31 / 67
第三章 4
しおりを挟む
「……?」
意識を失っていたエルザが、ようやく目を覚ました。まだ、ぼやけている視線の先には、砂混じりの空が陽の光を呑み込もうと重く垂れ込めていた。
そんな空が、円形に切り取られている。
視界の端がどうも薄暗い。
首を左右に動かして、その疑問が解消された。
どうやら、穴の中にいるらしい。
あの化物が開けた穴だ。その証拠に、彼女の脇で、ムカデが無惨な姿で横たわっていた。
現に、頭部だけ残して文字通り死んだ目で、こちらを見つめていた。
「……」
そんなムカデに見つめられ、エルザは背筋を凍らせるしかなかった。
何しろ、目の前にいるのは、化物だ。もしかしたら頭だけでも、飛び掛かってくるかもしれない。――そんな可能性も捨て切れなかったからだ。
――か、体は……?
エルザが慌てて起き上がった。首をさらに忙しなく振り始めた。
そんな彼女に気付いたのは、レッドと一緒に何かを手にしていたユズハだった。
何故か、口をモゴモゴさせている。
「あ。お目覚めですか?」
こちらに近付いてきた彼女の手には、肉塊が握られていたことに、ようやく気がついた。
「……」
状況を把握できないエルザ。
いや、実際はユズハの持っている肉塊が何であるかは、薄々気付いたらしい。
それでも、恐る恐る指さして聞かざるを得なかった。
「これって……」
彼女の言葉に、“待ってました”と言わんばかりに目を輝かせるユズハ。
「これが、高級食材としても知られる“サンディピート”の肉ですよ!」
――やっぱり……。
高級食材といわれても、大きなムカデの“死骸”を目の当たりにしては、食欲が失せるのも無理はない。
そして、ついにエルザは意識を……失ってしまった。その体が、まるで棒のように硬直し、地面に倒れ込んだ。
そんな彼女を一瞥したレッドは、肉を頬張りながら鼻を鳴らした。
「ふん。これだから貴族は……」
その言葉が、一度沈んだエルザの意識を引き上げた。
「!」
何と、弾かれたように目を開いたと同時に、勢いよく飛び起きたのだ。
それほど、レッドから馬鹿にされるのが、我慢できなかったらしい。
まるで条件反射だ。
さらに、興奮しているのか、顔を紅潮させながら、横たわっているムカデの肉体の前まで、迫った。
「……」
その肉をじっと見つめる。
唾や息を呑み込むのさえ、やっとだ。どうやら興奮していたのではないらしい。
目の前の未知の食材と呼べるかどうかさえ怪しい肉塊を、食べられるかどうか――そのことに対する恐怖のようだ。
しかし、彼女の生来の負けず嫌いが作用して、右手が勝手に、切り取られた肉塊を掴んでしまった。
『……』
そんな彼女につられて、レッドやユズハも動きを止めてしまった。思わず、エルザの動きに注目してしまった。
果たして、彼女は食べるのか――。
次の瞬間――、「い、いやあぁぁ!」と叫び、涙を流しながらも無理矢理口に放り込み、やっとの思いで胃へ押し込んだ。
しばらく沈黙が漂っていた。
エルザは、ギュッと目を瞑っている。体が小刻みに震えているようにさえ、見えた。
次の瞬間、彼女の顔が一気に明るくなった。
今度は喜びの涙を流している。
「お、美味しい!」
「……忙しい奴だな」
そんな彼女を目にして、レッドが口元をわずかに綻ばせた。
ちなみに、バグと野生の生物とは、明らかな違いがある。それは、人間を襲う“意思”があるかどうかだ。
もちろん野生の場合も、人から危害を加えられれば、身を守ろうと襲うことはある。
しかしバグは違う。人に気付くなり、闘争心を露わにするのだ。まるで、そうプログラムされているようだ。
要するに、大ムカデはユズハに刺激されなければ、ただ砂の中で泳いでいた訳だ。
そんなことは百も承知で、ユズハ達はムカデの肉を夢中になって食べていた。
生物は、別の生物を摂らなければ生きていけない――。
ユズハ達にとっては当たり前のことだが、食糧に困ったことのないエルザにとっては、衝撃的なことだった。
まあ。その衝撃は、ムカデの“美味しさ”には勝てなかった訳だが……。
三人は――テレーゼは食べない――そんなことを気にせず、いや逆に我先にとムカデの骸に食いついていた。
「これは私のものよ!」
エルザも急に逞しくなったようだ。
「何を言っているんだ! これだから貴族は!」
レッドの言葉に、エルザが頬を膨らませる。
「貴族、貴族って。馬鹿の一つ覚えみたいに!」
「馬鹿だと!」
今度はレッドが顔を赤らめる。
そんな二人のやり取りを後目に、ユズハが黙って自分の取り分を増やしていく。
「へへへ」と気味悪い笑みを浮かべている。
一方今まで黙っていた刀が、騒がしい二人に対し、「おい。肉泥棒がいるぞ」と、ユズハのことを教えてきた。
その言葉に、二人が瞬時に反応する。
『何!?』
ついでに、目も鋭くなっていく。殺気が籠もっているようだ。
二人の殺気を背後に感じたユズハの手が、ピタリと止まる。
『…………』
ジワジワと迫る二人に対し、ユズハが何か言い訳をしなければいけないと、頭を回転させる。
――こ、殺される!
