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雪兎ノ月19日 深夜
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停滞状態だった皇子暗殺者の捕獲は、協力者である女の首が持ち込まれたことで大きな動きをみせた。
そんな王都の騒ぎから離れたスラム街の外れ。最早、人すら見えぬ場所でアズサは一人の男と対峙していた。
「アズサちゃん!もうこんなことは辞めようよ!」
リョウは悲鳴にも似た声をあげながらも、2丁の銃で振り下ろされた刀を受け止め、はじき返した後、バックステップで距離をとり、1発発砲した。
「アズサちゃんが皇子暗殺に関与していることは分かってる!でも、幸運にもアズサちゃんは気づかれていない!だから!」
「だから、なに?」
斬ッ!と声を張り、アズサはリョウに一撃を加える。
前衛と後衛が1対1で対峙したら、前衛が有利だというのは自然な摂理だろう。
「私の身はバレていない?そりゃそうよ。私は皇子の部屋の前で人が来ないか見張ってただけなんだから。刀すら抜かなかったわよ!」
代わりに私以外の4人の突入員が追われる身になってしまったけれど、とアズサは皮肉げに笑う。
「アズサちゃんは……アズサちゃんは……なんでそんなことに協力したのさ!?ヒトキとかいう小生意気な男に頼まれたからか!?」
アズサの刀が届かない距離まで後退するため、リョウは銃弾を連射する。
「違うわ。私は私の正義を実行したたげよ」
「正義?」
言い切るアズサの姿に、リョウは訳が分からないと首を横に振る。
「皇子暗殺の何が正義なの?皇子暗殺なんて重罪じゃないか」
「これだから何も分かっていない奴らは!!」
アズサはダンっと一歩前に足を踏み出し、“斬馬“ッ!という詠唱と共に近接斬攻撃を与える。
「皇子を放っておいたら王都を中心に国が滅びてしまっていたのよ!?アンタは室待ノ国がどんな道を辿ったか知らないの!?その後にあの大陸の国々がどんな運命を辿ったかも!」
「室待ノ国……宣戦布告無しに隣国に破壊に特化した魔物を送り込み、その後、同盟を結んだ周囲の国々の総攻撃により、人口の約半分である420万人の死者を出して滅びた戦闘大国。それを皮切りに大陸全土を巻き込み、2年半に渡る大陸戦争が勃発。戦勝国は惶覇帝国ただ1国のみ。9つの敗戦国は帝国の属国となるか、多額の賠償金により財政難に陥るかの2択しか残されていなかった」
知ってるよ、とリョウはすらすらと答えた。
だって俺は惶覇帝国の第十二皇子だったから。父さん…皇帝の顔すら見たことなかったけれど。
「そこまで分かっているのなら……分かるでしょう、リョウ。この国は危うく、あの亡国と同じ運命を辿るところだったのよ。皇子が彼の、破壊に特化した魔物に成り果てかけていたのだから」
アズサは大きく息を吸った。
「私たちは!ヒトキは!この国の為に皇子を殺したの!この国の為に!なのに…どうしてこんなに悪人扱いされないといけないの!?」
「アズサ……」
「アンタが何と言おうと、私はヒトキを見捨てられない。皆の為に殺ったのに、こんな目に遭わされて。私は、私だけは、ヒトキと一緒に」
「もういいよ、アズサ」
リョウでもアズサでもないもう一人の声がした。
「元々、アズサは助っ人だ。君を組織の都合に巻き込んでしまったのは俺だ。気にすることはない」
「ヒトキ……」
アズサは刀の先を下ろして、3メールほどの石壁の上に腰を掛けているヒトキを見上げた。
「幸運にも、君があの暗殺に関与していたことは誰も知らない。……そこのチャラ男以外は……。しかし、チャラ男も君が関与していたことを誰にも言うつもりはないみたいだ」
そうだろう?とヒトキは銃口を自分に向けているリョウに言う。
「だから、君は今まで通りに過ごせばいい。俺なんかに同情することはない。こうなることは覚悟の上だしぃ」
