私が僕であるために

白キツネ

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間話:彼女の文化祭・終

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 文化祭の2日目も朝から忙しい。それに、明らかに男以上に女子生徒の比率が昨日より、確実に増えている。原因はきっと昨日の彼のことだろう。
 彼は文化さが始まる前から、人気があった。成績優秀、容姿端麗、そんな彼が人気が出ないわけ1ではない。それに加え、昨日のことで、彼の凛々しい部分を見た女子がより増えてしまったわけだ。

 少し、気に入らない。そう思っていると、さやかの声が聞こえる。彼に女子が多くきている理由を教えているようだったが、見ていることに気づかれたみたいで、怒っていると思われた。別に怒っていないし…

 料理を食べているお客さんたちの会話を聞いて、恥ずかしくなっているようだ。それに、昨日の事件のことが彼だと知られていることをさやかに問い詰める。けれども、今回はさやかは何もしていない。元々注目されていた彼が、より注目されてしまっただけだ。
 難しいことは分かっているけれども、彼はもう少し、自分のことを過小評価するのを控えた方がいいとは思う。

「冬花、怒ってる?」
「…怒ってないわよ」
「なら、今日も一緒に回ってくれる?」
「…わかった」
「ふふっ」

 彼から誘ってもらい、嬉しく思うし、喜んでもらえるのも嬉しい。けれど、その顔はあまり、他の人には見せたくなかったかな。
 やっぱり、彼のことに関しては独占欲が強くなってしまうらしい。

 3-Aでアイスをいただいてからは、いろんなところを見てまわった。そして文化祭が終わる時間に差し掛かり、夕日が空き教室をオレンジ色に染め上げていた。いつもは気にしないような所だが、二人で吸い込まれるようにその教室に入る。

「ねえ、冬花、僕は君に会うまでずっと、真っ暗な世界にいたんだ」
 彼がこれまで何を感じてきたのかは、私には想像することも出来ない。たぶん、ずっと孤独でいたということはわかる。それを埋めていたのが紗夜さんだということも。

「けど、君が僕を見つけてくれた。手を握ってくれた。支えてくれた」
 最初、私は彼がその辺の男と一緒だと思っていた。自分を優先しているだけだと、けど違った。彼は必死に自分を守っているだけだった。そのことに気づいてからは、彼のことが気になった。支えたいと思った。
 彼を…好きになっている自分がいた。

「僕は、九条冬花が好きだ。ずっと側に、一緒にいたいと思ってる」
 私もずっと、一緒に隣にいたい。辛いことも、楽しいことも一緒に感じていたい。
 気持ちが同じであったことが嬉しく、涙が溢れる。

「ごめ「…約束、して、もう一人で抱え、込まないって。約束…して」
「うん。約束する」
「…絶対に、私から離れたら…だめだからね。」
「うん。離れない」
「破ったら、振るから」
「それは嫌だな」
「なら、絶対に約束を破らないで」
「うん。頑張るよ」
 
 最後まで、破らないと言ってくれないことを不満に思う。だから、態度で示すことにした。離れたとしても、私から捕まえに行くから。
 だけど、彼からも抱きしめられるとは思わず、少し驚いたけれど、嬉しい。

「私が支えるから…、だからなんでも言って」
「ありがとう」
「私も好きなの…樹」

 学校のチャイムがなるまで、私たちはこの時間を過ごした。
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