46 / 175
第一幕
[ヒマリside]記憶の断片(美島郷志)
しおりを挟む「……なぁ、これ解いてくれねぇかな?」
前髪を上げた快活そうな青年は、まだ年端もいかない少女のような出で立ちの彼女に不機嫌そうに言った。
「ダメよ。あんたみたいな得体の知れないやつを、こんなところに野放しになんてしておけない。」
「だったら別に縛らなくたっていいだろー。」
「あんたさっき私の胸触ったでしょ! 変態!」
「かわいい女の子が目の前に現れたらとりあえず胸触るだろ。」
「触らないわよこの変態! いいからさっさと首締まって死ね!」
出会った間際、突然に胸を触られながら「ねぇ、俺の彼女にならない?」なんていう最悪の出会いを果たした二人。運命と呼ぶにはいささか滑稽すぎるものだった。
「まぁなんでもいいけどさ、なんだこいつら? お前の家族か?」
「……そうよ? なんか文句ある?」
「なんかすげぇ痩せてんな。ちゃんと食ってんのか?」
「仕方がないじゃない! ここは凄く土地が貧しくて、農作物なんてまともに育たないのよ!」
「ふーん……そうは思わねぇけどな。」
「はぁ? 何が言いたい訳!?」
「お前いちいち声がでけぇよ。……これ、ちゃんと耕してないだろ? 堆肥をちゃんと調達できれば十分育つぜ。……あぁ、動物が少ねぇから堆肥が作れねぇのか。じゃあまずはそっからだな。」
「……あんたなんなのよ? ここは私たちの国よ! よそ者が生意気に口出ししないで!」
「ん? あぁ、別になんでもいいけどさ、お前らこのままだと全滅するぞ? 飯を食わなきゃ病は流行るし、人が増えなきゃ国は死んでいく。で、どうするんだ? お前王様なんだろ?」
「何よ……まるで全部わかってるみたいな言い方……」
「わかるよ。お前の顔に書いてあるから。」
「えっ……嘘、そんなのどこに……。」
「……ぶっ、あっはははははは!! 「顔に書いてある」つって顔探してるやつ初めて見たわ! お前やっぱりサイコーだな!」
「ぐぬぬ……こんのぉ!!」
少女はその小さな手で握り拳を作り、怒りに任せて少年をポカポカと殴りつける。
「うおっ、待て! 怒んなって! ……なぁ、どうせお前は俺を殺すつもりなんだろ? アレだっけ? よそのやつらが危なっかしいんだっけ?」
「それは……。」
「じゃあ聞くけどさ、俺を殺して、あいつらはどうなんだ? このままどんどんガリガリになって、ひもじい思いのまま死んでくぞ?」
「……だって、だってどうしようもないもの! みんなでやれるだけのことはやった! それで何度も乗り越えてきた! でも今度ばかりはどうしようもないの! どうしたらいいか……わからない。どうすればいいの? ……。」
「……あっそ。そうやってわかんねぇこといつまでもウジウジ考えてりゃいいさ。俺なら一瞬で解決できるけどな。」
「……本当? 本当にみんなを助けてくれるの?」
「お前王様なんだろ? ならお前が決めな。俺を殺してもあいつらは救えない。なら、俺を使ってあいつらを救ってみないか?」
彼のその言葉を最後に、二人のやり取りは聞こえなくなった。
それからの二人は、毎日毎日喧嘩をしながらも、その日の終わりにちゃんと仲直りをして、寒い日には身を寄せ合って温め合ったり、暑い日は飲み水を分け合ったりしていた。
二人はとても幸せそうで、みんなが彼らを祝福していた。
それなのに――
突然の暗転、真っ暗な彼の瞳、彼女の頬を伝う邪悪な指先。彼女の泣き叫ぶ瞬間を、空っぽになった彼の瞳が見つめている。
恐怖に震えうずくまる彼女を、抱きしめてくれる人はいない。飛び交う武器、吹き上がる血飛沫、彼女の体を悲鳴が貫いていく。
傷だらけになった彼女の瞳から涙は枯れていた。それでも止まらない悲しみは、いつの間にか真っ赤に染まって――。
……………………。
気付けば部屋の中を朝焼けが照らしていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。
目が醒めて、ふと胸元が冷たい事に気が付いた。そこには可憐な寝顔に一筋の線を残した女王と、じっとりと濡れた後が広がっている私の服があった。
(なんだったんだろう、あの夢……。)
それが何だったのかはいくら考えてもわからないが、涙を流して眠る女王の頭を撫でずにはいられなかった。
「ん……んむぅ……もう朝なのね。」
「あ、ごめんなさい女王様。起こしちゃった?」
「いえ、いつも同じ時間に目が醒めるから……。」
まだ女王はぐったりしていた。体を起こすのがしんどいらしく、私は腕を貸して起き上がるのを手伝った。
そんな眠気の残る女王様に、ふと尋ねてみたくなった。
「……ねぇ、女王様。初めてあった男の子に、胸を触られたらそりゃ怒るよね?」
「えぇ、そうね。本当にあいつは失礼極まりなかった……ッ!!?」
女王の目が一気に覚めたのは言うまでもなかった。何よりも、突然私の頬を鷲掴みにして、じっと覗き込んできたのだ。
「えっ、ちょっと!?」
「いいからじっとしてなさい!!」
どうしてだか凄い剣幕で、私の瞳の奥を覗き込んでいる女王様。目を逸らすのが怖いぐらいに見つめられ、どうしてだか体の自由が奪われている。
「……まさか。そんな事が……。」
「???」
女王様にだけしかわからない何かが、私の中にあるのだろうか。
それと、やっぱりあの夢の中に出てきた女の子、やっぱり女王様なんだ! でもそれにしては今とあんまり変わってないような……。
ぼんやりとした夢の記憶の事を考えていると、突然外から爆発音が響いてきた。咄嗟に女王様に押さえつけられ、私たちはベッドの上で身を伏せる。
頭上を吹き抜ける爆風。唖然としていると、スノウ様が血相を変えて部屋に飛びこんできた。
「お姉さま! 急いでお逃げください!」
「スノウ! 一体何が起こったの!?」
「裏切り者はセブンだったんです! いいから急いで!」
「なっ……」
私たちは絶句した。あんなに女王に尽くしていたセブンがどうして……。
「……ふぇ?」
慌ただしい朝の始まり。寝ぼけながら今日を迎えた南方さんと、着の身着のまま逃げ出した。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる