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ありえない名前①
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自分で言うのもなんだが、僕はカリスマ作家だ。
僕のデビュー作はなぜだか多くの女性に受けた。それがカリスマの始まりだった。
ある時僕はそんなカリスマ性を利用しようと思った。僕は作品ごとにある女性の名前をフルネームで登場させることにした。そして作品の中でやはりフルネームの僕と恋愛するのだ。
フルネームだから自分の名前が作品に登場したら、彼女らはそれがまるで自分が指名されたような気持になり、作品が立体化して擬似現実になる。つまりカリスマの僕と本当に恋愛している感覚になる。それが狙いで、狙いは見事に当たり、僕はよりカリスマになった。
彼女らはいつ自分の名前が僕の作品に出るかを今か今かと待つ。その数掛ける数万円が僕の懐を潤わす。なかなかいい循環だ。
循環の中で僕はもう何百の女性を酔わせたろうか。
そのうち僕は恋愛に飽き足らず、何か違う体験を彼女らに味わってもらおうと思った。恋愛より僕を独占出来るものはなんだろうと考えた。
そして殺人というシチュエーションが浮かんだ。
フルネームの彼女が僕に恋するあまり永遠に独占したくなり、僕を殺しに来る話。
僕を殺して自分も死に、彼女は浮かばれたって話。
だが書き始めてすぐに不安が頭をよぎった。
僕はカリスマだ。カリスマだけに彼女らは僕の信仰者だ。信仰者ゆえ僕の書いたものに興奮する。それが特定の名前だったらそいつ、感激と興奮のあまり本当に僕を殺しに来るんじゃないか?
これはまずいと思った僕は、僕を殺しに来る彼女の名前をまずあり得ないものにした。フルネームはやめて単に「A子」にした。その代わりに名字の意味で「主婦」を付け足した。
つまり僕を殺しに来るのは「主婦A子」だ。
これなら誰も自覚しないだろう。むしろ存在が曖昧なA子に嫉妬するだろう。僕はその嫉妬を利用して話の続編を作るのだ。
「僕を殺したA子を探してください」とかなんとかのタイトルで。きっと世の中、女性探偵ブームになるだろう。なかなかいい循環だ、これも…
…僕は今、部屋の隅、天井のあたりに浮かんでいる。
眼下には僕の死体がある。それは僕の死体というより、ショーで解体されたマグロのようだ。もうバラバラ。
あれから小説が出て、信仰者がたくさん僕を殺しに来た。
「英子、永子、栄子、瑛子、影子、絵依子に映子、頴子、鋭子…」果ては江胃子なんて偽名めいた奴までが来て僕を包丁でズタズタにした。
しかし彼女らはそのままドアを閉めて出て行った。主婦はいろいろ忙しいのだろう。中には僕の肉を持って帰る者もいた。夕食はたぶん、僕の刺身だろうな。
とにかく僕は霊体だけになってこうして一人、浮かばれたわけだ。
なかなかいい循環だ。
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ある時僕はそんなカリスマ性を利用しようと思った。僕は作品ごとにある女性の名前をフルネームで登場させることにした。そして作品の中でやはりフルネームの僕と恋愛するのだ。
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彼女らはいつ自分の名前が僕の作品に出るかを今か今かと待つ。その数掛ける数万円が僕の懐を潤わす。なかなかいい循環だ。
循環の中で僕はもう何百の女性を酔わせたろうか。
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つまり僕を殺しに来るのは「主婦A子」だ。
これなら誰も自覚しないだろう。むしろ存在が曖昧なA子に嫉妬するだろう。僕はその嫉妬を利用して話の続編を作るのだ。
「僕を殺したA子を探してください」とかなんとかのタイトルで。きっと世の中、女性探偵ブームになるだろう。なかなかいい循環だ、これも…
…僕は今、部屋の隅、天井のあたりに浮かんでいる。
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しかし彼女らはそのままドアを閉めて出て行った。主婦はいろいろ忙しいのだろう。中には僕の肉を持って帰る者もいた。夕食はたぶん、僕の刺身だろうな。
とにかく僕は霊体だけになってこうして一人、浮かばれたわけだ。
なかなかいい循環だ。
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