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第三・五章
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帝は、たった今臣下から受け取った手紙に目を通した。その表情は、読んでいくうちに徐々に驚きに変わっていった。
――あのジェットが作戦を失敗しただと……。
しかも命を落としたと書かれている。そんな馬鹿な……。
確かに、ジャンク・ボンドは手強い。
だからこそ、ジェットを派遣したというのに。自分の計算では、勝つことはできないとしても、共倒れにはできるはずだった。とりあえず、自分に手向かうほどの戦力でなければ、良かったのだが……。
彼がそう簡単に負けることが、想像できなかった。
それにしても、手紙に書いていある“レッド”という見届人とは、それほどの力を持っている人物なのか。そのおかげでジェットは負けたと記されているが、どうも信じられない。
確かに、リュウランゼと見届人の組み合わせは自分が行っている。しかし、ほとんどはランクや成績で決めている。
現に、レッドと組ませたのは、“あの孤児院”での成績が最下位だったことに起因する。報告書によると、レッドは孤児院では、勉学も戦闘もすべて駄目。人間関係も構築できずに、常に孤独だったという。
――“彼は常に劣等感の塊だった”。
担任の報告書には、こう記されていた。
だからこそ、ヤツと組ませたのだ。
つまり、ジャンク・ボンドの足を引っ張ってもらって、あわよくばヤツと共に命を落として欲しかったのだ。
しかもヤツが、いつも孤独なジャンク・ボンドが、レッドだけには協力して目の前の敵を倒したという。
このことも信じられなかった。誰とも馴れ合あわず、常に誰かといさかいを起こしてしまうアイツが。
――何か、見えない力が働いている……?
そうとしか思えなかった。
別に運命を信じている訳ではない。むしろ、自分で作っていけるほどの力を持ち合わせているという自負すらある。それなのに、何だ。この言い知れぬ違和感は……。
帝の目がわずかに見開いた。
だがすぐに平静を取り戻したらしく、片方の掌に乗せた手紙をあっという間に、消し炭すら残さずに燃やし尽くした。
そんな黒い炎を見つめながら、帝はあることを考えていた。実は、予想外の出来事が起こったにもかかわらず、すぐに平静を取り戻せたのには理由があった。
実は、“保険”を掛けていたのだ。
もし万が一、ジェットが作戦をしくじったとしても、その裏でもう一つの作戦が進んでいたのだ。
といっても、本当に保険として、だ。ジェットが負けるとは微塵も思っていなかったのは事実だ。
「……」
帝の視線が、たった今手紙を届けてくれた臣下にスライドしていく。
そんな身も凍るような鋭い視線を浴びて、体全体を強張らせた臣下が、仰々しく敬礼をしながら、恐怖で震える喉を使って声を無理矢理張り上げた。
「はっ! 作戦は順調に進んでおります!」
臣下の上擦った声が室内に響くなか、帝は再度掌から黒い炎を出して空中に浮かばせた。突然室内の光が炎に吸収され、闇の帳が下りたかと思うと、辺りに灼熱の熱波が顔を出す。
そんな黒い炎には、とある風景が映し出されていた。どうやら、夜のようだ。雲一つない星空の下、夜気で冷え切った荒野が月光を反射させていた。
そんな、草もロクに生えていない荒野を、とてつもなく大きな何かが、まるで大蛇の群れのごとく、自分の一部をうねらせながら移動している。その大きさは、まるで天にも届きそうなほどの大きさをしていて、現に月の一部が欠けているように錯覚するほどだった。
炎から声が聞こえた。雑音が入るのか、声の主を何か大きな振動が襲っているのか、その声はところどころ途切れていた。
「た、ただ今、“レバンテ”ち、地方の沼地、ふ、付近を進行中! も、目的地の森、りまで恐らく数日は掛かると思われます!」
どうやら、その天にも届きそうなほど大きな“何か”に乗りながら、別の臣下が報告しているらしい。
「……」
そんな臣下の報告を受け、帝が無言で頷いた。
帝の視線の向こう、つまり炎に映っていたのは、大きな大きな木だった。まさに天にも届きそうなほどの高さで、まるで空に敷き詰められているかのように茂った葉や枝の群れが、振動の度に豪快に擦れて大きな音を立てていた。
そればかりではない。
蛇のようにうごめていたのは、木の根の集合体だった。何と、それらが、まるで足のように器用に動きながら、荒野の上を這って移動しているのだ。
そんな木が通った後には、まるで谷のように派手に陥没し、道のようなものが続いていた。
そんな道には、すでにあった村や森、動物や人間などが地面に埋められていた。その顔は、恐怖や驚き、苦痛の表情が張り付いていた。
つまり、木が全てを踏みつけながら、まっすぐに移動していたのだ。
