ジャンク・ボンド~気になるアイツは、強すぎてランク外になったようです~

銀崎 暁樹

文字の大きさ
62 / 67

第四章 16

しおりを挟む
一方その頃砕封魔は、建物の陰から、ある一点を覗き込んでいた。



 それは、村人たちがプルシャの木の根の間に空いた穴に吸い込まれるように入っていく光景だった。



 そんな村人たちの目には生気がなく、虚ろで、足取りもどこか覚束なかった。



 テレーゼが村人たちに気づかれないように、音もなくプルシャの中に忍び込んでいった。



 プルシャの中は、かなり広く、上を見上げれば視界の届かないほどの遠くまで、空間が広がっていた。



 そんな空間に、視界に収まらないほど大きな物体が空中に浮いていた。



 それは琥珀色した物体だった。



 ――こんなにでかいモジュール初めて見たぜぇ……。



 さすがの砕封魔も、一瞬言葉を失った。



 そんな刀を余所に、木肌の腕のようなものが忙しなく動き、無抵抗の村人たちを次々に捕らえ、なんとそのモジュールの中に押し込めていった。



 直後、モジュールが僅かに膨らんでいく。



 こんな作業を、まるで工場のように規則正しく続けていた。



 しばらくすると、木肌の腕の先が今度はモジュールのなかに入っていったかと思うと、その中から何かを取り出し始めた。



 よくみると、さっき取り込まれたはずの人間だった。しかし何処か様子が違った。



 顔つきだ。



 さっきまでの生気のない表情が嘘のように、今は活力に満ちたような表情に変わっている。



 いや、それどころか、邪悪な気さえ纏っているような感じさえする。



 ――まさか。ここで、ガワだけ人間そっくりのバグを生産してるってぇのか? まるで、移動式のプラントじゃねぇか……。



 さらに驚く砕封魔は、周囲の異変に気づけなかった。



 「!」



 テレーゼの死角から、木の腕が突然飛び出し、彼女の四肢を縛り上げたのだ。



 「くっ! 俺としたことが……」



 毒づくテレーゼの体が、文字通り十字架のように吊されていく。



 同時に、一本の腕が砕封魔を取り上げてしまった。しかもその際、刀と手を繋いであった糸も切られてしまった。



 ――万事休すか……。



 *



 その頃レーツェルとユズハは、村の中までやって来ていた。

 しかし村の中は、誰一人としていなかった。



 当然である。

 村人たちは皆プルシャに取り込まれてしまったのだから。



 いや、どうやら違うようだ。



 男が一人だけ、道路に座り込み、うなだれている。



 なにかブツブツと喋っているが、聞き取れない。

 そんな男に、ユズハが恐れもせずに話しかけた。



 「ねぇ。何で、この村誰もいないの?」



 しかし男は、一向にユズハの話を聞かず自分の世界に浸っている。



 「オラ。命の恩人を見殺しにするかもしれねぇ」



 男が恐怖に震えていた。



 黙ってプルシャに向かおうとするレーツェルに対し、ユズハの興味はその男から離れることはなかった。さらに話し掛けたのだ。



 「それって、どういうこと?」



 男が、初めて話しかけていることに気づき、丸くした目をユズハに向けた。



 「み、見たこともねぇ片刃の剣を持った女が、プルシャに向かって行っただ。――あの時、オラを助けてくれたのに。駄目だ。オラ何も出来なかった……」



 男の顔が悔し涙で濡れていた。



 一方ユズハの怪訝そうだった顔が、話を聞いてくに連れて、少しずつ明るくなっていく。



 「片刃の剣? ……まさか。ねぇ。その女って、口調も声も男みたいじゃなかった?」



 ユズハの言葉に、男が激しく頷いた。



 「んだ! んだ!」



 「やっぱり」



 そう言うユズハは、今度は先を行くレーツェルを追い越して走り出した。



 「早く行きましょ! アイツがいるなら、多分“アイツ”もいるはずよ!」



 なぜか、笑顔に変わっていた。



 『……』



 そんな二人の背中を、はるか後方で何人もの村人が黙って見ていた。皆一様に、静かに殺気を纏っている。



 さっきの男が、それぞれ得物を手にした村人に気づき、慌てて制止しようとした。



 「な、何するだ!」



 直後、男は何も発すこともなく、その場に崩れ落ちてしまった。



 一方話し掛けられた村人の一人は、血に染まった刃物を手にしながら、二度と起き上がってこない男を一瞥した後、他の村人たちと共に、レーツェルたちを追いかけて行った。



 村人が駆け寄ると、レーツェルはその殺気を察知したのか、振り返りユズハの前に出た。



 もちろん、ショーテルに手を掛けながら、だ。

 目線が左右に振られ、〝敵〟の戦闘能力を調べていた。



 一方ユズハは、「ハハハ……。何か、歓迎……しているようには見えない、よね」と、一応笑顔を作ってはいたが、村人が放つ異様な空気に戸惑いを隠せなかった。



 そしてユズハが、「何か知らないけど、――ごめんなさい!」と言いながら、〝お手上げ〟のポーズように両手を上げた。



