勇者パーティーを追放された薬草師

高坂ナツキ

文字の大きさ
1 / 12

01 勇者パーティーからの追放

しおりを挟む
「端的に言って、君はここでクビだ」

 魔族領域まで、あと一歩というところにある酒場で、あたしは勇者パーティーをクビになるらしい。
 幼馴染のジョーが勇者に選ばれてから、早2年、ここまで献身的に尽くしてきたというのに、いざ本番、これから魔王率いる魔族の領域に迫るこの瞬間に言うこと?

「……へぇ~、どういうことか、理解できるように教えてくれる?」

「お前が役立たずだからだよっ!」

 役立たず……そう言ってきたのは、あたしと同様にジョーが勇者になったことで生まれ故郷から旅に同行していた、戦士のマイク。
 生まれ故郷では若者たちの兄貴分といった感じだったけど、旅をしていた二年間で女好きのクズだということは判明している。
 情報収集だと偽ってパーティーの資金を娼館で使い果たしたこともあるくせに、どの面下げて人のことを役立たずだと言えるのだろうか。

「へぇ~、メインタンクのくせにヘイト管理が下手くそで、毎回ポーションをダース単位で使う戦士に役立たずと言われるとは思わなかったわ」

「なっ!? それはお前の作るポーションがダメだからだろう!」

 慌てたように責任転嫁してくるけど、あたしのポーションは組合でも上位の効果があることは知られているのよ?
 それを、言うに事欠いてダメとは……ダメなのはあんたの頭でしょう?

「大体、貴女のせいでどれだけのパーティー資金がなくなったかわかってるの? 効果のない薬草を高値で仕入れて!」

 そう言いだしたのは、勇者判定のために呼ばれた城でパーティーに加わった魔女のスーザンだ。
 王様が戦力になるから是非と勧めてきたけど、今考えれば体のいい厄介払いだったんだろうね。
 この魔女は大した魔法をも使えないくせに、あたしが作った貴重なMPポーションをがぶ飲みするバカ女だ。

「ふ~ん、魔女だからって大量のMPポーションを使う人のために薬草を仕入れていたってのに、それがムダだったって言いたいのね?」

「なんですってっ!? 魔法を使うのにMPポーションを使うのは常識でしょうっ!?」

 そりゃ、常識的な量ならね。この魔女は魔法を一回使うごとにMPポーションを一本がぶ飲みするほど燃費が悪い。
 それなのに、それが魔女や魔法使いにとっての常識だと思ってるおバカさん。普通の魔女や魔法使いは戦闘終了時に一本、二本のMPポーションを飲むくらいで、常飲はしないのよ。

「だいたい、あたしが抜けたら、回復はどうするってのよ? 勇者パーティーが血まみれになりながら、ごり押しでもする気?」

 勇者パーティーは、勇者のジョーがアタッカー、戦士のマイクがタンク、魔女のスーザンが純魔、あたしこと薬草師のサラが回復役を担っている。
 勇者や戦士はもちろん、魔女も攻撃魔法以外はからきしで、バインドもバフデバフもできない……つまり、あたしが抜けたらごり押しの脳筋戦法しかとれないパーティーに早変わりってわけよ。

「それなら心配しなくてもいいよ」

 いや、別に心配したわけじゃなくて、純粋な疑問をぶつけただけなんだけど。

「どういうこと?」

「実は君の代わりは既に決まっているんだ。聖女のマリアだよ」

「マリア・F・ロウです。以後お見知りおきを……あら? パーティーを抜けるのなら、見知っていただく意味もありませんわね」

 一瞬まともかと思ったけど、どうやら聖女もまともじゃないみたいだね。
 まあでもそうか。だから、あたしはお払い箱ってわけか。

「ふ~ん、これからはあんたが勇者パーティーの回復役ってこと?」

「そうだ。お前みたいな役立たずとは違って、きちんと回復させられる聖女だからな」

「そうよ。貴女と違って、お金もかからないしねっ!」

 ジョーやマイクが、あたしよりも聖女をとるってのはわかるのよね。二人は前衛で回復が必要なだけだから、薬草師のポーションでも聖女の聖魔法でも回復すれば変わらないから。
 それに自分でいうのもなんだけど、子供みたいな体形のあたしよりも、胸もおしりもバーンと出てる聖女の方が目の保養になるでしょう。
 でも魔女がよくわからない。魔女はMPポーションが必要だから、あたしよりも聖女をとることはないと思うんだけど……なにか理由があるのかな?

