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差出人不明のメール

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差出人不明のメールがこの一週間、ずっと届いている。


『貴女のチカラが必要です。力を貸してくれますか?』

内容は簡単、力を貸してほしいと、助けを求める内容のみ。
そして、下の方には――はい / いいえ の文字があるのだ。

『貴女のチカラが必要です。力を貸してくれますか?
はい / いいえ』

何回削除しても、メールを拒否しても…毎日何通も届く。
いっその事、いいえを選択するのもいいかもしれない、なんて最近は思っていたりする。


「――じゃ、また明日ね!」

「うん!また明日ねー!宿題忘れないようにね!」

友達と学校の前で別れて、家に向かって歩いて行く。
いつも通りの日常が今日も過ぎていくと、この時の私は、そう思っていた。

ブーブー……
スマホでネットを見ながら歩いていた時、突然バイブ音がし、画面にメールが届いたというメッセージが表示された。

「メール……」

なんとなく嫌な予感がしながら、メールを開いた。

『もう――時間がありません。
貴女の力を、貸してください。
はい / はい』

と、またしても差出人不明のメールだった。
しかも、拒否権がなくなっている…。

そして、またバイブ音が響き…新たなメールが届いた。
恐る恐る新たに届いたメールを開く。

『貴方を、我が世界に招待いたします』

という文字を見た瞬間――強烈な眠りに襲われ、そのまま意識を失ってしまった。


「ぎゃあああ!」

「かかれえええ!!」

「う、うわああああっ!!」

「……!?」

響き渡る悲痛な悲鳴が聞こえて、飛び起きた。
起きて真っ先に目に入ったのは地面で…。
どうやら、私は森の中で倒れていたらしい。
よいしょっと起き上って、服やら顔やらに付いた泥を拭う。


「ぐああああっ!!」

そして、耳を劈くような悲鳴が聞こえ、我に返って振り向いた。
振り向いた先に見えた光景に、言葉を失くした。

―――まるで戦場のような光景で。
良くドラマや、アニメなどで見るような事が、今目の前で起きているのだ。

兵士らしき人たちが旗を掲げ、鎧を身に纏い、刀で戦っているのだ。
まるで、戦国時代のような……。

「これ、って……」

周囲を確認してみて、ここが私のいた場所とは違うことはハッキリと分かる。
なにより、あのメール……。力を貸してください、って…。
あのメールのせいとは思いたくはないけど…あれを見た後に眠気に襲われて、気付いたら、ここにいたって事は、あのメールのせいとしか思えない。
誰が私をここに呼んだのかは分からないけど、こんなところで死ねない。
どうにかして、生き延びないと!

「おい、あそこ……」

男の声がして、視線を向ければ……下卑た笑みを浮かべる鎧を身にまとった兵士が二人いた。

まるで、獲物を見つけたかのような表情に、背筋にゾワリとした悪寒が走る。

今すぐ逃げろ!と、本能が叫ぶのを感じて、私は縺れる足を必死に動かして走り出した。

「おい!待て!!」

「捕まえるぞ!!」

兵士たちの声と共に、ガシャガシャと鎧が擦れる音が、後を追いかけてくる。
どんなに走っても、鎧を身に纏っていようと、男から逃げ切るのは……現役高校生の私には不可能に近い。

(くるしっ……!!)

もう体力の限界を超えている。必死に動かしてる足もガクガクと震えて、今にも崩れ倒れそうだ。

何で、何で……何で私がこんな目に合わないといけないの!?

助けてと強制的に呼ばれて、鎧を纏った兵士に追いかけ回されるなんて、誰が想像出来たの?

(助けて欲しいのは……私の方よ!!)

この世界に私を呼んだ人を見つけたら、タダじゃおかないんだから!!

「……あっ!?」

ガッ!と、何かに足が引っかかり、気づいた時には、私は派手な音を立てながら転がってしまった。

「へへっ……やっと、追いついたぞ」

背後から聞こえた欲に満ちた声に、背筋が凍った。
ガクガクと、意識せずに体が震え出す。

ゆっくりと顔を背後に向け、私の顔は、絶望に染まった。

「こ、こっちに来ないで!!」

「折角見つけた獲物を…みすみす見逃すわけねぇだろ、なぁ?」

「ああ、当たり前だろ」

ゲラゲラと下品な笑みを浮かべながら、一歩ずつ私に近寄ってくる。
一歩近づいてくるたびに、私も少しずつ後ずさっていく。

トン、と…背中に何かがぶつかった。つまり、これ以上後ろにはさがれないという事になる。
感触からして…多分、木だろう。

「ハハッ!俺達から逃げ切れると思ったのか?」

「い、やぁ……こな、いで…ッ」

ガクガクと震える身体を両手で抱きしめながら、震える声を振り絞って拒絶の言葉を発する。

ゆっくりと、近づいてくる男の手に…ただただ震えることしかできず、ギュっと目を閉じた。

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