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幼少期
87 破滅回避の弊害
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「お帰りなさいませ、マックス様」
「ああ、アントン。無事に敵船を拿捕できたよ」
「はっ、雄姿はしかとこの目で拝見させていただきました」
「海上でも交渉していたのだが、拿捕した責任者は交易国が引き取りたいそうだ」
「それですが、ゲルハルディ伯爵から早馬で、王都からの視察が入るので、責任者の引き渡しは1週間後にするようにと」
「視察?」
「はっ! 此度の戦……ヴァイセンベルク王国を外敵から守ったとみなされるかと」
「まあそりゃ、外敵だろうな……かなり間抜けだったけど」
「マックス様は辺境伯への就任条件をお覚えで?」
「辺境伯? 確かヴァイセンベルク王国の外敵を打ち倒す……おいおい、まさか」
「そのまさかです。マックス様が対応してくださらなければ、ヴァイセンベルク王国の交易港である我が領は大打撃を受けていたかと」
まあ、確かにバルディ領が壊滅すればヴァイセンベルク王国にとって大打撃だろうけど。
「辺境伯って、そんな簡単になるもんなの?」
「前例がありませんからな」
そうなんだよな。現在の辺境伯は北東、北西、西、南と4家あるが、どれもヴァイセンベルク王国を王家が興した当時から仕えている家だ。
当初は中央で王家の敵を排除していたが、王国の領土が広がるにつれて領地は中央から離れていくことになった。
当時の敵国とちょうどぶつかる地点を4家は領地とし、敵国を排除することに注力していた4家は当時の国王から辺境伯の地位をいただくことになったわけだ。
「辺境伯っていうと、父上の功績になるだろうし、俺は辺境伯令息になるってことか」
「……いえ」
「いえ?」
「マックス様が初代辺境伯になるかと」
「……?」
「ゲルハルディ伯爵から、此度の功績はすべて息子の物と王都に早馬を出していると」
「……は? …………はっ!?」
「ゲルハルディ伯爵の気持ちもわかります。息子の功績を奪って辺境伯になどなってしまえば、針の筵ですから」
「いやいや、それにしたって、俺、8歳なんだけど!?」
「わかっております。まずは王都からの視察……これが3日後から1週間後くらい……後にマックス様が王都に出向き、辺境伯の爵位授与」
「いや、その時点で相当、面倒なんだが」
「ですが、爵位授与時点は仮爵位……貴族は貴族学園を卒業して初めて爵位を受け継ぐことになっていますので、辺境伯として正式に叙されるのはその時かと」
はあ、俺としては破滅回避の手段としか考えてなかったが、確かにアントンの言葉を聞けばそうなるのか。
……ってか、なんか問題がないか? 言い知れない不安があるんだが……。
「なあ、アントン……俺が辺境伯になるってことはレナとの婚約はどうなるんだ?」
「バルディ家が伯爵位に陞爵されるとして、マックス様が辺境伯に叙される方が先ですから……一度婚約解消して、改めて婚約を結ぶ形になるかと」
「だよなぁ……それってさ、王家とか公爵家から横やりが入らないか?」
「……入るでしょうなぁ」
だよなだよな! クソっ! なんだよ、こちとら破滅を回避したかっただけだってのに、こんな形で弊害が出るのかよ!
どうすれば……ってどうすればいいのかなんて、2択しかないよな。
レナと一度婚約解消して、横やりを躱して再婚約するか……このまま、レナと結婚してから辺境伯になるか……。
「はあ……マジか……」
「マックス様、とりあえずは此度の戦の後始末、そして王都からの視察に備えるのが先です」
「……うん、わかってる。辺境伯に叙されるかどうかも、まだ確定じゃないしな」
そう、希望的観測……万が一……億が一、辺境伯に叙されないという可能性もないではないし。
いや、でも、陛下の性格から考えると……あー、もう! 考えたくねえっ!
「マックス様、バルディ男爵としてはマックス様のお考えを尊重いたしますので」
「それは、レナと婚約解消しろということか?」
「しろとは言いません。ですが、王家や公爵家との繋がりを優先するのならば否はありません」
「……二言はないな?」
「もちろんですとも!」
「では、俺が辺境伯に叙される前にレナと婚姻を結んでも問題はないということだな?」
「……は?」
「言っておくが、俺は王家や公爵家との繋がりなんて求めていない! 辺境伯に叙されそうになったら、俺はレナと婚姻してから辺境伯になるからなっ!」
「……それが、マックス様のお望みならば。……ですが、レナの説得はマックス様、ご自身でお願いします」
「はぁ……それだよ、憂鬱なのは」
とにかく、レナは先に船から下ろして身支度をさせていたから、ここにはいないし、あとで事情を説明しないとな。
ってか、俺、8歳でプロポーズするの? いや、婚約の時にプロポーズみたいなことはしてたけどさぁ!
