監獄スタートの悪役令嬢 脱獄記~令嬢とかどうでもいいから私は逃げる!

八万岬 海

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第24話-十五歳の私には早すぎますっ

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 お父様とお母様と再会したあのナックさんの屋敷は、敵の攻撃で破壊されてしまった為に私たちはマルさんの案内で別の建物へと案内された。

 ここは昨日までお父様達が匿われていた屋敷とのことだった。



「クリスは敵を警戒するための魔法とか知っているか?」
「えっと、習ったことはありませんが……そのような魔法があるのでしょうか?」

 お父様が突然そんな事を聞いてきた理由は先程のマルさんとの会話のせいだろう。

(――暗殺者……ほんとにそんなものが?)

「私も魔法は余り使えんから詳しくは説明が出来ないのだが……昔そういう魔法が存在していたということぐらいしか」

 お父様の説明によると、自分の魔力を薄く伸ばし何かが触れると自分に反応が戻ってくるという魔法が存在していたそうだ。

「なるほど……」

 つまり赤外線のような物なのかなと自分なりに想像してみる。
 ただ単に魔力を広げることは出来るが、触れたものの反応を知るというのはどうすればいいのだろう?

「……ずっと魔力を放出し続ける? それだとすぐに魔力切れに……」
「クリス、魔力を出し続けなければならない状況のときは、余った魔力は一度自分に戻すのよ」


「――そっか! 魔力をループさせて循環させればいいのね、お母様」
「……る、るうぷ?」

 お母様の一言でその魔法の性質がなんとなくイメージできた。

「あとは……何かが触れた時、私に反応を返す?」

 循環して自分に戻る魔力が他の魔力に触れて不規則になれば、それをキーにして何かの魔法を発動させればいいのかな。

 この世界に住む人は魔法が使える、使えないに関わらず多少なりとも魔力をもっている。もっていると言うより、自然界に存在している魔力を無意識に呼吸と共に吸収していると言ったほうが正しいだろうか。

 そのため、魔力の貯蔵量が極端に多いものが所謂いわゆる「魔法使い」と呼ばれている。


 私は物は試しだと、指を二本立ててその間に魔力を通してみる。
 なるほど、行ったり来たりしているのが感覚でわかる。

 この魔力が入ってくるタイミングがズレたら【昏倒雷スタンボルト】を送り込む……とか?

 つまり魔力は垂れ流し続ける。
 魔法の方は発動直前で止める。
 外から入ってくる魔力が途切れたら、私の魔力を逆流させる。
 そして私の魔力が途切れた地点で発動……?

(なんだか考えすぎて、よく判らなくなっちゃった……)

「クリス?」
「えっと、お父様、ちょっとこの間に指を入れてもらっていいですか?」
「こうか?」

 お父様が人差し指を、私の指の間に差し込んでくる。

 その指が、私の魔力に触れるとそれまで同じテンポで行ったり来たりしていた魔力が明らかにズレた。

(あっ、なるほど)

 動画の読み込みが途中で止まったような感覚だった。
 戻ってくるべき魔力がいつまで経っても来なくてちょっとモヤっとした感覚があった。

 私は【昏倒雷スタンボルト】を発動手前まで組み上げて停止させる。
 最後の発動に必要なキーとなる魔力は込めない。

 そして、定期的に戻ってくる自分の魔力が途切れたらその魔力をトレースして、途切れた箇所で魔法が発動するように、小学校の時に習った電池の回路図をイメージする。


 私は再び、両方の指を今度は少し離した状態にして魔力を循環させる。


「……? もう一度指を入れればいいのか?」
「――あっ、ダメです!」

 先ほどと同じ仕草をした私に、お父様はそう尋ねながら指をはさもうとしており、咄嗟に止めたが間に合わなかった。

「ぎゃっ……!!」

 指を伸ばした状態で膝から崩れ落ちるお父様。
 お母様が「あなた!」と駆け寄ってお父様に触れてしまい二人で痺れてしまった。

「すっ、すごいなクリスは……なかなかの威力だった……」

 お父様がフラフラとそれだけ言うと、親指を立てた状態でお母様と並んで倒れ込んだのだった。

 ◇◇◇

 私が一階に降りると、リンの他にマルさんやナックさんたちが階段の入口付近にテーブルと椅子をおいてお茶を飲んでいた。

「あれ~カリスどうしたの~」

 リンが耳をぴこぴこさせながら訪ねてくる。
 私はマルさん達に結界魔法を設置することを伝えた。

「なんと……クリス嬢はそんな事もできるのですね」
「カリスって魔法で何でもできるんだね~」
「自己流ですけどね……はは」

 謙遜はするが、リンとマルさんがそう言って褒めてくれるのがとても嬉しい。二人共、ウサ耳がピコピコしており本心からそう思っているんだろうなと理解してしまう。

「それでちょっとお願いがあって」

 私は少し申し訳無さを感じながら左手に持っていたナイフとグラスをテーブルにコトリと置いた。
 果物を切るためにミケさんがおいていってくれた小さなナイフである。

「ん~どうしたのかリス。切れなかった?」
「みなさんの血を少し分けてもらえませんか?」

 結局お父様が何度か痺れて髪が逆立って悲惨な事になってしまうという代償を払い、特定の魔力を持つ人物は引っかからないようにすることが出来たのだ。

 他にも方法がありそうだったのだが、見つけた方法がこれしか無いので今は仕方がない。

「えっとみなさんが私の魔法に引っかかっても反応しないようにしたいんです」
「そのグラスに並々と必要……だったりする~? 私今月ちょっと重いから貧血気味なのよね~」
「一滴で良いの……あとリン無理しないで?」
「えへへ、ありがとう」

