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花言葉

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1. 花言葉

人の名前と性格は、相関性があるように思う。例えば、誤解を恐れずに極端に言うならば、玲子さんは理知的でスラッとした感じ。美恵さんは、大人しく控えめな感じ。太郎くんは、太っちょで優しい感じ。優輔くんは、スポーツ万能で格好いいイメージ。
 当たらずしも遠からず。きっと、みんな小さい頃から自分の名前を意識して生きているから、多少なりとも性格に影響しているのだろう。
 ただ、こんな決め付けのパターンに当てはまらない人が多いことも知っている。同じ名前であっても、様々な人がいるものだ。

 鳥羽とば花子はなこは、今年成人になる。遠縁の親戚に、あの小説家の鳥羽風来がいるという、由緒ある家柄に生まれた女の子だ。名前が影響したのか、小さい頃から花が好きだった。珍しい子で、一人で近所の花屋さんに行き、三十分以上も花を眺めていることが多かった。お母さんと行った時には、お花を「欲しい」とねだったが、いくらねだっても、なかなかお花を買ってもらえなかった。
 花が手に入らないこともあり、花子はやがて、花言葉に興味を持つようになった。
 絵本にチューリップが載っていた。庭にあじさいの花が咲いた。菊の花はお葬式に使われると聞いた。そんな風に花に触れる度、花言葉を調べた。

 チューリップの花言葉は何だろう?
「思いやり」かあ。優しい感じでいいなあ。色によっても違うのか。赤色のチューリップは「愛の告白」、白色のチューリップは「失われた愛」。意味が正反対ではないか。同じチューリップでも違うなんて、難しいなあ。

 あじさいの花言葉は何だろう?
「浮気、移り気」だって。どういう意味だろう? お母さんに聞いたら「飽きっぽいって事よ。あんたみたいじゃない」だって。そんな風に言われても、私うれしくない。色によっては「元気な女性」とか「家族が仲良し」という意味もあるみたい。

 菊の花言葉は何だろう? 不吉な感じだろうか。「高貴、高潔」かあ。人格も地位も雰囲気も高そうな感じ。皇室の紋章になっているのか。ん? 昔、後鳥羽上皇という偉い人がいて、とても菊が好きだっただと? 鳥羽と言えば私の苗字と一緒じゃないか。私には菊の花、合っているかも。

 こんな感じで幼い頃から小学生の時にかけて、花言葉をいっぱい調べたから、知識がとても増えた。友達と花言葉の話はあまりしないからバレていないけれど、もし花言葉に詳しいことが広まったら、間違いなく「しゃべる花言葉辞典」とか「歩く花言葉」のようなレッテルを付けられただろう。


2. アプローチ

大学生になった今は、花よりも、英語の講義を担当しているイギリス人の先生に夢中だ。頭が良くて、ハンサムなのだ。英語の講義は人気で、大講義室で百人くらい聴講している。先生から見て、その大勢の中の一人になってしまうのは寂しいから、花子はある日、講義の終わりにアプローチしてみた。

 先生に赤いチューリップを一本差し出して、花子は言った。
「This is a present for you(これ、プレゼントです)」
「Oh, Thank you. What's your name?(おー、ありがとう。君の名前は何だったかな?)」
「My name is Hanako Toba. My full name means the language of flowers in Japanese(私は鳥羽花子です。英語だと逆に読むから、はなこ・とば。つまり、花言葉なんです)」
「Oh, really? What's the language of this red tulip?(おっ、そうなんだ? 君のくれたこの赤いチューリップの花言葉は何だい?)」
「Please check it in your house(お家に帰ったら、調べてみて下さい)」
「Ok, I see(オーケー、分かったよ)」

 これでよい。私に興味があったら、後日話しかけてくれるだろう。興味がなかったら、何も話しかけてくれないだろうが、面と向かって振られることもない。
 次の講義が楽しみだ。

(了)
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