ありふれた恋物語!

ゆー

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 ポーチェがカゼというものを患った。俺にはよくわからないモノだが人間はカゼで死ぬことも多々あるらしい。なんと弱い種族なのかと思ったが、弱々しいくせに図々しく生き汚い所が逆に好ましいと思うのが悪魔の性である。
 ガタガタと沸騰する鍋の中をかき混ぜる。病人には消化の良いモノが良いと聞いた。俺は人間の食事を作るという初めての経験に少々戸惑ったがどうにか出来上がったようだ。味をみて納得する。我ながら上手くできたと思う。これを食わせればあいつも治るだろう。
 そう思いつつ、あいつが寝ている寝室へ向かう。そして静かにドアを開ける。

「うぅ……」
「ほら、粥作ったから食えよ」

 ベッドに横になるポーチェに声をかけると、苦しそうな息を吐きながら「ありがと……」と言うと起き上がり、のろのろとスプーンを手にした。
 いつも元気なこいつが、苦しそうな表情で浅い呼吸を繰り返しているのを見ているとこっちまで調子が悪くなりそうだ。

「しっかり食え。そして寝ろ」

 書物から得た情報によると病とは食と休息によって治癒するものとあった。なので、早くポーチェを休ませなければならないと思い、半ば強引に食べさせた。

「やめてぇ~……食欲ないの~……」

 そんな訴えを軽く無視して無理矢理口の中に押し込み続けた。

「カゼを患った時は食べて休まないと人間は死ぬんだろう?」
「そんな簡単に死んだりしないもん……」

 深い溜息が零れる。

「お前には長生きしてもらわんと困る。俺の暇つぶしがなくなる」
「何それ……ゲホッ……」

 ポーチェに突っ込まれたが気にせずに言葉を続ける。

「いつものうるさいくらいに明るい笑顔がないだけで落ち着かない気分になってくる」
「……それって」
「黙れ。さっさと食え」
「ふごっ」

 ポーチェの口へ容赦なくスプーンを押し込む。ポーチェはまだ言い足りなさげだったが、俺の目力に押し負け、口をモゴモゴさせ始めた。しばらくすると、もぐもぐとした咀しゃくの音に変わっていく。それから、ごくりと飲み込む音が聞こえた。「ごちそうさま」と言ったかと思えば再びバタリと横に倒れて布団にもぐりこんだ。それを見届けてから立ち上がる。すると「どこ行くの?」と眠た気な声がした。振り返ると上目遣いの潤んだ目と視線が交わる。熱を帯びた目元が色っぽく見えて一瞬ドキリとしたが悟られないようにぶっきらぼうな口調で言う。

「ちゃんと寝ておけ」

 ポーチェが返事をする間もなく部屋を出ると、後ろ手に扉を閉める。
 これから、人間の病に関する本を読み漁って看病の仕方を覚えなければならない。

 あいつに死んでもらっては困るのだ。俺の退屈しのぎのためにも。……他に理由はない。


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