56 / 140
幼少期
56 アンナの結論
しおりを挟む
「で、どうだった、アンナ?」
「……お兄様、本当に平民の方はあのように毎日を過ごしているんですの?」
帰りの馬車に乗り込み、アンナに今日の感想を聞くとおずおずとした様子で質問をしてきた。
「邪魔になっても悪いから忙しい時間帯は避けたが、おおむねその通りだな。もちろん、繁忙期には今日の比じゃないがな」
「繁忙期?」
「アンドレ商会ならユリア姉さんが商談から帰ってきた後、串焼き屋は祭りの日、農家なら麦の収穫期だな。繁忙期には従業員や一族総出で仕事をしても手が足りないというほどだ」
「そうね。南大陸から商品を持って帰ってきた後は、お客様も増えるからやっぱり大変ね」
「……今日以上に」
「アンナ、平民は遊んで暮らしていたかい?」
「……いいえ、お兄様」
「平民は勉強をせずに暮らしていたかい?」
「いいえ、お兄様。私が想像していた生活とはかけ離れていました。平民の方々は自分でできる範囲で仕事をし、自分でできる範囲で勉強なさっていました」
「ま、確かにアンナの言うように貴族の勉強に比べたらなんてことのないことだろうな」
「いいえ、お兄様! 私が間違っていました」
「いや、アンナ。俺が悪かったんだ。本当はアンナにも領民との交流をさせるべきだったのに、俺が領地を空けることが多かったから交流の時間が取れなかった」
ゲームの本来のシナリオだと、領地には妹二人に母上と父上、それに爺様が残っていて、アンナには次期領主としての教育が行われているはずだった。
だが、ゲームのシナリオが崩れて俺が次期領主になったことで、アンナの教育は後回しに。
しかも、ダンジョン攻略だの王都に呼ばれてだのと重なったことで、領地には妹二人と母上、それにレナだけが残される形になることが多かった。
母上は末妹のカリンの世話とレナを次期領主夫人にするための教育、それに自身の執務に追われてしまった。
結果的にアンナの教育は教師に任せっきりで、たまに我が家に訪れるユリア叔母さんに懐いてしまうのも仕方がないというもの。
「お兄様、でも私疑問ですの。本当に貴族の教育は必要なものなのですの?」
「うーん、まあ必要かどうかと言われれば必要ないものもあるにはあるぞ。俺は次期領主としてこの国の言葉、南大陸語、公用語の3つを習っている」
「はい、私も貴族としてこの国の言葉と南大陸語を習っています」
「だけど、この国で過ごすだけなら南大陸語も公用語も必要ない」
「そう……なんですの?」
「南大陸語が必要なのはバルディ領……つまりは港に訪れる南大陸人との交渉のためで、ゲルハルディ家の人間に必須というわけではない。公用語も北にある友好国との交流に必要なものだな」
「必要……ない」
「でも、ユリア姉さんのようになりたいなら南大陸語は必須だ。ユリア姉さんは南大陸語が誰よりも達者だからな」
「そうね、レナの叔父さん。バルディ領の領主よりも、トーマスよりも達者だからこそ、私が交渉の矢面に立っているのだしね」
ま、ユリア叔母さんが交渉しているのはソレだけが理由じゃなくて、貴族教育で培った教養の高さや交渉能力の高さにも所以しているのだが。
「で、アンナ。これからどうする? ユリア姉さんのようになるために勉強を放棄するかい?」
「いいえ、お兄様。私がこれからどうなるかは、またきちんと考え直します。でも、何になるにしてもきちんとお勉強はしたいと思います」
「うんそうだね。ユリア姉さんのように平民に嫁いでもいいし、爺様の妹、大叔母さんのように貴族に嫁いでもいい。父上の弟や爺様の弟のように文官としてゲルハルディ領で働いてもいい。何になるのもアンナの自由だよ」
「アンナがアンドレ商会に来るなら歓迎するよ! でもね、やっぱりお勉強をしていないと大変だよ」
「父上に聞いたら、ユリア姉さんは貴族学園でも上位の才媛だったらしいね」
「昔の話。今は愛する人に嫁いだただの平民だよ。貴族連中には笑いものになってるんじゃない?」
「いやいや、愛を貫いたって話題らしいよ。平民を好きになる貴族は多いらしいけど、結局愛人にしたり第二夫人にしたりで、自分が平民になるって貴族はほとんどいないし」
これは父上にも母上にも言われているから本当。愛した平民を娶った貴族は多いが、結局貴族として働けず、屋敷で囲ってる人間は多いらしい。
その点、ユリア叔母さんは自分が平民になり、貴族としての教養も活かして過ごしているということで、そういった自分本位な貴族を嫌っている人間に評判なのだ。
「そんなもんかねぇ」
「アンナ。……アンナは平民だからユリア姉さんに憧れたのかい?」
「違います! お姉さまの生き方に憧れたのです!」
「だよね。じゃあ、カッコいいユリア姉さんのようになるために、勉強も頑張らないとね」
「……お兄様、本当に平民の方はあのように毎日を過ごしているんですの?」
帰りの馬車に乗り込み、アンナに今日の感想を聞くとおずおずとした様子で質問をしてきた。
「邪魔になっても悪いから忙しい時間帯は避けたが、おおむねその通りだな。もちろん、繁忙期には今日の比じゃないがな」
「繁忙期?」
「アンドレ商会ならユリア姉さんが商談から帰ってきた後、串焼き屋は祭りの日、農家なら麦の収穫期だな。繁忙期には従業員や一族総出で仕事をしても手が足りないというほどだ」
「そうね。南大陸から商品を持って帰ってきた後は、お客様も増えるからやっぱり大変ね」
「……今日以上に」
「アンナ、平民は遊んで暮らしていたかい?」
「……いいえ、お兄様」
「平民は勉強をせずに暮らしていたかい?」
「いいえ、お兄様。私が想像していた生活とはかけ離れていました。平民の方々は自分でできる範囲で仕事をし、自分でできる範囲で勉強なさっていました」
「ま、確かにアンナの言うように貴族の勉強に比べたらなんてことのないことだろうな」
「いいえ、お兄様! 私が間違っていました」
「いや、アンナ。俺が悪かったんだ。本当はアンナにも領民との交流をさせるべきだったのに、俺が領地を空けることが多かったから交流の時間が取れなかった」
ゲームの本来のシナリオだと、領地には妹二人に母上と父上、それに爺様が残っていて、アンナには次期領主としての教育が行われているはずだった。
だが、ゲームのシナリオが崩れて俺が次期領主になったことで、アンナの教育は後回しに。
しかも、ダンジョン攻略だの王都に呼ばれてだのと重なったことで、領地には妹二人と母上、それにレナだけが残される形になることが多かった。
母上は末妹のカリンの世話とレナを次期領主夫人にするための教育、それに自身の執務に追われてしまった。
結果的にアンナの教育は教師に任せっきりで、たまに我が家に訪れるユリア叔母さんに懐いてしまうのも仕方がないというもの。
「お兄様、でも私疑問ですの。本当に貴族の教育は必要なものなのですの?」
「うーん、まあ必要かどうかと言われれば必要ないものもあるにはあるぞ。俺は次期領主としてこの国の言葉、南大陸語、公用語の3つを習っている」
「はい、私も貴族としてこの国の言葉と南大陸語を習っています」
「だけど、この国で過ごすだけなら南大陸語も公用語も必要ない」
「そう……なんですの?」
「南大陸語が必要なのはバルディ領……つまりは港に訪れる南大陸人との交渉のためで、ゲルハルディ家の人間に必須というわけではない。公用語も北にある友好国との交流に必要なものだな」
「必要……ない」
「でも、ユリア姉さんのようになりたいなら南大陸語は必須だ。ユリア姉さんは南大陸語が誰よりも達者だからな」
「そうね、レナの叔父さん。バルディ領の領主よりも、トーマスよりも達者だからこそ、私が交渉の矢面に立っているのだしね」
ま、ユリア叔母さんが交渉しているのはソレだけが理由じゃなくて、貴族教育で培った教養の高さや交渉能力の高さにも所以しているのだが。
「で、アンナ。これからどうする? ユリア姉さんのようになるために勉強を放棄するかい?」
「いいえ、お兄様。私がこれからどうなるかは、またきちんと考え直します。でも、何になるにしてもきちんとお勉強はしたいと思います」
「うんそうだね。ユリア姉さんのように平民に嫁いでもいいし、爺様の妹、大叔母さんのように貴族に嫁いでもいい。父上の弟や爺様の弟のように文官としてゲルハルディ領で働いてもいい。何になるのもアンナの自由だよ」
「アンナがアンドレ商会に来るなら歓迎するよ! でもね、やっぱりお勉強をしていないと大変だよ」
「父上に聞いたら、ユリア姉さんは貴族学園でも上位の才媛だったらしいね」
「昔の話。今は愛する人に嫁いだただの平民だよ。貴族連中には笑いものになってるんじゃない?」
「いやいや、愛を貫いたって話題らしいよ。平民を好きになる貴族は多いらしいけど、結局愛人にしたり第二夫人にしたりで、自分が平民になるって貴族はほとんどいないし」
これは父上にも母上にも言われているから本当。愛した平民を娶った貴族は多いが、結局貴族として働けず、屋敷で囲ってる人間は多いらしい。
その点、ユリア叔母さんは自分が平民になり、貴族としての教養も活かして過ごしているということで、そういった自分本位な貴族を嫌っている人間に評判なのだ。
「そんなもんかねぇ」
「アンナ。……アンナは平民だからユリア姉さんに憧れたのかい?」
「違います! お姉さまの生き方に憧れたのです!」
「だよね。じゃあ、カッコいいユリア姉さんのようになるために、勉強も頑張らないとね」
196
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ソードオブマジック 異世界無双の高校生
@UnderDog
ファンタジー
高校生が始める異世界転生。
人生をつまらなく生きる少年黄金黒(こがねくろ)が異世界へ転生してしまいます。
親友のともはると彼女の雪とともにする異世界生活。
大事な人を守る為に強くなるストーリーです!
是非読んでみてください!
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる