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チャプター11
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チャプター11
「…復讐を代行してくれるって本当なの?」
その女性は開口一番にそう聞いてきた。
「……」
シンは向かいのソファに座る女性を値踏みするように見る。
「ねぇ。聞いてるんだから答えてよ」
女性はテーブルに手をついて身を乗り出し、少し拗ねたような表情を見せる。
「要件を言え」
端的に言い放つシン。
「ー…ッ」
シンの低い言い回しに女性は一瞬だけ躊躇したが、
「復讐して欲しい奴がいるんだけど」
そう言いつつ、使い古したハンドバッグから携帯を取り出し素早く操作する。
「コイツに復讐したいの」
一人の人物が映った画像を、シンに見せるようにして携帯をテーブルに置いた。
「ーー成程」
画面を一瞥し一つ返事で頷くシン。
「実の母親に復讐したいのか」
シンが何気なく言った一言に女性の顔色が急に険しくなる。
「…そいつ……、もう『母親』なんかじゃないからッ!」
顔に嫌悪を浮かべ荒々しく吐き捨てる女性。
――憎悪とも取れる復讐心が、彼女の胸の内を支配していた。彼女が母親から受けた仕打ちを考えれば当然の事だろう。だが、まだ心の奥深くでは【迷い】がある事をシンは見抜いていた。そしてまた、この女は復讐しようがしまいが【自身の命】も道連れにしようとしている。
復讐すると言う罪の意識から逃れるために自らの【死】を許容する――何とも愚かしい奴等だな。
シンは心中でそう嘲り笑った。
まあそんな事はどうでもいい。この女や復讐対象者の命の有無など興味は無い。
ただ――【生きたい】と抗うくせに、【死】に対して崇高であったり断罪であったりと何故こうも矛盾するのだろうか。甚だ不思議で仕方がない。
ああ。だからか。
と、シンはふと何かに気づいた様に口端に微かな微笑を浮かべた。
この忙しい生き物は、【奴等】の遊び道具なのだな。視ていて飽きがこない。それは手離したく無くなる。
「…ふ、ふふふ」
そう心で感じるとシンは自然に静かな笑いを漏らす。
「ー…ッ、何? 何が可笑しいのよ?!」
シンの態度に腹が立ったのか女性は捲し立てる様に喚いた。怒り任せに目の前の紅茶を一気に飲み干す。
「…お前、名前は?」
「……え? 名前?」
シンに問われ女性は意外そうな表情をし、
「…少しは『まとも』なのね」
と、大袈裟に頷いてみせた。
「…言いたくなければそれで構わん」
シンがそう言い放つと、
「……」
女性はまた目を丸くして、
「やっぱり『まとも』じゃないわね」
残念そうに深々と溜息を吐いた。
シンは口中で小さく舌打ちをすると、「復讐方法はこっちで決めていいのか?」と、何事も無かった様に事を進めていく。
「ちょっと待ちなさいよッ」
女性は慌てた様に声を荒げる。
「…何だ」
「名前ッ、聞いてきたんでしょうッ?!」
短気なのか、女性は勢い任せで両手でテーブルを叩きながら立ち上がる。
「聞いてきたんだから普通待つでしょーがッ!」
と言いつつ、人差し指でシンを指す。
「言う気が無いならそれで構わん」
シンは呆れ混じりに言ってのける。次にウンザリした様な溜息を吐いて、
「要は、お前が母親にどう復讐したいかそれだけ聞ければいい」
立ち上がった女性の顔を一瞥しつつシンは断定的にそう言った。
「ー…ッ」
女性は何かを感じたのか一瞬だけ身震いして口を噤む。
「…分かったわよ」
少し落ち着いたのか、呟いて再びを腰を下ろした。
いつの間にか神門穢流(みかどえる)が淹れなおした紅茶を一口つけて、
「…私は、御堂筋美琴(みどうすじみこと)」
ゆっくりと自分の名を告げる。
「この女に復讐したいの。これでもかっていうくらい酷い目に合って後悔しながら死んで欲しい」