 マルさんが微妙な表情をしていたが、一番最初に指先にナイフを滑らせてグラスにぽたりと血を一滴落としてくれた。

「これでいいでしょうか?」
「はい、みなさんもお願いできますか? 混じっても大丈夫なので」

 私はナイフを【水球アクアボール】で洗って綺麗な布で拭いてから、ナックさんへ渡す。

 同じ作業を繰り返し、最後にリンへナイフを渡した。

「う~……自分でやるの怖いな~……カリスやってよ~」
「えっ……流石にそんな怖い事できないよ!」

「うえ~……っ!」

 リンが目をぎゅっと閉じてグラスの上で指にナイフを突き刺した。

「いてて……これでいい?」
「うん、ありがとう。みなさんもありがとうございます」

 私は他の皆さんに頭を下げた。
 マルさんは「これぐらい大したことありません」とニッコリと笑ってくれる。

 部屋の端の方に居る人達も笑ってくれているのだろうがランプの明かりが完全に届いていないので、ウサ耳シルエットの口元が三日月状に裂けて見えちょっと怖かった。

 血を頂いていない人が二階のフロアに行くと【雷鎖サンダーチェイン】が発動するから気をつけてくださいと伝えておく。

 【雷鎖サンダーチェイン】は【雷槍サンダーランス】より攻撃威力は低いものの、初級の【昏倒雷スタンボルト】より高出力の魔法だ。
 なおかつ敵を雷属性の鎖でぐるぐる巻にして全身をくまなく痺れさせるため、大型の魔獣を捕獲するときによく使われるらしい。

「わかった~何かあったら大声で呼ぶよ~」
「ありがとう、リンも余り無理しないでね」
「うん~でも一段落ついたら一緒にスルツェイに買い物でもいこうね~」

 私はマルさんやリンたちに「おやすみなさい」と伝え、皆の血の入ったグラスを両手で持ち、二階へと戻った。

 ◇◇◇

「じゃあ、まずは先に寝かせてもらうが、クリス大丈夫か?」
「はい、交代の時間になったら起こしますね」

 今、私達が泊まっているのは村の真ん中付近にある屋敷の二階。
 一階にはマルさん達がいるが、二階には誰もいない。

 マルさんが言っていたように暗殺者など来るのかどうかは解らないが、用心しておくに越したことはない。

 何しろ今は私一人ではないんだ。

 私はソファに一人座り「よし!」と両頬をぺちんと叩く。
 そして右足の裏から魔力を染み出すように放出させ、床を通り、壁、窓枠そして扉から二階の壁や床に魔力を流し、一周回って自分の左脚に戻ってくるようにする。

「よし、いい感じに戻ってきた……」

 思っていた以上にうまくいった。

「う~ん。でもこれ寝ちゃったら魔力途切れるのかな」

 人は無意識な状態でも魔力を垂れ流しているのだが、流す方向をコントロールしている状態で意識を外すとどうなってしまうのか。
 先程、それを実験するのを忘れていた事に気づいた。

「お父様が見張りのときに試してみよう」

 私は「まぁいいか」と、そのまま本を読みながら時間を潰す。

 リンが貸してくれた本で、最初は冒険者の探検記だった。国から『英雄のパーティー』と呼ばれている男女が王様に依頼を受けて前人未到の地へ冒険に出かけるという出だしで始まっていた。

 ――かと思っていたのだが、途中から急に男女の話に発展した。

(なんなの、この本……)

 それがあまりにも生々しい男女の話だったので、私はドキドキしながらページを捲る。

(うわ……外でそんな……リン……私にこれはちょっと刺激が……)

 頭の中でリンに文句を言いつつ、一ページまた一ページと読み進めていく。
 開いているページでは森の奥にある泉のほとりで女性が男性に押し倒され、上着から一枚ずつ衣服を脱がされているシーンだった。

(うわー……うわー……)

 これは十五歳の自分は読んではいけない本じゃないかと思いつつも、好奇心に負け次のページを開く。

 が、女性が実は暗殺者で、無残にも男は殺されてしまったところで話が終わっていた。

(…………え、なにこれ)

 最後のページだけで女の正体の暴露と男の家族の話が書かれていた。

 (えー……)

 なんだか裏切られた気分になりながら、「はぁ」とため息を付き本を閉じた。

「大丈夫か?」
「――ひゃわっ!?」

 本をおいて水でも飲もうと思ったところで、突然背後からお父様に声をかけられた。どうやら本に夢中になりすぎて交代の時間になっていたらしい。

「本を読んでいるんだな」
「あっ、これはそのリンに借りた女性向けの本だそうで」

 お父様が私の膝に乗っている本の表紙をみてそんな事を言うので、必死にリンの本だということを主張する。

「そうか。それで魔法は上手くいっているのかい?」
「あっ」

 ――すっかり忘れていた。
 魔法を確認すると、問題なく右足から出た魔力が左足から戻ってきていた。
 どうやら、完全に無意識で使っていたらしい。

「はい……その、大丈夫そうです」
「そうか、しかし魔法は切れてしまってもいいから無理せず今日は休みなさい。あとは私が番をしよう」

 私は念の為、魔法をそのままにしてお父様に「おやすみなさい」と伝えた。

 そのまま寝室へ行き、どうしようか少し悩んだ後、少し恥ずかしい気持ちを押さえたまま母様のベッドへと潜り込んで目を閉じたのだった。
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