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幼少期
83 犠牲になった領民
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「ゲルハルディ伯爵令息様、こちらが犠牲者の安置所です」
「ああ、ありがとう」
バルディ家に仕える執事に案内され、俺たちは安置所までやってきた。
詳しく聞くと、大型船に近づきすぎた漁船は大型船からの攻撃にさらされ、航行不能状態に。
乗っていた船員は漁船もろとも大型船に引きつぶされたが、遺体は大型船が離れたすきに他の漁師が回収したとのことだ。
「レナ、この先は見たくないものもあると思う。無理に一緒に来なくてもいいんだよ?」
「マックス様、大丈夫です。私も貴族として、領主一族として、きちんと向き合わなければならないですから」
俺もクルトも……騎士団に所属する人間は野盗の討伐や、モンスターに襲われた民間人の遺体回収などで人の死というものに立ち会った経験がある。
だからこそ、犠牲となった領民の姿を見ても、そこまでの嫌悪感はないが、レナはそうではないだろう。
レナは俺の影としての教育は受けていたものの、5歳からは次期領主夫人としての教育が始まり、実戦での経験が圧倒的に不足している。
だから、安置所には俺とクルトだけが中に入ろうと思っていたのだが、レナはバルディ領の領主一族として一緒についてくるらしい。
「わかった。……クルトは念のためついてきてくれ。他の者は入口で警戒するように」
「「「「「はっ!」」」」」
安置所の中には石造りのベッドが用意され、そこには3人の男性の遺体が安置されていた。
近々葬儀が行われるのか、遺体の傷は完全に修復され、簡素ではあるものの粗末ではない衣服も着せられていた。
「……っ」
思わず絶句してしまう。
これまでにも遺体には立ち会ってきたが、それは領民ではなく他領からやってきた野盗だったり、領間を移動している自由民……冒険者だったり、旅商人だった。
だから知らなかった。
自分の守るべき……いわば子供とでも呼ぶべき存在が亡くなった時、人はこんなにも深い悲しみに襲われるということに。
「……俺の……せいだ」
「マックス様……決してマックス様のせいではありません。私たちは全速でこちらへとやってきたではありませんか」
レナが俺を励ましてくれる。
そう、わかっている。俺たちは全速力でここへとやってきた。
「レナ……3人のことがわかるか? マリオとフィル、それにジャックだ」
「マックス様、わかりますよ。マックス様とバルディ領へやってきたときにお話しした人たちですよね」
「そうだ。マリオは気風のいい男で、俺とレナを漁船に乗せてくれたな」
「……はい」
「フィルはマリオの息子で、いつかマリオのような漁師になると頑張っていた」
「……はい」
「ジャックは3年前の嵐で漁船が壊れたから友人のマリオの船に乗せてもらっていると言っていたな。息子に漁船を引き継がせるために金を稼いで、漁船を直すんだって」
「……はい」
俺もレナもゲルハルディ領にいることが多く、バルディ領にいた時間は短い。
3人とも1、2度出会っただけで、それほど深い交流していたというわけではない。
それでも、次から次へとポロポロと涙が溢れてくるのを、俺もレナも抑えることは出来なかった。
領主として大を救うために小を切り捨てる覚悟はある。
それでも! 人としてこの気持ちは忘れてはダメだ!
犠牲となったものを悲しむこの気持ちを捨ててしまったら、俺は貴族にはなれても人ではなくなってしまう。
この世界はゲームを模してはいても、現実だ。
リセットしてロードすれば、どんな悲しいことでもなくなるわけではない。
死んだ人間は何をしても生き返ることはない。
「レナ、クルト、やるぞ」
「……やる?」
「3人の弔い合戦というわけじゃない。俺はゲルハルディ領の次期領主として、ヴァイセンベルク王国に降りかかる災難を避けるためにバルディ領の領民を不当に殺した大型船を駆逐する」
「戦……というわけですね」
「ああ、クルトの言うとおりだ。アントンには戦力を集めるように言ったが、撃退するだけで十分だと思っていた。……だが、気が変わった」
「徹底的にやるのですね?」
「そうだ! 少なくともバルディ領の領民が受けた恐怖分は奴らに返さなければ割に合わん! ……2人とも、ついてきてくれるか?」
「もちろんです! マックス様を守るのは私の役目ですから!」
「護衛として派遣されているのですから、マックス様とレナ様の傍にいるのは当然でしょう」
陸戦ならともかく、海戦となれば、俺もそうだが、2人にとっても未知の領域。
だからこそ、2人の覚悟を問うように言ったが、そんな配慮は必要なかったようだ。
次期領主としては失格かもしれないが、これから始まるのは弔い合戦だ!
