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一部 二章 何事も説明するって基本だよね

少し箸休め

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  よくわからないまま、気づいたら三週間が過ぎていた。
その間俺は、あの時と同じ部屋の中にいた。

ずっと閉じこもっているのも退屈なので度々城内を探検したりすることもあったが、
一人で回るには広すぎる。おかげで何度迷子になったことか。

この歳で自分の部屋が分からなくなるとは……恥ずかしい。
そりゃここの人は何度も出入りしてるだろうから、すぐ分かるでしょうよ。

でもなあ……、初見の人に「『同じ扉』と『同じ間取り』の部屋を見極めろ」ってのは
いくらなんでも無理難題が過ぎるんじゃないかな!?


 お手洗いから戻ると、知らない廊下に出てしまった。
まだ知らない所があったのか。こういうのを知るとワクワクするな。

などと悠長な事を思っている場合ではなく

「またか……。この城広くね?」

しばらく右往左往していたが、余計知らない場所に出てしまった
結局、たまたまその場を通りかかったらしいタキシードを着た人に、自分の部屋まで送ってもらった








「いやー、急に呼び出しちゃってすまないね。あの時はオレもビックリしちゃって。
今日は君に伝えたいことがあってきてもらったんだ」

ようやく城の五分の一を覚えてきた日。俺は王様に呼ばれ、大広間にいた

当の本人は言葉では謝ってはいるものの、どうも心ここに非ずといった感じだ。
そう、たとえるなら「今日授業で使う教科書を忘れて、隣のクラスの友達の元に借りに行く陽キャ」。
そんな感じだろう

──一国の主がそんなんでいいんですか?

そう言いたかったが、口にしてしまうと目の前にいる老騎士に何されるか分かったもんじゃない

ここはとりあえず、話を進めよう


「伝えたいこと?」

「うん。その前にまず、君に一つ謝っておきたいことがあるんだ」

俺に謝ること? なんだろうか。エリーのことであれば謝罪は受け取っているし、彼が直接的な原因ではないのだが……

はて? なんだろう? 
俺が考えていると、ハリスは思いっきり頭を下げていた。

「すまない!!」

体がすごくきれいに折れ曲がっている。
俺はいま生まれて初めて『エライ人の謝罪』を目にしている気がする

初体験の感想はというと……、なんだかこちらが申し訳ない気だ。この場にある視線が一気にこちらへ集まっている気がすると同時に、自分は何もしていないのになんだか悪い者扱いされているような気が……。


「か、顔を上げてください! エリーさんの事でしたら怒っていませんから!」

「そうだよハリスくん! 私たくさん謝って、『いいよ』って言われたもん!」

あれ?? 謝られたっけ。まあいいや

その言葉を流すように、王様は続けた。

「あの日、君に『魔王討伐を命ずる』って言いかけただろう?」

確かに言っていた気がする。最も、あの時は途中で遮られていたが。


「実はあの時、知らせが入ったんだ。……『魔王が倒された』ってね」

「ええええええ!? じゃあ俺、『喚ばれ損』ってことですか!?」


なんということだ! 大抵の異世界転生モノならここで魔王を倒す流れじゃないのか!?
そして俺がこの世界の英雄となるはずでは!?

「まあ端的に言っちゃうと、そうなっちゃうね……
こればかりは弁明の余地はない。本当に申し訳ない!」

また頭を下げられてしまった。しかもさっきより深いやつ。
ますますこっちの肩身が狭くなる

「わ、分かりました! オレは大丈夫ですから、どうか頭を上げてください!
なんだか……すごく恥ずかしい、です」

王様はようやく頭を上げてくれた。

「そうか! 許してくれるか!」
なんか許す流れになってしまった。

いや、許すも何もこっちも意味が分からないんだが。

「それで王様、オレはこのまま帰れるんですか?」

すると王様は、すごく言いにくそうな顔をしていた。

「あのな……それはその……な?」

「なんですか王様。はっきり仰って下さい」

「いいが………怒らないか?」

「何を今さら。別にもう怒りませんよ」

「じゃあ言うわ。……『キミ、暫く帰れないから』」

一瞬耳を疑った。帰れない……? 元の世界に……? 何を言って………
「ハハ、ハハハハハ…………」




そして俺は、何度目か分からない意識喪失に陥った。


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