36 / 140
幼少期
36 父上との打ち合わせ
しおりを挟む
「全く面倒なことをしてくれたな」
王都について、父上のいる宿について開口一番に言われたのがこの言葉だ。
長旅に耐えた子供に労いの言葉もないのか、と言いたいが、疲れ果てている父上の姿を見ると文句を言うこともできない。
「申し訳ありません」
「……いや、こちらも悪かった。陛下はもちろん、中央貴族にもおべっかを使われたりでピリピリしていた」
「こちらもここまでの騒ぎになるとは」
「確かにな。辺境領にとってダンジョン攻略は昔話ではあっても身近なものだ」
「はい。我が領でも海洋交易が盛んになったことでダンジョン攻略は後回しになっていましたが、爺様からは攻略者の話は聞いていましたので」
「だな。私も父上や爺様に聞いていたからここまでの騒ぎになるのは驚きだ。……というか、爺様、マックスにとっては曾祖父にあたるが、爺様はダンジョン攻略者だしな」
「ですよね。それは爺様に聞いています。自分の父親がダンジョンを攻略したと」
なんだよな。ゲーム内……特に中央領の人間にとってダンジョン攻略は偉業だけど、辺境に住む者にとっては昔話にはなっていても日常なんだ。
だからこそ、辺境に住み続けるものにとってダンジョン攻略はそこまで大騒ぎするものじゃない。
「はあ、今日は到着したばかりだから仕方がないということにしてあるが、明日には陛下との謁見がある」
「早速ですか」
「陛下も王都貴族もお前を待っていたのだ」
「父上もですね」
「……そうだ。陛下は純粋にダンジョン攻略を称えるつもりだが、王都貴族は疑っている」
「でしょうね。こんな子供がダンジョンを攻略したなど、自分たちの落ち度を認めるようなもの……王都貴族は認めないのでは?」
「王都貴族はそれほどでもないな。王宮や王都から出ない王都貴族は国王派が多い。認めないのは王都周辺の中央貴族だ」
「……ふむ。明日は中央貴族は?」
「数人は来ているが、それほど数は多くないな。子飼いを王宮に派遣している連中だけだ」
「面倒なのは?」
「婚約の取りやめで面子を潰されたエルメライヒ公爵だろうな。その他は西側貴族だから交流がない」
そうか、ラスボス悪役令嬢の父親、エルメライヒ公爵も来ているのか。
婚約自体はエルメライヒ公爵とは関係がないというか、ミネッティ伯爵とゲルハルディ伯爵の取り決めだったが、寄り親としての面子もあるからな。
「私としては勇者の称号を受け取るつもりはありません」
「……ほう?」
「そもそも勇者は平民が偉業を成した際の称号。貴族が受け取るべきではないでしょう」
「確かにな」
「ダンジョン攻略の褒美には勇者制度の撤廃と、緊急時面会権を求めようかと」
「ふむ」
緊急時面会権とは、国王陛下への謁見順番を飛ばせる権利で、これを行使すると即座に陛下との謁見が可能となる。
謁見時の申し出が正当なものならば権利の行使とはみなされず、不当な要件だとその場で緊急時面会権がはく奪される。
これがあれば、学園に通ってから主人公やメインヒロインが問題を起こした場合でも陛下に物申すことができるって寸法だ。
「この2つならば、中央貴族も強くは言えないのでは?」
「確かにな。陞爵や軍備増強、他領のダンジョン攻略権ならば騒ぎそうだな。……だが、ゲルハルディ領にとって旨味がなさすぎではないか?」
「私のような子供でも工夫をすればダンジョンの攻略は可能。ならば、他領の貴族が支援を行い傀儡の勇者を作り上げることもあるでしょう。そうなった場合にゲルハルディ領内をウロウロされる方が厄介でしょう」
「……ふむ」
「それに数年後には私やレナが貴族学園に通いますが、同年代には第三王女もいます」
「……問題を起こすと?」
「ミネッティ伯爵令嬢がアレだったのです。第三王女が影響されないとは言えないでしょう」
「その時への布石か」
「ま、その前に周辺領との摩擦もあり得ますからね」
「あるか? 言ってはなんだが、ゲルハルディ領と事を構えられる貴族は少ないぞ?」
「北東辺境伯との間にはエルメライヒ公爵の同盟貴族がいるでしょう? 南辺境伯との間にも中央貴族とつなぎを持っている貴族がいたはずです」
「……ふむ」
「意外と多いですよ。我が領の敵は」
「確かに、どこもかしこもがテオの所のようにはいかんのも事実か」
この辺りはゲーム知識というか、前世の幼なじみの話もあるが、領主教育の一環で教えられている項目だ。
ゲルハルディ伯爵を寄り親として慕ってくれている貴族がいる一方、こちらを目の敵にしている貴族がいるのもまた事実。
ゲームとは違う行動をしている以上、何が起こるかもわからないし手札は多い方が良いだろう。
「わかった。その方向性で良いだろう。……だが、陛下が拒否した場合には従え」
「わかっておりますよ。これでもゲルハルディ伯爵を継ぐ身ですからね」
「わかっているのならよい」
