標識上のユートピア

さとう

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一章

十九話

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 クソッ。ふざけやがって、畜生。
恐怖よりも怒りの方が断然勝っていた。
糸に引っかかると上から何かが落ちてくる仕様になっていたのだろう。鈍い痛みの方はバケツ、もしくは別の堅いものだ。暗さのせいではっきりとは分からないが。 
しかし、暗さを差し置いても視界が狂っているのは確かだった。顔面の皮膚がまとめてナメクジになったみたいだ。顎のあたりに何かが張り付いて、気持ちが悪い。感触からして、剥ぎ取れた頬の皮膚らしかった。
息が苦しい。肌がひきつって、痺れを伴った痛みが容赦なく続いている。
分かった。アシッド・アタックだ。酸を被せたんだな。
殺意というよりかは、悪意を感じた。それも並々ならぬ陰惨さだ。希望のない闇から、手を伸ばしておれの首を絞めようとしているようにも思えた。
顔を手で拭おうとして、思いとどまる。手すらも痺れを感じていたのだ。
前進するが、殆どなにも見えない。右の眼球は電撃のような衝撃を受けたが最後、完全に暗黒に包まれていた。 
まだ使われていないトラップがあったということは、凛奈はここに来ていないということか? しかし、もう他に行き先はない。旧校舎は新校舎と繋がっているので、新校舎ついでに捜索した。誰もいなかったはずだ。
もしくは、パーカーが凛奈を殺した後に、このトラップを仕掛けたのか。
最悪のシナリオを頭から消去する。
パーカーを殺す。その下劣な神経を引っこ抜いて踏みにじり、酸をぶっかけ、この世界の綱紀粛正を図る。そうすれば岸本もみんなもおれを馬鹿にしなくなる。凛奈と二人、静かに生きることができるのだ……。彼女なら、醜いおれでも愛してくれるに違いない。 
ほぼ手探りで屋上に続く階段に到達した。手すりに掴まりながら、一段ずつ足を運ぶ。辺りが見えなくて、足元もおぼつかない。あの時の岸本も、今のおれみたいに不自由な状態だったのだろうか。ふとそんなことを思った。
足場が安定する。最上階に着いたらしい。喉は焼けそうに熱く、右目の世界は完全に閉ざされたが、残った左目には光が飛び込んできた。
物音はしない。だが、第六感で瞬時に人気を察知する。
どうしようもなく寒い。胸が苦しい。顔が痺れて、痛い。ドアノブを持つ手が震える。 
弱気な兆候を消し去ったのは、心の中で微笑む凛奈の姿だった。 
おれは屋上へと繋がるドアを開けた。
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