短い話たち

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引きこもりとカエル

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ごはんを食べている時、一匹のアマガエルがテーブルの上に飛び込んで来た。

「ん?」

私はつまんでぱっくりと飲み込んだ。
アマガエルが喉から食道にかけて落ちる過程で暴れるので、残りのごはんは食べられなかった。だからアマガエルが今のところ私の最後の食事だ。

カエルがおとなしくなったので、私はカエルのその後についてあれこれと想像した。

脱力して朦朧となったカエルはまず、胃に落ちて胃酸の刺激で目を覚ますだろう。そして体中を刺す酸の刺激にもがき苦しむだろう。
しかしバタバタと動かす四肢は次第に酸に冒され溶けていき、カエルは骸骨になる頃ようやくそのもがきをやめるだろう。

そのあとは素直な骸骨が十二指腸や小腸や大腸を自在に泳ぐうちにさらに溶けて、そして崩れていって、私が先に食べたごはんたちと同じウンコになって、お尻から出されるのをじっと待つのだろう。食べたのが一番最後だから、それはウンコの上にちょこんと座っているかも知れない。
そう考えると、私には変な楽しみが生まれた。早くアマガエルが乗ったウンコがしたい。

ただここのところ私は、便秘に悩まされている。あれ以来、便秘のせいか食欲がなく相変わらずアマガエルが最後に喉を通った食物だ。
便秘だからウンコが出ない。ということは私の楽しみも先送りだ。

「さきおくり?」

とっくに知っているその言葉を私は実感した。カエルさんのおかげで。

食欲がないからアマガエル以来の栄養素は私の体には流れていない。だから当然私は痩せ細りふらついていく。しかし便秘のおなかはポッコリとふくらんで、その姿を想像してみたらあら、まるでアマガエルだわ。

おかしくて私は笑う。カエルさんのおかげで。

そんなこんなで私は衰弱し、立てなくなり、当然トイレに行けなくなり、当たり前だがウンコが出来なくなり、ウンコが腸の中で腐って、腐った栄養素を腸が律儀に吸収したものだからそれが血液に入り、全身に回って敗血症を起こし死んでしまった。
というのが自宅で不審死した私の解剖調書だ。

ウンコの中にはアマガエルらしきものはいなかった。骨すらすっかり分解されたのだろう。いや、もしかしたらちゃんと、私のウンコの最後尾にちょこんと乗っていたかも知れない。あぁ、見たかったなぁ、ウンコの頂に座るアマガエルの骸骨。これを見ないと浮かばれないわ。

まぁ解剖した医師はまさか私がアマガエルを食べたなんて知らないから、わざわざアマガエル探しなんてしなかっただろうから調書に「彼」の名前がないのは当たり前だ。
それに期待する。

解剖が済んだ私の遺体は、同居する両親が引き取り、引きこもりの私の両親の両親による両親のためだけというたった二人の慎ましい葬儀のあと荼毘にふされた。

火葬場では焼き上がった遺体、つまり遺骨を参列者が分け取って骨壷に入れるのだが、菌毒で冒された私の遺体に、骨は残っていなかった。全身黒くパラパラの煤だった。煤はとても拾えるものではなく、ただただ空間を舞った。

「よほど悪い菌に冒されたんですねぇ、しかし何か拾えるものないかなぁ」

と言いながら火葬場の係官は空中を舞う私の煤を払いながら言う。

そのうち

「あっ」

遺体の下方、つまり腸があった辺りに長く硬い棒状の煤があるのを係官は見つけた。
彼はこれをどう説明しようか悩んだ挙句

「これはウンコですね」

と普通に言った。そして

「仏様が唯一残したこのウンコをご遺骨として納めましょう。しかしご立派なごウンコだ」

と要らぬ丁寧語で言って、改めてウンコを見つめた。
そして

「ちょっと待っててください」

と言うと一旦場を離れ、こんな場で使用しないはずの家庭用大工道具、火葬場の雑用倉庫の道具箱に適当にあったらしい釘抜き付きハンマーを持って帰って来た。
そしてウンコを砕き始めた。

すると

「あら?」

と言って手を止めた。

「ご遺骨の一番上にこれ、カエルですかね、そんなのの骨が座ってます。ほら見て下さい」

と言って参列者…とは言っても参列者は両親だけだったが…に見せた。
三人はウンコを凝視し、感心し、自然に手を合わせた。

遺骨拾いでは喉の骨がまるで仏が座ったような形で焼け残るので、それを「喉仏」(のどぼとけ)と崇めて骨壷に納めた遺骨の最後に載せて蓋をするのだが、私のそれはアマガエルの骨だった。しかも完全な遺骨でちゃん座った姿をしている。

予想通りのウンコの頂に座るアマガエル。それを確認した私は、すっかり満足して天に旅立った。

と言うかやっとトイレに行けた…って感覚かな?
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