強い復讐心をその瞳に宿しつつ美琴は忌々しげにそう言った。
シンはようやく口端に笑みを浮かべ、
「成程」
と、可笑しそうに呟く。
「次に報酬の件だがーー」
「……ッ」
シンがそう言うと美琴は片眉を少し跳ね上げて、
「…お金、は……少ししかないのだけれど…」
気まずそうにバッグから薄い封筒を取り出しテーブルに置いた。
「…報酬は金じゃない」
毎度の事ながら自身でも嫌になるが、シンは面倒臭そうにかぶりを振り、
「報酬はお前の寿命だ」
依頼者に【間】を持たせず端的に言って退けた。
「…どう言う、事…?」
訝しい表情を見せる美琴。差し出した封筒は取り敢えずバッグに戻した。
「寿命って、私の『命』って事?」
「…それ以外に何がある?」
「……それはまあそうだけど…」
そう言う美琴は少し納得出来ない様に呟いた。
「…五年だ」
「五年?」
シンが明示した期間をおうむ返しに聞き返す美琴に対しシンは小さく頷き、
「お前の寿命五年と引き換えに依頼を引き受けよう」
「……」
厭らしく笑うシンに若干の恐れを感じた美琴は小さく身震いをした。
「たった五年で憎むべき奴に復讐出来るんだ。安いもんだろう?」
「そう、ね…」
美琴はどこか不安気に頷いた。
「…もしかして怖気付いたのか?」
そんな様子の美琴がこの先どうなるかを【視て】いるシンは、敢えて彼女にそう聞いてみた。
「…いえ、そうじゃなくて」
美琴は小さく言って首を横に振る。
「此方(こちら)も慈善事業じゃあない。気に入らなければ他所(よそ)に行くんだな」
シンは少し痺れを切らした様に端的に言って退けた。
「…復讐は、して欲しいのよ。…ただ何故五年なのかって思っただけ」
半ば呆れ混じりに美琴は小さく笑う。
踏ん切りをつけたかの様に立ち上がり、
「それでは。依頼の方よろしくお願いしますね」
無理矢理に笑みを作りその場を足早に去って行った。
「……あの子は、少し勿体無いわね」
それまでシンの傍で人形の様に立っていた神門穢流(みかどえる)は興味深しく美琴が出て行った扉を眺めていた。
「まあ『奴等(やつら)』らしくて滑稽ではあるがな」
つまらなそうに呟くシン。何かに気付いたのか穢流の方を向き、
「俺の好きにさせて貰う」
挑発的な視線を穢流に投げつけたのだった――
――とある病院の一室。
実母の遺体を確認した後、御堂筋美琴(みどうすじみこと)は部屋から出て張り詰めていた緊張をほぐす様に短い溜息を吐いた。
「…これで、良かったの…よね…?」
扉を背にして寄り掛かり自身を安堵させる様に呟いた。
「お前は、後悔しているのか?」
突如聞こえた声に、美琴はハッとして俯かせていた顔を上げる。
「…貴方…どうしてここに……」
吃驚して呟く美琴の視線の先にはシンがいた。
「約束通り依頼は遂行した」
「ー…ッ」
シンが端的にそう言うと、ビクリッと肩を震わす美琴。
「…わ…分かってるわよッ。ほら、早く報酬の寿命を取りなさいよ!」
半ば投げやりになって、美琴はシンに捲し立てる。
「そう喚くな、五月蝿い」
ウンザリした様に言うシン。
「ここは病院だろう。静かにするのがマナーではないのか?」
「……」
端的に言うシンに対し美琴は眉を顰めて黙り込み、
「貴方に、常識を問われるなんてね」
肩を竦めて苦笑した。
「それより報酬はどうするの?」
美琴は、【報酬】の事が気に掛かり少し上目遣いでシンを見る。
「そうだな…」
シンは少し考える様に顎に手を添え、
「無償でいい」
ふと、何かに気付いたのか端的に言ってクルリと踵を返し美琴に背を向けた。
「え、ちょっと?! 何? 『無償』って…?!」
突然の事で驚きシンに掴み掛かろうとした美琴だが彼の姿はそこにはもう無かった。
「…何なのよ…一体……」
呆気に取られた美琴の呟きが薄暗い廊下に虚しく響いた――
*****
チャプター11あとがき
シンの報酬は相変わらず一貫していません。またシンは依頼者の何が【視えて】いるのでしょうか。
