気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

文字の大きさ
107 / 140
閑話

107 叙爵式と陛下との会合

しおりを挟む
「マックス・フォン・ゲルハルディ……南大陸からやってきた侵略者を撃退した功績を称え、そなたを辺境伯に任ずる。以降はゲルハルディ辺境伯と名乗るが良い」

「はっ! しかと拝領いたしました」

 陛下からの呼び出しを受けて、王都へとやってきた俺を待っていたのは辺境伯への叙爵式。
 父上が伯爵から辺境伯になるなら陞爵になるが、今回は俺が伯爵子息という無爵の状態から辺境伯になるので叙爵式だな。
 父上は伯爵位を陛下に返上した形となり前伯爵、爺様は前々伯爵で、俺は初代ゲルハルディ辺境伯になったわけだ。

 叙爵式もつつがなく終了し、俺は前回と同じように陛下の私室へと通された。
 今回は父上もいないのだが、俺だけが陛下に会うのはいいのか?

「ふむ、マックスよ。息災のようだな」

「はっ! この度は我が家を引き立てていただき、ありがとうございます」

「よいよい、この部屋には我と宰相しかおらんからな。もっと砕けた態度でよいよ」

「……ですが」

 陛下はそう言うが、どうせ天井の裏とか壁の後ろとかには護衛がいるんだろ?
 前回もそうだったが、ダンジョン攻略でレベルが上がっているから実力者の気配みたいのがわかるんだよな。

「部屋の中に入れん者はない者としてよい。公にはおらんのだから、口を出すこともできんて」

「……わかりました。では、少し砕けた話し方にさせてもらいます」

「うむうむ。……して、疑うわけではないが、本当にマックス1人で侵略者を撃退したのか?」

「1人ということはありません。バルディ領の騎士や兵士、それに有志の領民にも参戦してもらいました」

「だが、無力化したのはマックスだという報告が来ておる」

「ダンジョン攻略報酬のアーティファクトを使用しました。使用者が攻略者に限定されているもので、水が大量にある場所でのみ氷雪を生み出すものでしたので、特に報告はしませんでしたが」

「なるほど、それで敵船を無力化したわけだな。……だが、マックスが参戦したと聞いて肝を冷やしたぞ。そういう時はクラウスかヨアヒム殿が参戦すると思っていたからな」

「お爺様は遠征中で連絡が取れなかったので。……父上は、海戦が苦手ですからね。無理に引っ張り出してもよい結果は得られないと思ったのです」

「だが、そなたは子供だ」

「私とてダンジョン攻略報酬がなければ無理に参戦せず、父上を待ったでしょう」

「……ふむ。ま、考えてのことならば我が言うことでもないか。だが、クラウスとペトラ夫人が心配していただろうことは気にしておきなさい」

「はい」

 ま、陛下の言うことも間違っていない。前世でアラサーだったから、意識としては陛下や父上と同い年くらいの気分だが、肉体は子供。
 子供らしく甘えてほしいと周囲が思うのは当然だし、俺としても甘えられるものなら甘えたい。
 だが、俺でなければ解決できない問題が多すぎなんだよな。

「ところで、ゲルハルディ領では何やら新しい特産が生まれつつあるとか」

 話しかけてきたのは陛下の傍に待機していた宰相閣下だ。
 陛下との話がひと段落着いたとみて、話を振ってくれた。

「ええ、東の果てのゴールディ国というところと交易が持てましたので、そちらの交易品ですね」

「ほう。侵略の報告ばかりに目が行っていたが、東国も絡んでいたのか?」

「交易に来ていたところを南大陸の船に襲われたそうです。そちらはお爺様が対処してくださいました」

「ふむ、そちらの対処はゲルハルディ家に任せる」

「はっ! それで、東国の交易品から布や小物のサンプルをお持ちしました」

「ほう? そなたが持ってきたのだから、またぞろ食べ物かと思ったが」

「長旅だったのと、交易の目的がゴールディ国の飢饉のために食料を求めてでしたから。調味料などは幾ばくか譲ってもらいましたが、陛下にお出しできるほどには研究が進んでいないので」

「そうなのか……では、研究が進むこと楽しみにしておこう。で、布や小物だったか」

「はい、母上からもお墨付きをいただけたので、奥方や娘さんにプレゼントすれば喜ばれるかと」

「ペトラ夫人のお墨付きか……確かにアンドレアにプレゼントするのは良いな」

「そうですね、私も妻にドレスをプレゼントするなど最近はできていないのでゲルハルディ辺境伯の勧めに従いましょうかね」

 よしよし、アイリーンに無理を言ってサンプルを用意させた甲斐があったな。
 ゴールディ国からもらった布関係はそこまで多くないから、陛下と宰相閣下に購入してもらえるなら、それ以上の宣伝は止めておくか。

「……あー、そういえば、だな。娘といえば我の末娘が婚約者不在なのだが……マックス、どうだ? 辺境伯となって婚約者も選定せねばらんだろう?」

「陛下。そう言われるのは分かっていました。ですが、私はゲルハルディ家にて既に婚姻式を済ませております」

「なにっ!?」

「私の婚約者は男爵令嬢、辺境伯となれば婚約解消せねばならないので、伯爵令息の時点で仮婚姻式を済ませたのです」

「ほう……流石はペトラ夫人の息子ですな。法律をきちんと学ばれております」

「ありがとうございます、宰相閣下」

「……そこまでして、王族との婚姻を回避したかったのか?」

 裏技というか、本来は仮婚姻式というのは戦争の前や死病の手術など、生死の淵に立たされるものが、それでも婚約者と婚姻を結ぶために行うものだ。
 普通の貴族なら陞爵前や叙爵前に行うことはなく、婚約者とは婚約解消し、新たに婚約者を探すのが通例だからな。
 陛下からしたら、辺境伯になって王族や公爵と婚約できるのに、仮婚姻式を行うなど縁組を拒否しているように見えるのだろう。

「陛下、そうではありません。私は私を支えてくれていた婚約者と一緒になりたかったのです。婚約解消し辺境伯となれば、レナが伯爵令嬢になる前に陛下や公爵閣下から縁組を求められるのは分かり切っていましたので」

「陛下、国王といえど貴族の婚姻に口を出すと揉め事になりますよ。貴族の婚約には陛下の裁可は必要ですが、婚姻は婚約者同士なら自由ですからな」

「ううむ……本来ならゲルハルディ家と縁戚になりたかったのだがな」

「縁戚になどならずとも、ゲルハルディ家は今まで通り国王派として陛下をお支えします」

「はあ、そういうことでもないのだがな。……まあ、よい。マックスが選んだことなら、こちらが口を出すのも無粋だな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

処理中です...