ジャンク・ボンド~気になるアイツは、強すぎてランク外になったようです~

銀崎 暁樹

文字の大きさ
46 / 67

第三・五章

しおりを挟む
 帝は、たった今臣下から受け取った手紙に目を通した。その表情は、読んでいくうちに徐々に驚きに変わっていった。



 ――あのジェットが作戦を失敗しただと……。



 しかも命を落としたと書かれている。そんな馬鹿な……。



 確かに、ジャンク・ボンドは手強い。

 だからこそ、ジェットを派遣したというのに。自分の計算では、勝つことはできないとしても、共倒れにはできるはずだった。とりあえず、自分に手向かうほどの戦力でなければ、良かったのだが……。



 彼がそう簡単に負けることが、想像できなかった。



 それにしても、手紙に書いていある“レッド”という見届人とは、それほどの力を持っている人物なのか。そのおかげでジェットは負けたと記されているが、どうも信じられない。

 確かに、リュウランゼと見届人の組み合わせは自分が行っている。しかし、ほとんどはランクや成績で決めている。



 現に、レッドと組ませたのは、“あの孤児院”での成績が最下位だったことに起因する。報告書によると、レッドは孤児院では、勉学も戦闘もすべて駄目。人間関係も構築できずに、常に孤独だったという。



 ――“彼は常に劣等感の塊だった”。

 担任の報告書には、こう記されていた。



 だからこそ、ヤツと組ませたのだ。

 つまり、ジャンク・ボンドの足を引っ張ってもらって、あわよくばヤツと共に命を落として欲しかったのだ。



 しかもヤツが、いつも孤独なジャンク・ボンドが、レッドだけには協力して目の前の敵を倒したという。

 このことも信じられなかった。誰とも馴れ合あわず、常に誰かといさかいを起こしてしまうアイツが。



 ――何か、見えない力が働いている……?

 そうとしか思えなかった。

 別に運命を信じている訳ではない。むしろ、自分で作っていけるほどの力を持ち合わせているという自負すらある。それなのに、何だ。この言い知れぬ違和感は……。



 帝の目がわずかに見開いた。

 だがすぐに平静を取り戻したらしく、片方の掌に乗せた手紙をあっという間に、消し炭すら残さずに燃やし尽くした。



 そんな黒い炎を見つめながら、帝はあることを考えていた。実は、予想外の出来事が起こったにもかかわらず、すぐに平静を取り戻せたのには理由があった。



 実は、“保険”を掛けていたのだ。

 もし万が一、ジェットが作戦をしくじったとしても、その裏でもう一つの作戦が進んでいたのだ。

 といっても、本当に保険として、だ。ジェットが負けるとは微塵も思っていなかったのは事実だ。



 「……」



 帝の視線が、たった今手紙を届けてくれた臣下にスライドしていく。



 そんな身も凍るような鋭い視線を浴びて、体全体を強張らせた臣下が、仰々しく敬礼をしながら、恐怖で震える喉を使って声を無理矢理張り上げた。



 「はっ! 作戦は順調に進んでおります!」



 臣下の上擦った声が室内に響くなか、帝は再度掌から黒い炎を出して空中に浮かばせた。突然室内の光が炎に吸収され、闇の帳が下りたかと思うと、辺りに灼熱の熱波が顔を出す。



 そんな黒い炎には、とある風景が映し出されていた。どうやら、夜のようだ。雲一つない星空の下、夜気で冷え切った荒野が月光を反射させていた。



 そんな、草もロクに生えていない荒野を、とてつもなく大きな何かが、まるで大蛇の群れのごとく、自分の一部をうねらせながら移動している。その大きさは、まるで天にも届きそうなほどの大きさをしていて、現に月の一部が欠けているように錯覚するほどだった。



 炎から声が聞こえた。雑音が入るのか、声の主を何か大きな振動が襲っているのか、その声はところどころ途切れていた。

 「た、ただ今、“レバンテ”ち、地方の沼地、ふ、付近を進行中! も、目的地の森、りまで恐らく数日は掛かると思われます!」



 どうやら、その天にも届きそうなほど大きな“何か”に乗りながら、別の臣下が報告しているらしい。



 「……」



 そんな臣下の報告を受け、帝が無言で頷いた。



 帝の視線の向こう、つまり炎に映っていたのは、大きな大きな木だった。まさに天にも届きそうなほどの高さで、まるで空に敷き詰められているかのように茂った葉や枝の群れが、振動の度に豪快に擦れて大きな音を立てていた。



 そればかりではない。



 蛇のようにうごめていたのは、木の根の集合体だった。何と、それらが、まるで足のように器用に動きながら、荒野の上を這って移動しているのだ。



 そんな木が通った後には、まるで谷のように派手に陥没し、道のようなものが続いていた。

 そんな道には、すでにあった村や森、動物や人間などが地面に埋められていた。その顔は、恐怖や驚き、苦痛の表情が張り付いていた。

 つまり、木が全てを踏みつけながら、まっすぐに移動していたのだ。



 そうまでしてこの木は、一体何処を、いや何を目指しているのだろうか。



 「……」



 そんな奇妙な、いや異様な大樹を眺めながら、帝はわずかに口角を上げていた……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...