「…復讐を代行してくれるって本当なの?」
その女性は開口一番にそう聞いてきた。
「……」
シンは向かいのソファに座る女性を値踏みするように見る。
「ねぇ。聞いてるんだから答えてよ」
女性はテーブルに手をついて身を乗り出し、少し拗ねたような表情を見せる。
「要件を言え」
端的に言い放つシン。
「ー…ッ」
シンの低い言い回しに女性は一瞬だけ躊躇したが、
「復讐して欲しい奴がいるんだけど」
そう言いつつ、使い古したハンドバッグから携帯を取り出し素早く操作する。
「コイツに復讐したいの」
一人の人物が映った画像を、シンに見せるようにして携帯をテーブルに置いた。
「ーー成程」
画面を一瞥し一つ返事で頷くシン。
「実の母親に復讐したいのか」
シンが何気なく言った一言に女性の顔色が急に険しくなる。
「…そいつ……、もう『母親』なんかじゃないからッ!」
顔に嫌悪を浮かべ荒々しく吐き捨てる女性。
――憎悪とも取れる復讐心が、彼女の胸の内を支配していた。彼女が母親から受けた仕打ちを考えれば当然の事だろう。だが、まだ心の奥深くでは【迷い】がある事をシンは見抜いていた。そしてまた、この女は復讐しようがしまいが【自身の命】も道連れにしようとしている。
復讐すると言う罪の意識から逃れるために自らの【死】を許容する――何とも愚かしい奴等だな。
シンは心中でそう嘲り笑った。
まあそんな事はどうでもいい。この女や復讐対象者の命の有無など興味は無い。
ただ――【生きたい】と抗うくせに、【死】に対して崇高であったり断罪であったりと何故こうも矛盾するのだろうか。甚だ不思議で仕方がない。
ああ。だからか。
と、シンはふと何かに気づいた様に口端に微かな微笑を浮かべた。
この忙しい生き物は、【奴等】の遊び道具なのだな。視ていて飽きがこない。それは手離したく無くなる。
「…ふ、ふふふ」
そう心で感じるとシンは自然に静かな笑いを漏らす。
「ー…ッ、何? 何が可笑しいのよ?!」
シンの態度に腹が立ったのか女性は捲し立てる様に喚いた。怒り任せに目の前の紅茶を一気に飲み干す。
「…お前、名前は?」
「……え? 名前?」
シンに問われ女性は意外そうな表情をし、
「…少しは『まとも』なのね」
と、大袈裟に頷いてみせた。
「…言いたくなければそれで構わん」
シンがそう言い放つと、
「……」
女性はまた目を丸くして、
「やっぱり『まとも』じゃないわね」
残念そうに深々と溜息を吐いた。
シンは口中で小さく舌打ちをすると、「復讐方法はこっちで決めていいのか?」と、何事も無かった様に事を進めていく。
「ちょっと待ちなさいよッ」
女性は慌てた様に声を荒げる。
「…何だ」
「名前ッ、聞いてきたんでしょうッ?!」
短気なのか、女性は勢い任せで両手でテーブルを叩きながら立ち上がる。
「聞いてきたんだから普通待つでしょーがッ!」
と言いつつ、人差し指でシンを指す。
「言う気が無いならそれで構わん」
シンは呆れ混じりに言ってのける。次にウンザリした様な溜息を吐いて、
「要は、お前が母親にどう復讐したいかそれだけ聞ければいい」
立ち上がった女性の顔を一瞥しつつシンは断定的にそう言った。
「ー…ッ」
女性は何かを感じたのか一瞬だけ身震いして口を噤む。
「…分かったわよ」
少し落ち着いたのか、呟いて再びを腰を下ろした。
いつの間にか神門穢流(みかどえる)が淹れなおした紅茶を一口つけて、
「…私は、御堂筋美琴(みどうすじみこと)」
ゆっくりと自分の名を告げる。
「この女に復讐したいの。これでもかっていうくらい酷い目に合って後悔しながら死んで欲しい」
強い復讐心をその瞳に宿しつつ美琴は忌々しげにそう言った。
シンはようやく口端に笑みを浮かべ、
「成程」
と、可笑しそうに呟く。
「次に報酬の件だがーー」
「……ッ」
シンがそう言うと美琴は片眉を少し跳ね上げて、
「…お金、は……少ししかないのだけれど…」