絶対にヴァイセンベルク王国に攻め入ってきたことを後悔させてやる!
「ああ、ありがとう」
バルディ家に仕える執事に案内され、俺たちは安置所までやってきた。
詳しく聞くと、大型船に近づきすぎた漁船は大型船からの攻撃にさらされ、航行不能状態に。
乗っていた船員は漁船もろとも大型船に引きつぶされたが、遺体は大型船が離れたすきに他の漁師が回収したとのことだ。
「レナ、この先は見たくないものもあると思う。無理に一緒に来なくてもいいんだよ?」
「マックス様、大丈夫です。私も貴族として、領主一族として、きちんと向き合わなければならないですから」
俺もクルトも……騎士団に所属する人間は野盗の討伐や、モンスターに襲われた民間人の遺体回収などで人の死というものに立ち会った経験がある。
だからこそ、犠牲となった領民の姿を見ても、そこまでの嫌悪感はないが、レナはそうではないだろう。
レナは俺の影としての教育は受けていたものの、5歳からは次期領主夫人としての教育が始まり、実戦での経験が圧倒的に不足している。
だから、安置所には俺とクルトだけが中に入ろうと思っていたのだが、レナはバルディ領の領主一族として一緒についてくるらしい。
「わかった。……クルトは念のためついてきてくれ。他の者は入口で警戒するように」
「「「「「はっ!」」」」」
安置所の中には石造りのベッドが用意され、そこには3人の男性の遺体が安置されていた。
近々葬儀が行われるのか、遺体の傷は完全に修復され、簡素ではあるものの粗末ではない衣服も着せられていた。
「……っ」
思わず絶句してしまう。
これまでにも遺体には立ち会ってきたが、それは領民ではなく他領からやってきた野盗だったり、領間を移動している自由民……冒険者だったり、旅商人だった。
だから知らなかった。
自分の守るべき……いわば子供とでも呼ぶべき存在が亡くなった時、人はこんなにも深い悲しみに襲われるということに。
「……俺の……せいだ」
「マックス様……決してマックス様のせいではありません。私たちは全速でこちらへとやってきたではありませんか」
レナが俺を励ましてくれる。
そう、わかっている。俺たちは全速力でここへとやってきた。
「レナ……3人のことがわかるか? マリオとフィル、それにジャックだ」
「マックス様、わかりますよ。マックス様とバルディ領へやってきたときにお話しした人たちですよね」
「そうだ。マリオは気風のいい男で、俺とレナを漁船に乗せてくれたな」
「……はい」
「フィルはマリオの息子で、いつかマリオのような漁師になると頑張っていた」
「……はい」
「ジャックは3年前の嵐で漁船が壊れたから友人のマリオの船に乗せてもらっていると言っていたな。息子に漁船を引き継がせるために金を稼いで、漁船を直すんだって」
「……はい」
俺もレナもゲルハルディ領にいることが多く、バルディ領にいた時間は短い。
3人とも1、2度出会っただけで、それほど深い交流していたというわけではない。
それでも、次から次へとポロポロと涙が溢れてくるのを、俺もレナも抑えることは出来なかった。
領主として大を救うために小を切り捨てる覚悟はある。
それでも! 人としてこの気持ちは忘れてはダメだ!
犠牲となったものを悲しむこの気持ちを捨ててしまったら、俺は貴族にはなれても人ではなくなってしまう。
この世界はゲームを模してはいても、現実だ。
リセットしてロードすれば、どんな悲しいことでもなくなるわけではない。
死んだ人間は何をしても生き返ることはない。
「レナ、クルト、やるぞ」
「……やる?」
「3人の弔い合戦というわけじゃない。俺はゲルハルディ領の次期領主として、ヴァイセンベルク王国に降りかかる災難を避けるためにバルディ領の領民を不当に殺した大型船を駆逐する」
「戦……というわけですね」
「ああ、クルトの言うとおりだ。アントンには戦力を集めるように言ったが、撃退するだけで十分だと思っていた。……だが、気が変わった」
「徹底的にやるのですね?」
「そうだ! 少なくともバルディ領の領民が受けた恐怖分は奴らに返さなければ割に合わん! ……2人とも、ついてきてくれるか?」
「もちろんです! マックス様を守るのは私の役目ですから!」
「護衛として派遣されているのですから、マックス様とレナ様の傍にいるのは当然でしょう」
陸戦ならともかく、海戦となれば、俺もそうだが、2人にとっても未知の領域。
だからこそ、2人の覚悟を問うように言ったが、そんな配慮は必要なかったようだ。
次期領主としては失格かもしれないが、これから始まるのは弔い合戦だ!
絶対にヴァイセンベルク王国に攻め入ってきたことを後悔させてやる!
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