何故か、確信してしまった。
そして突然、ユズハが「それで――」と、エルザに向かって口を開いた。もうこれしか話題がなかった。
いや、実際聞きたいことだった。
「お宝は一体何処に?」
期待を膨らませたような笑顔を、エルザに近づけていく。
「……」
一方エルザは、ユズハの笑顔を視界の端に入れたものの、黙って肉を食べていた。
まるで、話したくないようだった。
ユズハはというと、そんな彼女の反応に気付かないのか、それよりも宝の在り処を聞き出すことの方が重要と考えたのか、なおも食い下がる。
さらに顔を近づけた。
「だから、お宝――」
「……」
今度は、エルザの耳元で大声で叫んでみる。
「だ・か・ら! お・た・か・ら!」
ムカデの作った洞窟が、揺さぶられてしまった。
おかげで、小動物がパニックを起こし、逃げ惑う。
絶対、聴覚が麻痺しただろうと思うのだが、エルザはやはり黙したままだった。
逆にレッドの方が耳を塞ぐ始末だ。
「ハァ。ハァ。ハァ……」
一方ユズハは、しばらく呼吸を整えながら、エルザの出方を待ってみた。
彼女が何かを隠していることだけは分かったからだ。
――まだ、私たちを信用してないのかしら……。
なぜか、寂しい気分になってしまった。ただの依頼人なのに、だ。
もしかしたら、彼女の過去話に同情しているのかも。
――私が……?
「……」
そんなユズハに対し、エルザは沈黙を保っていた。
いや、視線がようやくユズハに向けられた。
そして、小さく息を吐いた。それは溜息のようにも聞こえた。
「確かに宝はあるわ」
「嘘じゃないのね!」
「……けれど、多分あなたが思っているようなものじゃない」
エルザの視線と言霊が、足下に沈んでいく。その表情は、心なしか悲しみを帯びていた。
そんな、いつもと違う彼女の言動を目にし、ユズハは静かに肩を落とした。
それは、彼女に嘘を吐かれたためではない。――やはりこれは、信用されなかったことに対してだ。
今自分の気持ちに向き合えた気がした。
ユズハが気取られまいと、無意識にいつも通りに振る舞った。
「えっ。私を騙したの!?」
いや、わずかにいつもより声が怒っていた。“演技”が過剰だったか?
ユズハの顔が、わずかに弛緩した。
それは、直感が当たったことによる喜びか、それとも自分のことを信用してくれなかったという落胆か。――まぁ。元々、自分は他人を信用せずに、金だけを信用してきた。
今更、何故感情が揺れ動くのか。
そんな彼女の心の変化に気付かないのか、エルザは神妙な面持ちで続けた。
「でも、そうしないと助けてくれないでしょ」
エルザの鋭い視線が、ユズハに突き刺さった。
「それは……」
何故か、言葉に詰まるユズハ。
――そうね。私って、そういう人間よ。今更、人助けのつもり?