「ああ、アントン。無事に敵船を拿捕できたよ」
「はっ、雄姿はしかとこの目で拝見させていただきました」
「海上でも交渉していたのだが、拿捕した責任者は交易国が引き取りたいそうだ」
「それですが、ゲルハルディ伯爵から早馬で、王都からの視察が入るので、責任者の引き渡しは1週間後にするようにと」
「視察?」
「はっ! 此度の戦……ヴァイセンベルク王国を外敵から守ったとみなされるかと」
「まあそりゃ、外敵だろうな……かなり間抜けだったけど」
「マックス様は辺境伯への就任条件をお覚えで?」
「辺境伯? 確かヴァイセンベルク王国の外敵を打ち倒す……おいおい、まさか」
「そのまさかです。マックス様が対応してくださらなければ、ヴァイセンベルク王国の交易港である我が領は大打撃を受けていたかと」
まあ、確かにバルディ領が壊滅すればヴァイセンベルク王国にとって大打撃だろうけど。
「辺境伯って、そんな簡単になるもんなの?」
「前例がありませんからな」
そうなんだよな。現在の辺境伯は北東、北西、西、南と4家あるが、どれもヴァイセンベルク王国を王家が興した当時から仕えている家だ。
当初は中央で王家の敵を排除していたが、王国の領土が広がるにつれて領地は中央から離れていくことになった。
当時の敵国とちょうどぶつかる地点を4家は領地とし、敵国を排除することに注力していた4家は当時の国王から辺境伯の地位をいただくことになったわけだ。
「辺境伯っていうと、父上の功績になるだろうし、俺は辺境伯令息になるってことか」
「……いえ」
「いえ?」
「マックス様が初代辺境伯になるかと」
「……?」
「ゲルハルディ伯爵から、此度の功績はすべて息子の物と王都に早馬を出していると」
「……は? …………はっ!?」
「ゲルハルディ伯爵の気持ちもわかります。息子の功績を奪って辺境伯になどなってしまえば、針の筵ですから」
「いやいや、それにしたって、俺、8歳なんだけど!?」
「わかっております。まずは王都からの視察……これが3日後から1週間後くらい……後にマックス様が王都に出向き、辺境伯の爵位授与」
「いや、その時点で相当、面倒なんだが」
「ですが、爵位授与時点は仮爵位……貴族は貴族学園を卒業して初めて爵位を受け継ぐことになっていますので、辺境伯として正式に叙されるのはその時かと」
はあ、俺としては破滅回避の手段としか考えてなかったが、確かにアントンの言葉を聞けばそうなるのか。
……ってか、なんか問題がないか? 言い知れない不安があるんだが……。
「なあ、アントン……俺が辺境伯になるってことはレナとの婚約はどうなるんだ?」
「バルディ家が伯爵位に陞爵されるとして、マックス様が辺境伯に叙される方が先ですから……一度婚約解消して、改めて婚約を結ぶ形になるかと」
「だよなぁ……それってさ、王家とか公爵家から横やりが入らないか?」
「……入るでしょうなぁ」
だよなだよな! クソっ! なんだよ、こちとら破滅を回避したかっただけだってのに、こんな形で弊害が出るのかよ!
どうすれば……ってどうすればいいのかなんて、2択しかないよな。
レナと一度婚約解消して、横やりを躱して再婚約するか……このまま、レナと結婚してから辺境伯になるか……。
「はあ……マジか……」
「マックス様、とりあえずは此度の戦の後始末、そして王都からの視察に備えるのが先です」
「……うん、わかってる。辺境伯に叙されるかどうかも、まだ確定じゃないしな」
そう、希望的観測……万が一……億が一、辺境伯に叙されないという可能性もないではないし。
いや、でも、陛下の性格から考えると……あー、もう! 考えたくねえっ!
「マックス様、バルディ男爵としてはマックス様のお考えを尊重いたしますので」
「それは、レナと婚約解消しろということか?」
「しろとは言いません。ですが、王家や公爵家との繋がりを優先するのならば否はありません」
「……二言はないな?」
「もちろんですとも!」
「では、俺が辺境伯に叙される前にレナと婚姻を結んでも問題はないということだな?」
「……は?」
「言っておくが、俺は王家や公爵家との繋がりなんて求めていない! 辺境伯に叙されそうになったら、俺はレナと婚姻してから辺境伯になるからなっ!」
「……それが、マックス様のお望みならば。……ですが、レナの説得はマックス様、ご自身でお願いします」
「はぁ……それだよ、憂鬱なのは」
とにかく、レナは先に船から下ろして身支度をさせていたから、ここにはいないし、あとで事情を説明しないとな。
ってか、俺、8歳でプロポーズするの? いや、婚約の時にプロポーズみたいなことはしてたけどさぁ!
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