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二章
二十四話
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リビングには既に人がいた。父親の柿市憲吾だ。足を組み、新聞を広げている。既にスーツに着替えていた。腕にはブランドものの時計ばかりではなく、妙にぎらぎらしたタイガーアイの数珠もつけていた。一向にかまわないのだが、何故そこまで金色に固執するのだろうか。
「おはよう」
新聞から顔を覗かせ、父が言った。
「……おはよう」
軽く頭を下げて、席につく。
棚からシリアルの箱を取り出し、無造作に皿に入れる。カサカサと乾いた音がした。
牛乳を注いで口に運ぶ。おなじみの甘さだった。穀類の面影はあまりない。
父も俺も、一切口を開かなかった。気まずい雰囲気だけが、食卓を包み込む。いっそ北欧のコテージに逃げ込みたかった。
無言のままシリアルを噛み砕いていると、ようやく父が口を開いた。
「……母さんだが」
「うん」
「だいぶよくなっているみたいだ。この分だと近いうちに退院できるかもしれない」
「……よかった」
スプーンを置き、立ち上がる。
手持ちぶさたなのが嫌で、カバンを肩にかけたまま洗面所に向かおうとする。
「今日は何時頃帰ってくるんだ」
父に呼び止められた。
「作品の完成次第かな。遅くなるかもしれない」
父は一瞬、渋い表情をした。それでも不満を口にすることはなく、彼は新聞に視線を戻した。
「おはよう」
新聞から顔を覗かせ、父が言った。
「……おはよう」
軽く頭を下げて、席につく。
棚からシリアルの箱を取り出し、無造作に皿に入れる。カサカサと乾いた音がした。
牛乳を注いで口に運ぶ。おなじみの甘さだった。穀類の面影はあまりない。
父も俺も、一切口を開かなかった。気まずい雰囲気だけが、食卓を包み込む。いっそ北欧のコテージに逃げ込みたかった。
無言のままシリアルを噛み砕いていると、ようやく父が口を開いた。
「……母さんだが」
「うん」
「だいぶよくなっているみたいだ。この分だと近いうちに退院できるかもしれない」
「……よかった」
スプーンを置き、立ち上がる。
手持ちぶさたなのが嫌で、カバンを肩にかけたまま洗面所に向かおうとする。
「今日は何時頃帰ってくるんだ」
父に呼び止められた。
「作品の完成次第かな。遅くなるかもしれない」
父は一瞬、渋い表情をした。それでも不満を口にすることはなく、彼は新聞に視線を戻した。
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