天界へのレクイエム

ゆー

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第一章

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「その、あの……だから……もしよければ、君にボディーガードとしてついてきて欲しかったり……するのだが……」

「お断りします」
  少年は即答する。
「な、なんだと!?さては、報酬がないから引き受けぬとでも言うのか!?……今の人間はここまで欲深いのか……。以前の下界では、天使様の為ならばと喜んで何でも協力してくれたものだぞ。……くぅぅ……」
  先ほどまでの凛々しい態度は何処へやら、天使は悔しげに地面を叩く。
  黒っぽい土が天使の手に付着して、天使の肌の白さを強調していた。

「違います違います!むしろ、天使なんかの護衛なんて畏れ多くて」
「そんなことは気にしなくても良い。引き受けてくれるか?」
  ぐいっと詰め寄ってきた天使から少年は顔を背ける。

「さっきは咄嗟に僕が動いてしまったけれど、第一、僕なんて護衛にしなくても、天使だったら十分強いんじゃないの?
だって、神の怒りの光を受け止めたり、魔王を瞬時に消滅させたり出来るんだろう?
それなら、天使に敵なんていないじゃないか」
  少年の言葉に天使は呆れたように首を横に振った。

「天使はそんなことはせん。人間の作ったデタラメの伝承だな。
しかし、まぁ、そうだな……そういうことができるのは上位三隊の上位天使くらいなものだ。私のようなただの天使にはそんなことできぬ。あの方々は神に近い存在だから強大な力を持っていらっしゃるのだ」

「じゃあ、剣!よく、戦意を高めるために旗に剣を持った天使が描かれている。なんでも、一夜で万もの侵略者を退治したとか」
「戦闘に特化した数少ない天使ならできる芸当かもしれぬが……、そもそも天使には武器など必要ないのだよ。そんな武器なんぞ、持ったことがある天使の方が少ないだろうな」

「……」
「なんだ、その見るからに残念そうな目は」
「いや、今までの天使のイメージが壊れただけです」
「い、一応言っておくが、私は天界の門番だったから、槍は持ったことがあるからなっ」
  と、まくし立てた後、天使は小さな声で 使ったことはないし、飾りみたいなものだったが と付け加えた。

  この天使はひとりにしてしまったら最後、なすすべもないようだということがわかった少年は天使の顔をそっと覗き込んだ。

「いいよ、護衛、引き受けても」
「ほ、本当か!?」
  天使はガバッと顔を上げた。
「どうせ、戦争も終わっちゃったし、もう行くあてもないし、死ぬだけだったからね。ここで一つ、天使についていくのも面白そうだし」
  ツンとして少年は言った。

  天使はそんな少年の手を取り、決まりだな、と笑った。
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