そんな彼女のやりとりを、今まで黙って聞いていたレッドが口を開いた。
「それは違うだろ」
「えっ?」
その呟きに、エルザが振り返った。
「俺達は、金で繋がっている関係。だったら、騙す、騙される関係もない。――金をもらうかどうか。それだけだろ? そもそも信頼関係なんかないんだよ」
「だから――」
「だから、お宝は何処にあるんだ。それだけ分かれば……用はない」
『!?』
エルザだけでなく、ユズハも目を見開いた。
レッドの冷たい言霊が、周囲をじわじわと凍り付かせていく。
息苦しい沈黙を破ったのは、やはりアイツだった。
「――どうした。急にヒール気取りか? おめぇらしくねぇぞ」
砕封魔だ。
冗談めかして言っているようにも聞こえるが、何処かで諫めるようにも聞こえる。
「いや別に。ただ俺も、いつまでも“ぶら下げられた人参”だけで、働かされるのがまっぴらなだけだ」
レッドが吐き捨てるように発した。
一体、どうしてこんなに苛ついているのだろうか……。
果たして、自分が欲しい“人参”とは、何のことを指しているのか。
「いちいち苛立つんじゃねぇよ。それじゃあ。馬以下だぜぇ? ――いや、バグ以下か」
「何!? お前だって、バグだろうが!」
「だから言ってんだろうが!」
「!」
「別に相手を信用しなくても良いじゃねぇか。元々そういう関係なんだろ? だったら、結局おめぇがどうしたいかじゃねぇのか。お宝を目当てでついて来た。だがお宝は、もしかしたら予想と違うかもしれねぇ。――だったら、話は簡単だ。ここで街に戻るか、ここから“自分の足”で付いてくるか……のニ択だ」
「……」
砕封魔の問いに、何故かレッドが沈黙を貫いてしまった。まるで、鉛を飲まされたようだった。
「良いか? おめぇは、今まで人のせいにして生きてきたんだろ。それでも構わねぇ。だがな。なら、黙って長いものに巻かれていろ。今更吠えるな!」
刀の鋭い言葉に、レッドが力一杯拳を握った。
「……」
レッド達のやりとりを見ていたエルザの表情が、さらに沈んでいく。
元を辿れば、自分の発言が発端だ。罪悪感、とは違う……多分。でも後味が悪い。
その時だった――。
知らぬ間に“誰か”が背後に現れたのだ。
意識を失っていたエルザが、ようやく目を覚ました。まだ、ぼやけている視線の先には、砂混じりの空が陽の光を呑み込もうと重く垂れ込めていた。
そんな空が、円形に切り取られている。
視界の端がどうも薄暗い。
首を左右に動かして、その疑問が解消された。
どうやら、穴の中にいるらしい。
あの化物が開けた穴だ。その証拠に、彼女の脇で、ムカデが無惨な姿で横たわっていた。
現に、頭部だけ残して文字通り死んだ目で、こちらを見つめていた。
「……」
そんなムカデに見つめられ、エルザは背筋を凍らせるしかなかった。
何しろ、目の前にいるのは、化物だ。もしかしたら頭だけでも、飛び掛かってくるかもしれない。――そんな可能性も捨て切れなかったからだ。
――か、体は……?