王都について、父上のいる宿について開口一番に言われたのがこの言葉だ。
長旅に耐えた子供に労いの言葉もないのか、と言いたいが、疲れ果てている父上の姿を見ると文句を言うこともできない。
「申し訳ありません」
「……いや、こちらも悪かった。陛下はもちろん、中央貴族にもおべっかを使われたりでピリピリしていた」
「こちらもここまでの騒ぎになるとは」
「確かにな。辺境領にとってダンジョン攻略は昔話ではあっても身近なものだ」
「はい。我が領でも海洋交易が盛んになったことでダンジョン攻略は後回しになっていましたが、爺様からは攻略者の話は聞いていましたので」
「だな。私も父上や爺様に聞いていたからここまでの騒ぎになるのは驚きだ。……というか、爺様、マックスにとっては曾祖父にあたるが、爺様はダンジョン攻略者だしな」
「ですよね。それは爺様に聞いています。自分の父親がダンジョンを攻略したと」
なんだよな。ゲーム内……特に中央領の人間にとってダンジョン攻略は偉業だけど、辺境に住む者にとっては昔話にはなっていても日常なんだ。
だからこそ、辺境に住み続けるものにとってダンジョン攻略はそこまで大騒ぎするものじゃない。
「はあ、今日は到着したばかりだから仕方がないということにしてあるが、明日には陛下との謁見がある」
「早速ですか」
「陛下も王都貴族もお前を待っていたのだ」
「父上もですね」
「……そうだ。陛下は純粋にダンジョン攻略を称えるつもりだが、王都貴族は疑っている」
「でしょうね。こんな子供がダンジョンを攻略したなど、自分たちの落ち度を認めるようなもの……王都貴族は認めないのでは?」
「王都貴族はそれほどでもないな。王宮や王都から出ない王都貴族は国王派が多い。認めないのは王都周辺の中央貴族だ」
「……ふむ。明日は中央貴族は?」
「数人は来ているが、それほど数は多くないな。子飼いを王宮に派遣している連中だけだ」
「面倒なのは?」
「婚約の取りやめで面子を潰されたエルメライヒ公爵だろうな。その他は西側貴族だから交流がない」
そうか、ラスボス悪役令嬢の父親、エルメライヒ公爵も来ているのか。
婚約自体はエルメライヒ公爵とは関係がないというか、ミネッティ伯爵とゲルハルディ伯爵の取り決めだったが、寄り親としての面子もあるからな。
「私としては勇者の称号を受け取るつもりはありません」
「……ほう?」
「そもそも勇者は平民が偉業を成した際の称号。貴族が受け取るべきではないでしょう」
「確かにな」
「ダンジョン攻略の褒美には勇者制度の撤廃と、緊急時面会権を求めようかと」
「ふむ」
緊急時面会権とは、国王陛下への謁見順番を飛ばせる権利で、これを行使すると即座に陛下との謁見が可能となる。
謁見時の申し出が正当なものならば権利の行使とはみなされず、不当な要件だとその場で緊急時面会権がはく奪される。
これがあれば、学園に通ってから主人公やメインヒロインが問題を起こした場合でも陛下に物申すことができるって寸法だ。
「この2つならば、中央貴族も強くは言えないのでは?」
「確かにな。陞爵や軍備増強、他領のダンジョン攻略権ならば騒ぎそうだな。……だが、ゲルハルディ領にとって旨味がなさすぎではないか?」
「私のような子供でも工夫をすればダンジョンの攻略は可能。ならば、他領の貴族が支援を行い傀儡の勇者を作り上げることもあるでしょう。そうなった場合にゲルハルディ領内をウロウロされる方が厄介でしょう」
「……ふむ」
「それに数年後には私やレナが貴族学園に通いますが、同年代には第三王女もいます」
「……問題を起こすと?」
「ミネッティ伯爵令嬢がアレだったのです。第三王女が影響されないとは言えないでしょう」
「その時への布石か」
「ま、その前に周辺領との摩擦もあり得ますからね」
「あるか? 言ってはなんだが、ゲルハルディ領と事を構えられる貴族は少ないぞ?」
「北東辺境伯との間にはエルメライヒ公爵の同盟貴族がいるでしょう? 南辺境伯との間にも中央貴族とつなぎを持っている貴族がいたはずです」
「……ふむ」
「意外と多いですよ。我が領の敵は」
「確かに、どこもかしこもがテオの所のようにはいかんのも事実か」
この辺りはゲーム知識というか、前世の幼なじみの話もあるが、領主教育の一環で教えられている項目だ。
ゲルハルディ伯爵を寄り親として慕ってくれている貴族がいる一方、こちらを目の敵にしている貴族がいるのもまた事実。
ゲームとは違う行動をしている以上、何が起こるかもわからないし手札は多い方が良いだろう。
「わかった。その方向性で良いだろう。……だが、陛下が拒否した場合には従え」
「わかっておりますよ。これでもゲルハルディ伯爵を継ぐ身ですからね」
「わかっているのならよい」
197
あなたにおすすめの小説
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる