コルチカム

白キツネ

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2回目

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 私は母の作る焼き立てのパンが好きだった。毎日ではないけど、よく暇を見つけては私のために作ってくれていた。だけど――

 母がパンを作る事はなくなった。それは父の都合により田舎町に引越ししてから1ヶ月と経たないうちだった。
 原因は心労。医者にそう言われ、父は環境が変わったからだと納得した。それだけじゃないのはわかっているくせに、見て見ぬふりをした。少なくとも私はそう感じた。
 父はもともと田舎ぐらしだった。だから受け入れられた……のだと思う。そう感じるぐらいには村人の態度は違った。
 母も私も、父に習って多くの行事に参加した。けれども、彼らにとってはよそ者のままだった。私と母はあの閉鎖的空間に馴染むなど到底できず、そして排除された。

 私たちはあの村から逃げるように母の実家に帰った。しかし母の体調は戻る事なく、亡くなった。その日から私はパンを食べなくなった。

       +   +   +

「ここは……」

 目が覚める。おかしい。私はあの時、彼女に首を切断されて……

 「ッ!」

 慌てて首をさわる。ちゃんとくっついている。何度も確認して、ホッと息つく。でもどういう事だろうか。

「……私はあの時確かに……」

 首を切られた。それは間違いない。その後彼女に言われたのだ。『邪魔をしないで』と。ならば、彼女の目的は私を含めた全員ではなく、健斗たちだということになる。それはまずい。

 どうして私が生きているのか。この旧校舎で何が起こっているのか。謎は深まるばかりだが、それよりもまずはあの3人を探さないと。

 私が死んだと思った3人はきっとここから出ようとするはず。
 なら彼らが向かうのはエントランスだと思う。

 目的地を決め、直ぐに綾香は動き始める。彼女の目的が3人なのだとしたら、なんらかの力でまだこの旧校舎から出れていないはずだ。

「キャー!!」

 階段を下りている途中、沙奈の悲鳴が校舎内に響き渡る。慌てて駆け降り、悲鳴の元へと向かうと、エントランスドアを背に3人が固まっており、彼女たちの向かいには赤い服を来た彼女。

「……でよ! なんでよ! 1人殺したんだからもういいでしょう! 私たちを出してよ!」

 彼女に向かって沙奈が叫ぶ。けれど彼女は何も反応しない。ただ黙って刀を振り上げる。

「ヒィッ」

 彼女の行動に沙奈が怯えた声を上げ、尻餅をつく。優馬はガタガタと震えるだけで何もしない。健斗は震えながらも2人を守ろうと前に出るが、このままでは3人とも全滅だ。

「やぁっ!」

 綾香はここに来るまでに拾ってきた箒をギュッと握り直し、彼女に向かって大きく振りおろした。

「綾香!」「あやちゃん!」

 健斗と沙奈、2人は私の登場に驚いた声を上げる。私の名前を呼ぶ前に逃げてほしいのだけれど。その点、優馬は流石と言うべきだろう。私を気にする事なく、彼女が怯んだ瞬間に彼女とは反対方向にすぐさま走り出した。

 それでいい。逃げ延びてさえくれればそれで十分。

「2人も早く!」
「お、おう!」
「あやちゃんも生きててね!」

 気が動転しているのか、2人は別方向に走り出した。

『どうして邪魔をするの』
「邪魔? そもそもどうしてあなたはあの3人を狙うの?」
『…………』

 黙秘……ね。まあ、答えてもらえるなんて思ってなかったけど。

「どうして! 私は! 死んでないの!」

 今度は箒を振り回しながら質問してみる。答えを期待している訳ではない。だが、聞かずにはいられなかった。
 綾香自身に起きているこの不思議な現象の正体を。

 綾香は何か武術を習っていた訳ではない。ただの一般人だ。綾香もその事は理解しており、だからこそ彼女から距離を取ろうとしていた。

 ――よし今だ!

 持っていた箒を槍のように突き出し、彼女のバランスが崩れる。その隙を見逃さず、逃げようと彼女に背中を向ける。
 その瞬間、自分の胸の辺りから刀が生えた。刀身は血のように真っ赤だった。倒れそうになるのを踏みとどまり、ゆっくりと振り返る。
 
 彼女は綾香の目論見通り尻餅をついていた。しかし、手には刀を持っていなかった。
 綾香は自分に刺さっているのが、彼女の刀であると理解する。
 彼女はゆっくりと立ち上がり、私に近づいて言葉を発した。

『私は貴女の……』

 彼女の言葉の途中で、綾香は力尽きた。
 
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