エルザが慌てて起き上がった。首をさらに忙しなく振り始めた。
そんな彼女に気付いたのは、レッドと一緒に何かを手にしていたユズハだった。
何故か、口をモゴモゴさせている。
「あ。お目覚めですか?」
こちらに近付いてきた彼女の手には、肉塊が握られていたことに、ようやく気がついた。
「……」
状況を把握できないエルザ。
いや、実際はユズハの持っている肉塊が何であるかは、薄々気付いたらしい。
それでも、恐る恐る指さして聞かざるを得なかった。
「これって……」
彼女の言葉に、“待ってました”と言わんばかりに目を輝かせるユズハ。
「これが、高級食材としても知られる“サンディピート”の肉ですよ!」
――やっぱり……。
高級食材といわれても、大きなムカデの“死骸”を目の当たりにしては、食欲が失せるのも無理はない。
そして、ついにエルザは意識を……失ってしまった。その体が、まるで棒のように硬直し、地面に倒れ込んだ。
そんな彼女を一瞥したレッドは、肉を頬張りながら鼻を鳴らした。
「ふん。これだから貴族は……」
その言葉が、一度沈んだエルザの意識を引き上げた。
「!」
何と、弾かれたように目を開いたと同時に、勢いよく飛び起きたのだ。
それほど、レッドから馬鹿にされるのが、我慢できなかったらしい。
まるで条件反射だ。
さらに、興奮しているのか、顔を紅潮させながら、横たわっているムカデの肉体の前まで、迫った。
「……」
その肉をじっと見つめる。
唾や息を呑み込むのさえ、やっとだ。どうやら興奮していたのではないらしい。
目の前の未知の食材と呼べるかどうかさえ怪しい肉塊を、食べられるかどうか――そのことに対する恐怖のようだ。
しかし、彼女の生来の負けず嫌いが作用して、右手が勝手に、切り取られた肉塊を掴んでしまった。
『……』
そんな彼女につられて、レッドやユズハも動きを止めてしまった。思わず、エルザの動きに注目してしまった。
果たして、彼女は食べるのか――。
次の瞬間――、「い、いやあぁぁ!」と叫び、涙を流しながらも無理矢理口に放り込み、やっとの思いで胃へ押し込んだ。
しばらく沈黙が漂っていた。
エルザは、ギュッと目を瞑っている。体が小刻みに震えているようにさえ、見えた。
次の瞬間、彼女の顔が一気に明るくなった。
今度は喜びの涙を流している。
「お、美味しい!」
「……忙しい奴だな」
そんな彼女を目にして、レッドが口元をわずかに綻ばせた。
ちなみに、バグと野生の生物とは、明らかな違いがある。それは、人間を襲う“意思”があるかどうかだ。
もちろん野生の場合も、人から危害を加えられれば、身を守ろうと襲うことはある。
しかしバグは違う。人に気付くなり、闘争心を露わにするのだ。まるで、そうプログラムされているようだ。
要するに、大ムカデはユズハに刺激されなければ、ただ砂の中で泳いでいた訳だ。
そんなことは百も承知で、ユズハ達はムカデの肉を夢中になって食べていた。
生物は、別の生物を摂らなければ生きていけない――。
ユズハ達にとっては当たり前のことだが、食糧に困ったことのないエルザにとっては、衝撃的なことだった。
まあ。その衝撃は、ムカデの“美味しさ”には勝てなかった訳だが……。
三人は――テレーゼは食べない――そんなことを気にせず、いや逆に我先にとムカデの骸に食いついていた。
「これは私のものよ!」
エルザも急に逞しくなったようだ。
「何を言っているんだ! これだから貴族は!」
レッドの言葉に、エルザが頬を膨らませる。
「貴族、貴族って。馬鹿の一つ覚えみたいに!」
「馬鹿だと!」
今度はレッドが顔を赤らめる。
そんな二人のやり取りを後目に、ユズハが黙って自分の取り分を増やしていく。
「へへへ」と気味悪い笑みを浮かべている。
一方今まで黙っていた刀が、騒がしい二人に対し、「おい。肉泥棒がいるぞ」と、ユズハのことを教えてきた。
その言葉に、二人が瞬時に反応する。
『何!?』
ついでに、目も鋭くなっていく。殺気が籠もっているようだ。
二人の殺気を背後に感じたユズハの手が、ピタリと止まる。
『…………』
ジワジワと迫る二人に対し、ユズハが何か言い訳をしなければいけないと、頭を回転させる。
――こ、殺される!
何故か、確信してしまった。
そして突然、ユズハが「それで――」と、エルザに向かって口を開いた。もうこれしか話題がなかった。
いや、実際聞きたいことだった。
「お宝は一体何処に?」
期待を膨らませたような笑顔を、エルザに近づけていく。
「……」
一方エルザは、ユズハの笑顔を視界の端に入れたものの、黙って肉を食べていた。
まるで、話したくないようだった。
ユズハはというと、そんな彼女の反応に気付かないのか、それよりも宝の在り処を聞き出すことの方が重要と考えたのか、なおも食い下がる。
さらに顔を近づけた。
「だから、お宝――」
「……」
今度は、エルザの耳元で大声で叫んでみる。
「だ・か・ら! お・た・か・ら!」
ムカデの作った洞窟が、揺さぶられてしまった。
おかげで、小動物がパニックを起こし、逃げ惑う。
絶対、聴覚が麻痺しただろうと思うのだが、エルザはやはり黙したままだった。
逆にレッドの方が耳を塞ぐ始末だ。
「ハァ。ハァ。ハァ……」
一方ユズハは、しばらく呼吸を整えながら、エルザの出方を待ってみた。
彼女が何かを隠していることだけは分かったからだ。
――まだ、私たちを信用してないのかしら……。
なぜか、寂しい気分になってしまった。ただの依頼人なのに、だ。
もしかしたら、彼女の過去話に同情しているのかも。
――私が……?