 両腕が頭上に到達した瞬間、指先から糸が四方八方に飛散した。

 直後、村人たちが手にしていた、得物に絡みついていった。



 『!?』



 状況を把握できずに、困惑する村人たち。



 一方ユズハは、さっきまでの弱腰な態度が嘘のように、たわわな胸を反らしながら仁王立ちをする。



 「さぁ。この村で一番見晴らしの良いパーティー会場に案内しなさい」



 ユズハの視線がプルシャに向けられた。



 しかし、その後村人に視線を戻すと、驚きの表情へと変えざるを得なかった。



 「ちょ、ちょっと! いくら私が魅力的だからって、一度に迫られたら体が持たないわ!」



 なんと、村人がじわりじわりと距離を縮めて来ていたのだ。



 そんな彼女に対し、レーツェルが冷静に分析をしていた。



 「コイツら、何か変だぞ」



 そう言いながら、静かに抜刀して構え始めた。



 「変って――」



 ユズハの言葉が途切れてしまった。



 彼女の喉や手足が、〝蔓〟のようなもので縛り上げられてしまい、声が出せなくなっていた。



 よく見ると、村人の手足どころか、頭部が枝や蔓のように変化していた。



 声の出せないユズハに対し、レーツェルは「どうやら、バグのようだ」と眉一つ動かさず、その代わりにショーテルを振り出した。



 枝の鋭い先が真正面から飛んでくるのを、素早く右に避けながら切断。



 刹那、別の蔓が左腕と左足に絡みついた。



 あまりの力強さに、体が左側に引きずられそうになる。



 それをショーテルで切り落とそうとするが、右手にも絡みついて動けなくなってしまう。

 そして、まるで〝大の字〟のような格好で立たされるハメになってしまった。



 「……」



 じわじわと、レーツェルの手足を絞り始める枝や蔓。

 そして、まるでゾンビのごとく、ゆっくりと迫り来る村人たち。



 しかしレーツェルは、一切焦るような素振りを見せなかった。



 直後、あまりにも枝の絞る力が強かったのか、彼の拳が開かれショーテルが地面に落ち――なかった。



 なんと、ショーテルが回転しながら落下していくのを、レーツェルは視線だけで追っていくと、丁度柄頭が下になるタイミングを見極め、足の甲で受け止め、すかさず蹴り上げたのだ。



 空中に蹴り上げられるショーテル。



 放物線を描きながら、向かう先は――何と、レーツェルの右腕を封じていた村人だった。



 たった今、村人の頭頂部に刃先が刺さり、無言で倒れてしまった。

 お陰で、右手を封じていた枝が、まるで土のように変化して風に飛ばされてしまった。



 予想外の出来事に、一瞬レーツェルから気を逸らしてしまった村人。――その透きに、左腕に絡みついた枝を右手で強引に引っ張った。



 「……」



 村人の一人が、よろけながらレーツェルに引き寄せられる。



 瞬間、近づいてきた村人の鳩尾を蹴り飛ばすレーツェル。



 村人の体が、〝くの字〟に曲がる。



 「……!」



 さすがの村人にも苦悶の表情が張り付いた。直後、左腕に絡みついていた枝が、離れてしまった。



 ――次は左足!



 今度は、右に転がった。



 そうすることで、今度は左足を掴んでいた村人を自身の体に引き寄せた。



 村人がバランスを崩しながら、前のめりになりながらレーツェルに近づいていく。



 迫ってくる村人を前にして、仰向けになったレーツェルの右足の裏が相手の太股に掛かけられた。



 そして両腕で相手の襟元を掴んだ。



 刹那、曲げた膝のバネを柄って、相手を蹴り上げるように放り投げた。



 いわゆる、巴投げだ。



 これでようやく、〝五体満足〟だ。――と、レーツェルは思ったか分からないが、息つく暇なく今度は地面に転がったショーテルに向かって、駆けだしていた。



 もちろん村人たちも黙ってはいない。



 レーツェルに向かって、枝や蔓を飛ばしていく。



 そんな彼の背中に、複数の枝が向かって飛んでいき突き刺そうと――できなかった。



 「同じ過ちは犯さない」



 よく見ると、服の破れた箇所から、鎖帷子が覗いていた。直後レーツェルは、向かってくる村人たちに対して、何度も何度もショーテルを振り始めた。



 それも、目にも留まらない速さだ。

 数分しか経っていないはずだ。



 それなのに、レーツェルはショーテルを振るのを止めてしまった。



 『…………』



 時間差で、村人たちが膝から崩れ落ちてしまった。



 そんな敵の最期を見届けることもせず、レーツェルはプルシャに向かっていった。



 一方ユズハは、目の前であまりにも激しい戦闘が繰り広げられてしまったせいか、地面に転がりながら呆然としていた。



 「……また助けられたみたいね」



 実感の籠もらない言葉を口にしながら……。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...