気まずそうにバッグから薄い封筒を取り出しテーブルに置いた。
「…報酬は金じゃない」
毎度の事ながら自身でも嫌になるが、シンは面倒臭そうにかぶりを振り、
「報酬はお前の寿命だ」
依頼者に【間】を持たせず端的に言って退けた。
「…どう言う、事…?」
訝しい表情を見せる美琴。差し出した封筒は取り敢えずバッグに戻した。
「寿命って、私の『命』って事?」
「…それ以外に何がある?」
「……それはまあそうだけど…」
そう言う美琴は少し納得出来ない様に呟いた。
「…五年だ」
「五年?」
シンが明示した期間をおうむ返しに聞き返す美琴に対しシンは小さく頷き、
「お前の寿命五年と引き換えに依頼を引き受けよう」
「……」
厭らしく笑うシンに若干の恐れを感じた美琴は小さく身震いをした。
「たった五年で憎むべき奴に復讐出来るんだ。安いもんだろう?」
「そう、ね…」
美琴はどこか不安気に頷いた。
「…もしかして怖気付いたのか?」
そんな様子の美琴がこの先どうなるかを【視て】いるシンは、敢えて彼女にそう聞いてみた。
「…いえ、そうじゃなくて」
美琴は小さく言って首を横に振る。
「此方(こちら)も慈善事業じゃあない。気に入らなければ他所(よそ)に行くんだな」
シンは少し痺れを切らした様に端的に言って退けた。
「…復讐は、して欲しいのよ。…ただ何故五年なのかって思っただけ」
半ば呆れ混じりに美琴は小さく笑う。
踏ん切りをつけたかの様に立ち上がり、
「それでは。依頼の方よろしくお願いしますね」
無理矢理に笑みを作りその場を足早に去って行った。
「……あの子は、少し勿体無いわね」
それまでシンの傍で人形の様に立っていた神門穢流(みかどえる)は興味深しく美琴が出て行った扉を眺めていた。
「まあ『奴等(やつら)』らしくて滑稽ではあるがな」
つまらなそうに呟くシン。何かに気付いたのか穢流の方を向き、
「俺の好きにさせて貰う」
挑発的な視線を穢流に投げつけたのだった――
――とある病院の一室。
実母の遺体を確認した後、御堂筋美琴(みどうすじみこと)は部屋から出て張り詰めていた緊張をほぐす様に短い溜息を吐いた。
「…これで、良かったの…よね…?」
扉を背にして寄り掛かり自身を安堵させる様に呟いた。
「お前は、後悔しているのか?」
突如聞こえた声に、美琴はハッとして俯かせていた顔を上げる。
「…貴方…どうしてここに……」
吃驚して呟く美琴の視線の先にはシンがいた。
「約束通り依頼は遂行した」
「ー…ッ」
シンが端的にそう言うと、ビクリッと肩を震わす美琴。
「…わ…分かってるわよッ。ほら、早く報酬の寿命を取りなさいよ!」
半ば投げやりになって、美琴はシンに捲し立てる。
「そう喚くな、五月蝿い」
ウンザリした様に言うシン。
「ここは病院だろう。静かにするのがマナーではないのか?」
「……」
端的に言うシンに対し美琴は眉を顰めて黙り込み、
「貴方に、常識を問われるなんてね」
肩を竦めて苦笑した。
「それより報酬はどうするの?」
美琴は、【報酬】の事が気に掛かり少し上目遣いでシンを見る。
「そうだな…」
シンは少し考える様に顎に手を添え、
「無償でいい」
ふと、何かに気付いたのか端的に言ってクルリと踵を返し美琴に背を向けた。
「え、ちょっと?! 何? 『無償』って…?!」
突然の事で驚きシンに掴み掛かろうとした美琴だが彼の姿はそこにはもう無かった。
「…何なのよ…一体……」
呆気に取られた美琴の呟きが薄暗い廊下に虚しく響いた――
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チャプター11あとがき
シンの報酬は相変わらず一貫していません。またシンは依頼者の何が【視えて】いるのでしょうか。
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