「……」
そんなユズハに対し、エルザは沈黙を保っていた。
いや、視線がようやくユズハに向けられた。
そして、小さく息を吐いた。それは溜息のようにも聞こえた。
「確かに宝はあるわ」
「嘘じゃないのね!」
「……けれど、多分あなたが思っているようなものじゃない」
エルザの視線と言霊が、足下に沈んでいく。その表情は、心なしか悲しみを帯びていた。
そんな、いつもと違う彼女の言動を目にし、ユズハは静かに肩を落とした。
それは、彼女に嘘を吐かれたためではない。――やはりこれは、信用されなかったことに対してだ。
今自分の気持ちに向き合えた気がした。
ユズハが気取られまいと、無意識にいつも通りに振る舞った。
「えっ。私を騙したの!?」
いや、わずかにいつもより声が怒っていた。“演技”が過剰だったか?
ユズハの顔が、わずかに弛緩した。
それは、直感が当たったことによる喜びか、それとも自分のことを信用してくれなかったという落胆か。――まぁ。元々、自分は他人を信用せずに、金だけを信用してきた。
今更、何故感情が揺れ動くのか。
そんな彼女の心の変化に気付かないのか、エルザは神妙な面持ちで続けた。
「でも、そうしないと助けてくれないでしょ」
エルザの鋭い視線が、ユズハに突き刺さった。
「それは……」
何故か、言葉に詰まるユズハ。
――そうね。私って、そういう人間よ。今更、人助けのつもり?
そんな彼女のやりとりを、今まで黙って聞いていたレッドが口を開いた。
「それは違うだろ」
「えっ?」
その呟きに、エルザが振り返った。
「俺達は、金で繋がっている関係。だったら、騙す、騙される関係もない。――金をもらうかどうか。それだけだろ? そもそも信頼関係なんかないんだよ」
「だから――」
「だから、お宝は何処にあるんだ。それだけ分かれば……用はない」
『!?』
エルザだけでなく、ユズハも目を見開いた。
レッドの冷たい言霊が、周囲をじわじわと凍り付かせていく。
息苦しい沈黙を破ったのは、やはりアイツだった。
「――どうした。急にヒール気取りか? おめぇらしくねぇぞ」
砕封魔だ。
冗談めかして言っているようにも聞こえるが、何処かで諫めるようにも聞こえる。
「いや別に。ただ俺も、いつまでも“ぶら下げられた人参”だけで、働かされるのがまっぴらなだけだ」
レッドが吐き捨てるように発した。
一体、どうしてこんなに苛ついているのだろうか……。
果たして、自分が欲しい“人参”とは、何のことを指しているのか。
「いちいち苛立つんじゃねぇよ。それじゃあ。馬以下だぜぇ? ――いや、バグ以下か」
「何!? お前だって、バグだろうが!」
「だから言ってんだろうが!」
「!」
「別に相手を信用しなくても良いじゃねぇか。元々そういう関係なんだろ? だったら、結局おめぇがどうしたいかじゃねぇのか。お宝を目当てでついて来た。だがお宝は、もしかしたら予想と違うかもしれねぇ。――だったら、話は簡単だ。ここで街に戻るか、ここから“自分の足”で付いてくるか……のニ択だ」
「……」
砕封魔の問いに、何故かレッドが沈黙を貫いてしまった。まるで、鉛を飲まされたようだった。
「良いか? おめぇは、今まで人のせいにして生きてきたんだろ。それでも構わねぇ。だがな。なら、黙って長いものに巻かれていろ。今更吠えるな!」
刀の鋭い言葉に、レッドが力一杯拳を握った。
「……」
レッド達のやりとりを見ていたエルザの表情が、さらに沈んでいく。
元を辿れば、自分の発言が発端だ。罪悪感、とは違う……多分。でも後味が悪い。
その時だった――。
知らぬ間に“誰か”が背後に現れたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる