いじめっ子といじめられっ子と傍観者

いじめっ子といじめられっ子と傍観者

病に伏せる女が1人。そこに通う1人の男。
女はいつも窓を眺め死を待っていた。男は毎日彼女に花を贈る。

女は言う「死にたくない…」
男は言う「花は君の身代わりになってくれるんだ。すぐに枯れてしまっても気にしないでくれよ。」

ため息まじりに彼の必死な言葉も彼女には届かない。

「君を助けることが出来なかった、その償いのつもりなんだ。」男は訴えるが、彼女はただ窓の外を眺めていた。

男は懸命に彼女の元へ足を運ぶ。毎日同じ時間に色んな花を持ってきた。遅れたことは1度もない。

女は花や男に興味を示さず、無表情でただひたすらに窓の外を眺めていた。

「いつも俺が来る時、君は窓を見ているけれど、外にはなにがあるんだ？」

女は答えない。窓から見えるのは退屈しのぎにもならないような古びた病院の駐車場。1階から見える、古びた病院の駐車場。車の1台もない景色に男は魅力を感じなかった。


「俺が君の退屈しのぎの相手をするよ。」
女は反応を見せない。

「俺と君はまるで存在しないみたいだな」
男は言い残しその場を去った。
女はいつもと変わらず、窓を眺めて死を待つ。

男は死を待つばかりの希望がない女を見て、悲観しなかった。彼女は助からない。それでも死ぬ前に寂しい思いはさせたくない。

女は生きている。

しかし、死ぬ間際に死後の予行演習をしているように誰とも会話をしないのだ。そんな女の姿に少しの苛立ちを覚える男。

「なあ、返事をしてくれよ。花は嫌いか？」

彼女は振り返って男の方を向いた。目を見開き、唇が落ちるように口を開いた。

男は、女の口角が上がっていることに気付いた。
「やっと俺を見てくれた。 なあ、俺と話そうぜ。きっと退屈にはさせないから」

「いつも1人だった。誰も、来てくれないから。」女は言った。

男は少しムッとして「それって俺が来る前の話？」眉をひそめる。

女は微笑みを崩さずに男の方を見ていた。
男の芯まで見るようにじっと男を見据えていた。男は彼女の瞳に吸い込まれた。彼女の目には、女の姿があった。

男は振り返ると、その女を発見した。
「なんでお前がここにいるんだよ！」男は怒鳴る。

「謝りに来たんだ。散々お前をいじめて、悪かった。叶うなら、償いをさせて欲しい」その女は彼女に訴える。

女は目を下にやり、口を閉じて少し考えた。口角は上がっていた。鼻での呼吸から女は少し興奮しているように感じた。

「許してはいけないよ。彼女はあんなに酷いことを君にしたんだぞ」男は女に訴えるが、女は答えない。その女の方を見ると少し上目遣いでこちらを見ていた。眉をひそめ、唇を噛んでいる決意の表情だった。

「あなたがいじめていたから、私は存在していた。でも今は違う。そこに置いてある空っぽの花瓶のように私は死を待つだけの存在になってしまった」

その女は顔を歪めて女を見る。泣きそうでも女は堪えていた。彼女は自覚している。自分は泣いてはいけない。泣きたいのは女なのだから。彼女は償いを表情で表している。

「でもあなたが、来てくれて実は嬉しい気持ちが大きいの。私は空の花瓶だけど、まるで花を添えてくれたような、、。」

その女は我慢できずに言い放つ。「これから私が花瓶に花を添える。野草でもなんでも、お前の身代わりを毎日添えに来るよ」その女の顔は濡れていた。

償いのため、寂しさを紛らわすために、憎みあった2人の仲が修復していくのを男は見ていた。「俺は傍観者だった。君たちを止めていればとずっと後悔している。俺も償いをしたい。花を贈るだけじゃ足りなかったのか？」 男は叫ぶが女2人は気に留めることはない。

男は彼女らを見て恐怖を覚えた。彼女らはこの世のモノとは思えなかったからだ。いじめて、いじめられた2人がなぜ、仲良くするのかを理解できなかった。男は吐き気を催し、病室を後にする。

女は死を待ち、窓を眺め、友人となったその女との会話を楽しんだ。女は彼女が来る日を心待ちにしている。空だった花瓶は花で飾られ、彼女は回復の兆しを見せていった。

男は女の行く末をずっと見続けていた。