【完結】俺は今日、婚約破棄をする

白キツネ

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婚約破棄

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 俺は明日、婚約破棄をする。

 相手は6歳の時から12年間ずっと婚約していた彼女。俺よりも優秀で、常に俺の前を一歩、いやそれ以上先を歩く女性。
 彼女の名前はアイリス・オーフェリア。オーフェリア公爵家の長女であり、俺がずっと好きだった、いや、今もなお好きな相手……。

 そんな相手になぜ婚約破棄をするのか? そんなもの、彼女が俺じゃない他の男を想っているのがわかったからに決まっている。
 だが、これは俺や彼女だけの問題ではない。国の問題でもある。賢い彼女はそれを理解しているからこそ、これから先も言い出す事はないだろう。
 
 しかし! 俺は彼女には幸せになってほしい。例え、彼女の思い人が自分でなかったとしても……ソイツの隣りで彼女が笑顔でいられるならそれでいい。
 だから俺は愚かでいよう。彼女が、国の決まりも何もわかっていない愚かな王子に捨てられた被害者という立場を得られるように……。

「殿下、いつまで泣いていらっしゃるのですか?」

 誰もいなかった部屋にノックもなしに入ってくるのは、俺の専属侍女であるマリー。俺が不敬罪を振り翳せば首が何百回と跳ぶであろう『敬う』という言葉が頭からすっぽり落ちた残念な侍女である。

 そんな彼女はスタスタと俺の元へと歩いてき、俺の顔を覗き込む。

「……うるさい。泣いてなどいない」
「どうしてそんなわかりやすい嘘をつくのですか? 廊下までまる聞こえでしたよ。まったく……。そこまで泣くぐらいなら婚約破棄なんてしなければいいじゃないですか。そうすればあと数日で殿下の思い人は貴方のものなのですから」
「……うるさい。そこには彼女の幸せがないではないか」
「幸せ……ですか。殿下がわかっていないだけで、あの方も幸せかもしれませんよ? それに、俺が幸せにする! ぐらい言ったらどうなんですか?」
「うっ……、俺だってそんなこと言えたら……いやだが俺には……」

 俺には彼女をあんな風に笑顔にすることなんてできない。アイツのようには……

 偶然、町の視察に行った時に見てしまった。彼女が男と楽しげに話しているのを。俺の前では常に凛としている彼女が、アイツの前では顔をほころばせていた。あんな彼女を見るのは初めてだった。
 12年、それだけの月日を共に過ごしながらも見たことのない笑顔。それを向けられているのは俺ではなく弟であるルーカスだった。

 その現場を見た時にはショックを受けた。目の前が真っ暗になり、立っているのも難しく、近くにいた護衛に支えられた。支えられている時に思ったのは怒りではなく、自分には彼女を笑顔にできなかったという不甲斐なさだけだった。

 大人しく身を引こう。それが彼女の為になる。そう思い、口の硬い友人たちに相談したのに、皆、口を揃えて「気のせいでは?」や「殿下の思い過ごしです。決して早まらないでください」などと俺の話を聞こうとしない。
 父上や母上にもそれとなく聞いてみたのだが、「馬鹿な真似はするなよ」と釘を刺されただけだった。
 だが、そんなことでへこたれる俺ではない! 1人でも俺は彼女の為に婚約破棄をするんだ。

 ――――――――――――――――――

 そう意気込んだ翌日。遂にやって来てしまった。学園での卒業式。会場は煌びやかに飾られており、それこそ王城で開かれるパーティーと比べても見劣りしない。それほど立派な会場だった。

 そして隣に立っているのは、亜麻色のストレートヘアーに透けるような乳白色の肌、整った鼻梁に長い睫毛に覆われた大きな瞳と、本物の人形のような繊細な美しさを誇っている彼女。
 そんな彼女が俺が贈ったドレスに身を包んでいる。その姿を見ることができただけでも幸せだった。そう思える。
 
 ふぅ……。ズキズキと痛む胸を深呼吸で誤魔化し、この会場に集まっている者たちの前に立つ。目に入るのは少し不思議そうにしているアイリスだった。どこに居ても彼女だけは目に入ってしまう。
 ここまで来てもまだ未練を持っている自分が余計に情けなく思える。
 そんな気持ちを振り払うように、俺は声を張り上げた。

「みんな、パーティーを始める前に聞いてほしい」

 そう言いながら周りを見渡していると、ふと疑問に思うことがある。こんなにも人が少なかったであろうか? 学園ではもう少し人がいたような……。
 そんなモヤモヤを感じている間に、パーティー会場は先程までの喧騒が嘘のように静かになる。そして視線は全て俺へと集まった。

 もう後には戻れない。今ならまだ誤魔化すことができるのではないか? そんな邪な気持ちを抑えつけ、前を向く。
 
 俺は今日、婚約破棄をするんだ!

「俺は、アイリス・オーフェリアと婚約破棄をする!」

 会場全体に激震が走る。周りがざわついている中、彼女はこう言うだろう。どうし――

「嫌です♪」

 俺のあるようでなかった計画は、彼女の一声で崩壊へと向かった。
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