この世界に神などいなくとも

ゆー

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雪兎ノ月16日

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 深夜。ここは王都。
 私はつり下がる縄をたよりに、下水道へと続く井戸の中に身を落とした。
「よぉ、アズサ、やっと来たね」
 ヒトキは低い声で言った。
 そこには既に8人の人間が集まっていた。
 石造りの井戸にもたれ掛かっているのはマナヤ。
 影のように姿が薄いが、カイトもいる。(目の錯覚で姿が薄く見えてるのかと思いきや、ヒトキ曰く、これはカイト本人ではなくカイトが指揮官からの指示を伝えるためにに作り、送り込んだ式神らしい。カイト本人は別のところで潜入調査中とのこと。それにしても、術式で自分の姿を作りあげるとは器用な奴だ)
 井戸の底から見える夜空を仰いでいる彼女はシオリという名前のはずだ。総合戦闘大会の表彰台と特集新聞で見たことがある。
 他の奴は見たことすらない気がする。
 いや、あの奥の方に立っている背の高い男は確か、総合戦闘大会でベスト16に入っていたはずだ。名前は知らないが。
 ヒトキは部隊の正規メンバーを指差しで教える。ヒトキは自分とマナヤとシオリ、そして式神カイトとベスト8の男を示した。
 どうやら、ここにいるのは式神カイトを含めて5人らしい(実質は4人ってわけか)。他の正規メンバーはカイトと同じ仕事を受け持っているため、ここにはいないようだ。
 と、いうことは他の3人は私と同じ助っ人要員なのか、と少し安心感を抱く。
 突然、ヒトキはすっと私に近づくと私の首に。
「ひっ!?」
「ごめんね、アズサはしないと思うけど、裏切られて内部の情報漏らされたらたまったもんじゃないから。大丈夫、人体に影響はない術式だ。無関係の奴に口を滑らせそうになったら部分的な記憶消去を行い、その副作用で3日間昏睡状態になるだけだから」
 3日間昏睡状態になるだけ?だけじゃないでしょ。十分に恐ろしい術式だわ。
『準備は整ったみたいだね?』
 不意に式神カイトの口が開いた。
『みんな事前に連絡は受けているはずだから最終確認だけ』
 事前の連絡……。私はヒトキと共に王宮への道を切り開き、実行者を送り込む。そして、逃走経路の確保。
『君らに実行してもらうのは知っての通り、“破壊者“として目覚め始めた第一皇子の暗殺だ』
 長々と、事前にヒトキに知らされていた計画をカイトは告げる。
 それにしても、皮肉なものだ。国を守るために“破壊者“の卵を潰すのに、そのせいで重犯罪者扱いになるなんて。
 私たちは、おとぎ話の英雄のようなことをしているはずなのに。
『そして、ヒトキ、シオリ、タクマには思いっきり暴れてもらいたい。この暗殺は君ら3人だけで実行されたと世間を欺くために。……君らに全てなすり付けるのは心苦しいのだけれど』
「大丈夫だ。流石に助っ人を指名手配犯にする訳にはいかねぇし。王宮侵入、第一皇子暗殺、なんて、立場的に俺らはどうやっても疑われるからな。戦闘能力上位者のくせに国家機関に所属してないんだからよぉ…..。だから、覚悟はしているさ」
 ベスト8……どうやらタクマという名前らしい……が、だから、カイトが気にすることじゃないさ、と言う。
 私はヒトキに、どうしてマナヤは入っていないの?と訊ねた。
「ああ、マナヤは国屈指の有力者だ。真っ先に国から疑われることは、まず無い。それに、マナヤは土地や建物を沢山所有しているからな。俺らの逃亡先にうってつけだ」
「ヒトキ達は……その後、どうするの……?」
「国外逃亡しかないだろ。一般の奴らは皇子が“破壊者“として目覚めていた、なんて知らないんだから。……第一皇子暗殺なんて、重罪だ、重罪」
 まあ、上手く逃げてやるさ、とヒトキは笑う。その彼の手が震えていたように見えたのは気のせいだろうか。
 喋るだけ喋って、式神カイトは消滅した。
 どうやら、式神は力を使い果たしたみたい。
「さぁ、行こうか」
 マナヤは静かに告げた。
 私たちは井戸の底から出てくると、王宮への道を突き進む……。


  ______________


「本当に笑えないくらいのバッドな展開だよね。よりによって、目覚めてしまったのがこの国の皇子なんてさ」
 ここはイディア王国のどこか。蠟燭の明かりに照らされた大広間はとても明るい。
「・・・同意」
 カイトの言葉にキョウスケは頷いた。
「本当に報われなさすぎる話だよ」
 そう、カイトは王宮の方角を仰いだ後、キョウスケに向き直った。
「僕らは僕らの仕事をしよう。キョウスケ。僕らの仕事は、僕自身のアリバイ作りと第二の“破壊者“予備軍の発見。…1人目覚めたら何故か、連鎖的に目覚めるんだよね…:“破壊者“って」
 大きな溜息。そして、カイトはキョウスケにすら聞こえないほど小さな声で言った。
「それもこれも、シンデレラがいるせい、なんだけどね……」
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