の人もわたくしではなく、マリーなんかの影を追っていたってこと?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。 色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。 それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。 王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。 しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。 ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます

あねもね
恋愛
本日、パストゥール辺境伯に嫁ぐはずの双子の妹が、結婚式を放り出して私の婚約者と駆け落ちした。だから私が代わりに冷酷無慈悲な死神卿と噂されるアレクシス・パストゥール様に嫁ぎましょう。――妹が連れ戻されるその時まで! ※一日複数話、投稿することがあります。 ※2022年2月13日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...