 あー、もう止め止め! 薬草やポーションのことなら考えつくせばわかるけど、人の心なんて考えたってわからないんだから、ムダよムダ!

「なるほど。あんたたちの言い分はわかったわ。そんなに言うならパーティーから抜けてあげる」

「思いあがるなっ! お前が抜けるんじゃなくて、俺たちがクビにするんだよ!」

「そうよ! なんで自分に主導権があるとでも思ってるのっ! 貴女はクビになるんだから、すがっても無駄なのよ!」

 ふふ。本当に野蛮な人たち。自分たちが主導じゃなきゃ、歯をむき出して威嚇してくるなんて、チンピラか野生動物みたい。

「サラには悪いとは思っている……だけど、ここからの戦いは今までとは次元が」

「あっ、そういうのはいいわ。あたしは突然勇者に任命された息子が心配だっていう、おばさんの頼みでついてきてただけだから、要らないっていうなら去るだけよ」

 故郷には回復ができるような特殊技能を持っている人間は、あたしだけだった。
 聖女どころか教会だってろくに機能していない小さな町、そこで薬草師として働いていたのが、あたしたち一家。
 その中でも旅に出られるのは、あたしだけだったから、大人たちの頼みでパーティーに参加したのよね。

 それに勇者たちの言っていることも、あながち間違いというわけでもない。
 薬草師は薬草からポーションを作る……そう簡単に言うけれど、森や草原が広がっている人族の領域とは違って、魔族の領域は不毛の荒れ地。
 魔族の領域に近づくにしたがって、薬草は視界から消えていき、商人が販売しているバカ高い薬草を購入する羽目になっていたものね。

「あんたたちに渡したポーションはそのままでいいわ。パーティー資金で購入した薬草も置いていく。あたしが持ち出すのは、着ている服と薬草師としての商売道具だけ」

 ここまで、あたしを責め立てるんだから、どうせ荷物は置いていけ、とかポーションは返さない、とか言い出しそうだったから、機先を制してこっちから言ってやった。
 ま、ポーションなんて人族の領域に戻れば簡単に作れるし、仕入れた薬草も不要になるからね。
 個人資産は冒険者ギルドに預けてあるし、あたしが故郷から持ち出した商売道具さえあれば問題はない。

「お、お前が勝手に決めるなっ!」

「あら、勇者パーティーともあろうものが、女の身ぐるみを剝ぐっていうの?」

「あ、貴女の商売道具って言うけど、旅の途中で買い足したものもあるのでしょう?」

「ええ、そうね。あたしの個人資産から買い替えたものもあるわ。それで? あんたたちには不要のソレも置いて行けって?」

 嫌がらせとしか思えない戦士と魔女の言葉に即座に反論して見せれば、二人とも気まずそうに目をそらす。
 自分でもおかしいと思っているのなら、幼稚な嫌がらせは止めればいいのに。ま、あたしに一泡吹かせたかったのか、あるいは謝罪でも求めたかったのかしら?

「じゃあ、あたしはこれで。もう会うことはないでしょうけれど、勇者パーティーの活躍は祈っておくわ」

「「「「…………」」」」

 勇者パーティーの面々は何とも言えない表情で沈黙していたけれど、あたしは構わず酒場から出ていく。
 さて、これからどうするかしらね? とりあえず、こんな前線にいる意味はなくなったから、田舎にでも引っ込んで薬屋でも開こうかしら?
 故郷に戻っても、父さんや母さんの邪魔になるし、旅に出る時に独り立ちしたって宣言してるから、これからはあたしの自由よね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

処理中です...