天界へのレクイエム

ゆー

文字の大きさ
3 / 3
第一章

3

しおりを挟む
「その、あの……だから……もしよければ、君にボディーガードとしてついてきて欲しかったり……するのだが……」

「お断りします」
  少年は即答する。
「な、なんだと!?さては、報酬がないから引き受けぬとでも言うのか!?……今の人間はここまで欲深いのか……。以前の下界では、天使様の為ならばと喜んで何でも協力してくれたものだぞ。……くぅぅ……」
  先ほどまでの凛々しい態度は何処へやら、天使は悔しげに地面を叩く。
  黒っぽい土が天使の手に付着して、天使の肌の白さを強調していた。

「違います違います!むしろ、天使なんかの護衛なんて畏れ多くて」
「そんなことは気にしなくても良い。引き受けてくれるか?」
  ぐいっと詰め寄ってきた天使から少年は顔を背ける。

「さっきは咄嗟に僕が動いてしまったけれど、第一、僕なんて護衛にしなくても、天使だったら十分強いんじゃないの?
だって、神の怒りの光を受け止めたり、魔王を瞬時に消滅させたり出来るんだろう?
それなら、天使に敵なんていないじゃないか」
  少年の言葉に天使は呆れたように首を横に振った。

「天使はそんなことはせん。人間の作ったデタラメの伝承だな。
しかし、まぁ、そうだな……そういうことができるのは上位三隊の上位天使くらいなものだ。私のようなただの天使にはそんなことできぬ。あの方々は神に近い存在だから強大な力を持っていらっしゃるのだ」

「じゃあ、剣!よく、戦意を高めるために旗に剣を持った天使が描かれている。なんでも、一夜で万もの侵略者を退治したとか」
「戦闘に特化した数少ない天使ならできる芸当かもしれぬが……、そもそも天使には武器など必要ないのだよ。そんな武器なんぞ、持ったことがある天使の方が少ないだろうな」

「……」
「なんだ、その見るからに残念そうな目は」
「いや、今までの天使のイメージが壊れただけです」
「い、一応言っておくが、私は天界の門番だったから、槍は持ったことがあるからなっ」
  と、まくし立てた後、天使は小さな声で 使ったことはないし、飾りみたいなものだったが と付け加えた。

  この天使はひとりにしてしまったら最後、なすすべもないようだということがわかった少年は天使の顔をそっと覗き込んだ。

「いいよ、護衛、引き受けても」
「ほ、本当か!?」
  天使はガバッと顔を上げた。
「どうせ、戦争も終わっちゃったし、もう行くあてもないし、死ぬだけだったからね。ここで一つ、天使についていくのも面白そうだし」
  ツンとして少年は言った。

  天使はそんな少年の手を取り、決まりだな、と笑った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

処理中です...