短い話たち

自動車

まず自動車が生えた。
ただ生えただけだった。
そこには自動車しかなかった。
それでは自動車は自動車ではない。
ただの物体だ。
自動車が自動車であるためには自動車としての意味が必要だ。
その意味とはなんだろう。
それは速く目的地まで行けるということだ。
つまり目的地がないと自動車にはなれないのだ。
そこで自動車は進化した。
目的地が生えたのだ。
しかし生えただけで何も起こらない。
ただ遥か先に目的地の景色があるだけだ。
まだ何が足りないのだろう。
自動車はある。目的地もある。あとは何だ。
そうか、速く行きたいと考える者がいない。それはなんだろう。
そうだ人間だ。人間が目的地に速く行きたいのだ。
自動車は進化した。
人間が生えたのだ。目的地に速く行きたい人間が車内に生えた。
しかし自動車は動かない。
人間は生えたがただシートに座っているだけだ。
まだ何が足りないんだ。
そうか運転免許証がないんだ。
自動車を動かすには免許がいるんだ。
自動車は進化した。
人間の懐に運転免許証が生えた。

これでやっと、目的地へ速く行きたい
運転免許証を持った人間が運転するという装置を内蔵した自動車が出来上がった。
そしてそれにつかまって、自転車が三輪車の彼女が待つ目的地へ急いだ。