標識上のユートピア

さとう

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二章

四十四話

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 結局、その日は何をするでもなく床に就いてしまった。翌日になっても、父は帰ってこなかった。
薬のこともあり、父がどこに何をしに行ったのか余計に気になった。
電話でもかけた方がいいのだろうか?
いや、大丈夫だ。そこまで気にすることはない。佐久間のメールが一抹の不安となっているだけだ。
出掛ける前に、朝食でもとろう。
ご飯と味噌汁と焼き魚でどうだろうか。伝統的な組み合わせだ。といっても、味噌汁はインスタントだし、焼き魚はコンビニで売ってる出来合いのものだ。このよわいで言うのもなんだが、便利な世の中になったものだ。
ちんけなファッションショーよろしく電子レンジの中で回る焼き魚を見つめながら、ぼんやりと考えた。
食事を終え、身支度を整える。念のために、父宛のメッセージを残した方がいいかもしれない。
「お見舞いに行ってきます」。これでいいだろう。本当は皮肉のひとつでも書いてやりたいところだが、そこはぐっとこらえた。
 
 
 
 
 板垣の病室にたどり着いた。
扉を開くのが少し憚られる。特別緊張している訳ではないものの、中に板垣の友人がいるかもしれないと思うと気が引けるのだ。不審さをむき出しにして扉の前でまごついているうちに、誰かが中から出てきてしまった。
その人物を見た時、俺は自分が心のある石像になったように感じられた。
色白で、肌は俗っぽい生気を感じさせない。目は大きく、その濡れっぽさは彼女が確かに生きていることを教えてくれる。頬には絵本のように温かな紅が浮かんでいた。全体的に化粧っけはない。
美しい少女だった。俺と同い年だろうか?
「すみません」 
 綺麗な声。おそらく今の音が通ったであろう喉の器官の存在を一切伺わせない。
「すみません」 
 少女がまた言った。俺は慌てて脇にはけた。
小さくなっていくシルエットを見送る。無意識に目に焼き付けようとしているのかもしれなかった。
彼女の余韻をまぶたの内で響かせながら、病室に入る。板垣はベッドに横たわり、気だるげな表情で窓のさんに頬杖をついていた。
「柿市」 
 板垣がこちらに気付いた。
「あれ、友達は?」 
「今入れ違いになったと思うよ」
 入れ違い? ということは、先ほどの少女が……。何故か嬉しくなる。
「中学の同級生か?」 
 感情をさとられぬよう、平常を装って尋ねる。
「うん。凛奈っていうの。雪村凛奈」
 板垣は、再び外に目を移した。
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