そうまでしてこの木は、一体何処を、いや何を目指しているのだろうか。
「……」
そんな奇妙な、いや異様な大樹を眺めながら、帝はわずかに口角を上げていた……。
――あのジェットが作戦を失敗しただと……。
しかも命を落としたと書かれている。そんな馬鹿な……。
確かに、ジャンク・ボンドは手強い。
だからこそ、ジェットを派遣したというのに。自分の計算では、勝つことはできないとしても、共倒れにはできるはずだった。とりあえず、自分に手向かうほどの戦力でなければ、良かったのだが……。
彼がそう簡単に負けることが、想像できなかった。
それにしても、手紙に書いていある“レッド”という見届人とは、それほどの力を持っている人物なのか。そのおかげでジェットは負けたと記されているが、どうも信じられない。
確かに、リュウランゼと見届人の組み合わせは自分が行っている。しかし、ほとんどはランクや成績で決めている。
現に、レッドと組ませたのは、“あの孤児院”での成績が最下位だったことに起因する。報告書によると、レッドは孤児院では、勉学も戦闘もすべて駄目。人間関係も構築できずに、常に孤独だったという。
――“彼は常に劣等感の塊だった”。
担任の報告書には、こう記されていた。
だからこそ、ヤツと組ませたのだ。
つまり、ジャンク・ボンドの足を引っ張ってもらって、あわよくばヤツと共に命を落として欲しかったのだ。
しかもヤツが、いつも孤独なジャンク・ボンドが、レッドだけには協力して目の前の敵を倒したという。
このことも信じられなかった。誰とも馴れ合あわず、常に誰かといさかいを起こしてしまうアイツが。
――何か、見えない力が働いている……?
そうとしか思えなかった。
別に運命を信じている訳ではない。むしろ、自分で作っていけるほどの力を持ち合わせているという自負すらある。それなのに、何だ。この言い知れぬ違和感は……。
帝の目がわずかに見開いた。
だがすぐに平静を取り戻したらしく、片方の掌に乗せた手紙をあっという間に、消し炭すら残さずに燃やし尽くした。
そんな黒い炎を見つめながら、帝はあることを考えていた。実は、予想外の出来事が起こったにもかかわらず、すぐに平静を取り戻せたのには理由があった。
実は、“保険”を掛けていたのだ。
もし万が一、ジェットが作戦をしくじったとしても、その裏でもう一つの作戦が進んでいたのだ。
といっても、本当に保険として、だ。ジェットが負けるとは微塵も思っていなかったのは事実だ。
「……」
帝の視線が、たった今手紙を届けてくれた臣下にスライドしていく。
そんな身も凍るような鋭い視線を浴びて、体全体を強張らせた臣下が、仰々しく敬礼をしながら、恐怖で震える喉を使って声を無理矢理張り上げた。
「はっ! 作戦は順調に進んでおります!」
臣下の上擦った声が室内に響くなか、帝は再度掌から黒い炎を出して空中に浮かばせた。突然室内の光が炎に吸収され、闇の帳が下りたかと思うと、辺りに灼熱の熱波が顔を出す。
そんな黒い炎には、とある風景が映し出されていた。どうやら、夜のようだ。雲一つない星空の下、夜気で冷え切った荒野が月光を反射させていた。
そんな、草もロクに生えていない荒野を、とてつもなく大きな何かが、まるで大蛇の群れのごとく、自分の一部をうねらせながら移動している。その大きさは、まるで天にも届きそうなほどの大きさをしていて、現に月の一部が欠けているように錯覚するほどだった。
炎から声が聞こえた。雑音が入るのか、声の主を何か大きな振動が襲っているのか、その声はところどころ途切れていた。
「た、ただ今、“レバンテ”ち、地方の沼地、ふ、付近を進行中! も、目的地の森、りまで恐らく数日は掛かると思われます!」
どうやら、その天にも届きそうなほど大きな“何か”に乗りながら、別の臣下が報告しているらしい。
「……」
そんな臣下の報告を受け、帝が無言で頷いた。
帝の視線の向こう、つまり炎に映っていたのは、大きな大きな木だった。まさに天にも届きそうなほどの高さで、まるで空に敷き詰められているかのように茂った葉や枝の群れが、振動の度に豪快に擦れて大きな音を立てていた。
そればかりではない。
蛇のようにうごめていたのは、木の根の集合体だった。何と、それらが、まるで足のように器用に動きながら、荒野の上を這って移動しているのだ。
そんな木が通った後には、まるで谷のように派手に陥没し、道のようなものが続いていた。
そんな道には、すでにあった村や森、動物や人間などが地面に埋められていた。その顔は、恐怖や驚き、苦痛の表情が張り付いていた。
つまり、木が全てを踏みつけながら、まっすぐに移動していたのだ。
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「……」
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