コルチカム

白キツネ

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帰路

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「ねぇ、健斗。苦しかった? ふふっ、あの時、貴方に階段の上から突き落とされた時とどっちが苦しかったのかしら? あの時、貴方は面白そうに笑っていたものね」

 綾香は健斗に近づき語りかける。もうピクリとも動かない彼を見て、昔の事を思い出す。

 階段から突き落とされた時はとても痛かった。骨も折れていたから当然だろう。それでも誰も助けてくれなかった。周りはみな綾香を笑うだけだった。

「ねぇ、沙奈。季節外れの肝試しに誘ってくれてありがとう。お陰でこんなに綺麗なコルチカムがいっぱい咲いたわ」

 綾香はそう言って旧校舎近くに咲いていたコルチカムを数輪かそれぞれに手渡す。

「沙奈は濃い匂いが嫌いだったもんね。安心して、コルチカムは無臭なの。沙奈も気にいると思うわ」
 
 何もしていないのに、香水をしていると言われ、その匂いを落とすために水を浴びせるぐらいなのだから。きっと香りの強いものよりも気に入ってくれるだろう。

「優馬……貴方は本当に何もしなかった。ただ見て見ぬふり。それは他人にも、自分にも。貴方の靴が盗まれたけど、貴方は誰にも言わなかったでしょう? ありがとう。だから私はここには来ていない事にできるわ」

 そう言って綾香は男物の靴を優馬に見せつけた。土のあるところでは優馬の後ろをついて歩いた。校舎内では優馬はほとんど動いていない。そして誰も証言することはない。

「ふふっ、今日は3人で肝試しして、庭に咲いていた花を食べた。そして運が悪く毒が回ってしまった」

 誰もそんなことするはずないと考えるだろう。けれど、現場はそれ以外に考えられない。

「アハ、アハハハハハ」
 
 ひとしきり1人で笑った後、ようやく落ち着いたので帰路につく。
 帰りに考えるのはあの3人ではなく、彼女のことだった。

 ――おそらく、私が知らないだけであの旧校舎で何人もの子供が死んでいる。それは自殺なのかそれとも……

 今回、彼女が顕現したのはつもり積もった怨嗟と私の殺意が共鳴したからだろう。
 そう綾香は結論付ける。

「彼らもあの子たちの仲間入りをできればいいわね」

 他人事のように綾香はそう呟いた。それは言葉通り、合流して仲良くと言う意味ではない。彼らは受け入れられることはないと確信した上で、あの世でも苦しめばいい。
 そう思ったからこその言葉だった。
 

      +   +   +
 
「おかえり綾香」

 父が話しかけて来た。今日あった事を色々考えている内に、いつのまにか家に着いたみたいだった。

「……ただいま」

 綾香はこの村にもう一度来ると決まってからは父とは上手く話せていなかった。それは綾香にとって、父に対する不信感がなによりも勝ってしまっているからだった。

 ――いつもは何も言わないのに、今日話しかけて来たのはなんだろう?

 いつもは無言で部屋に戻る綾香も、いつもとは違う行動をした父の事が気になり、動けないでいた。

「……明日は母さんの命日だな」
「……うん。そうだね」
「僕がこんな事を言うのは意外だった?」
「そんなこと……ごめん、正直、意外だった」
「それもそっか。綾香には言ってなかったもんな。僕がここに帰って来た理由を」
「……えっ?」

 父はゆっくりと立ち上がり、綾香の前を通り過ぎる。綾香は黙って着いて行った。

 父の目的地は母の部屋だった。母が亡くなってから、綾香は一度も入った事がない部屋。
 父はそっと扉を開ける。その瞬間、綾香の目に映ったのは、部屋一面のコルチカムだった。

「……おとう……さん」
「綺麗だろう? お花が好きだった母さんにどんな花が似合うか探したんだ。そしてこれを見つけた」

 父は惚気るように話すが、綾香はそれどころではなかった。
 部屋の手前……扉付近に置いてある鉢植えには花がない。それには抜き取った跡が残ったままだった。

「ああ、明日のニュースが楽しみだ」

 父は笑顔でそう言った。父のその笑顔を見て綾香は確信した。父は母や綾香のことをどうでもいいとは思っていなかった。ただ機会をうかがってたんだ。母を奪ったこの村に報復する時を。

 綾香は今日あった出来事を父に話した。父は頷きながら黙って話を聞いていた。綾香が話し終えると、今度は父が綾香に今日の事を話した。
 2人がここまで長く話したのはいつ以来だろうか。そう考えてしまうほどに、長く2人はすれ違っていた。
 2人が話し終えた頃には日が跨ぎ、朝のニュースが流れる頃だった。

 ニュースでは子供5名、大人17名が食中毒による死亡、子供3名が行方不明と流れた。

 行方不明なのは健斗たち3人だった。どこを探しても見つからないらしい。綾香はその原因を考える事なく、次の事を考え始めた。

 コルチカム
 花言葉は『私の最良の日々は過ぎ去った』
 そして『永続』

 この毒殺はいつまでも続く。村人が1人も居なくなるまで。
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