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1.始まり

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 新型ウィルスの感染拡大が続く。
 このウィルスが恐いのは、特効薬がない上に、致死率が高いことだ。
 中国南部に端を発し、今や世界中に感染者が広がっている。感染による死者数も毎日増え続けている。

 日本も例外ではない。
 街行く人のほとんどが、マスクをして、感染の被害に遭わないよう、気を付けている。
 スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどから、マスクが売り切れてしまった。生産が追いつかず、三か月ほど、その状態が続いている。

 少し前に、トイレットペーパーやティッシュペーパーも無くなってしまうという噂が、ネットのニュースで流れた。そして、多くの人が買い占めに動き、店頭からそれらのペーパーが姿を消してしまった。
 この噂はデマだったらしい。政府会見で首相は、訴えた。
「トイレットペーパーは、マスクと違って国内に在庫が十分にあります。だから、買い占めないで下さい。皆さんが大量に買い占めると、流通が間に合わず、店頭にトイレットペーパーが並ばなくなります。」
 業界団体も同じように、在庫は十分にあると言っている。しかし、一度品薄になると、次に見つけたときに「ぜひ、買って置かなきゃ」と思うのが心理だろう。そのせいか、未だにお店に行っても、トイレットペーパーとティッシュペーパーのコーナーは、空のままだ。代わりに、「在庫が切れております。ご不便をおかけして、申し訳ありません」という紙が貼ってある。

 感染者と感染による死者の数が、ほぼ横ばいで、それから一ヶ月過ぎたとき、とんでもない噂が流れた。
「店から食料が無くなる」
 人々はスーパー、コンビニに殺到し、やがて店から食料が無くなった。
 すると、農家は米や野菜を、自宅用に蓄えておくようになった。漁師も魚を蓄えるようになり、食べ物が流通に乗ることは、ほとんど無くなった。輸入した食料は、卸売業者や小売店のオーナーの手元に残され、販売されなくなった。

 大介は、この事態に遭遇して、神を恨んだ。買い物に行って食べ物がないなんて、三十年生きて来て、経験したことがない。家には妻と、小さい子が二人いる。どうしたら生き残れるか、必死に考えないといけない。
 
 大介を中心とした、それからの日々。それが、始まってしまった。
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