「嫌よ!どうしてよ!どうしてヒトキがこんな目にあわないといけないの!?アンタが何を言っても私は私の正義のままに、アンタを」
石壁からひょいと羽のように軽やかに地面に降り立ったヒトキにアズサは近寄り、騒ぎ立てる。
「ありがとう。その気持ちだけで十分だ」
「こんな時に格好つけんじゃないわよ!このクソガキ!」
目を赤くするアズサに、ヒトキはこの場面に不釣り合いな人を小馬鹿にした笑みを作る。
「心配御無用。むしろ、お前が居ない方が逃げやすいさぁ」
「な…アンタねぇ!」
食ってかかってくるアズサの首にヒトキは指先を当てた。
「“雷の聖印“」
電気ショックを適切に与えられたアズサはその場に倒れた。どうやら気絶してしまったようだ。
「うん。アズサが電気ショックに強いタイプの人間じゃなくてよかったよ」
ヒトキは独り言にしては大きい声で言った。
「連れていけばいい」
「……」
リョウは両手に持った2丁の銃に視線を泳がせた。
「連れていけばいい。たかが助っ人のアズサをこれ以上巻きこみたくない」
ヒトキがもう一度言ってようやく、リョウは銃をベルト横に戻し、アズサを慌てて背負いあげた。
そして、そのまま立ち去ろうとして……何を思ったのか、ヒトキの方を向いた。
「ヒトキ、すまない」
「別に。こっちとしても好都合」
「違う。そうじゃなくて……君らがここにいることを特定したのはゲンキだ。俺はアズサだけを引き渡して貰う条件でこの場所を教えて貰ったんだ」
それだけを言い残して、リョウは走り去って行った。
突然の言葉に残されたヒトキの顔が暗闇でもわかるほど不自然に白くなる。
「な……っ!?」
驚きの声をあげるや否や、ヒトキは反射的に両手を前に出し防御術を張った。
すかさず、そこに重たい衝撃が走る。
「タクマの野郎はコウキの奇襲で逃がしたが……今度の獲物は逃がしはしねぇ……」
深夜の色と同じ黒色の目の魔導師が、そこにいた。
そんな王都の騒ぎから離れたスラム街の外れ。最早、人すら見えぬ場所でアズサは一人の男と対峙していた。
「アズサちゃん!もうこんなことは辞めようよ!」
リョウは悲鳴にも似た声をあげながらも、2丁の銃で振り下ろされた刀を受け止め、はじき返した後、バックステップで距離をとり、1発発砲した。
「アズサちゃんが皇子暗殺に関与していることは分かってる!でも、幸運にもアズサちゃんは気づかれていない!だから!」
「だから、なに?」
斬ッ!と声を張り、アズサはリョウに一撃を加える。
前衛と後衛が1対1で対峙したら、前衛が有利だというのは自然な摂理だろう。
「私の身はバレていない?そりゃそうよ。私は皇子の部屋の前で人が来ないか見張ってただけなんだから。刀すら抜かなかったわよ!」
代わりに私以外の4人の突入員が追われる身になってしまったけれど、とアズサは皮肉げに笑う。
「アズサちゃんは……アズサちゃんは……なんでそんなことに協力したのさ!?ヒトキとかいう小生意気な男に頼まれたからか!?」
アズサの刀が届かない距離まで後退するため、リョウは銃弾を連射する。
「違うわ。私は私の正義を実行したたげよ」
「正義?」
言い切るアズサの姿に、リョウは訳が分からないと首を横に振る。
「皇子暗殺の何が正義なの?皇子暗殺なんて重罪じゃないか」
「これだから何も分かっていない奴らは!!」
アズサはダンっと一歩前に足を踏み出し、“斬馬“ッ!という詠唱と共に近接斬攻撃を与える。
「皇子を放っておいたら王都を中心に国が滅びてしまっていたのよ!?アンタは室待ノ国がどんな道を辿ったか知らないの!?その後にあの大陸の国々がどんな運命を辿ったかも!」
「室待ノ国……宣戦布告無しに隣国に破壊に特化した魔物を送り込み、その後、同盟を結んだ周囲の国々の総攻撃により、人口の約半分である420万人の死者を出して滅びた戦闘大国。それを皮切りに大陸全土を巻き込み、2年半に渡る大陸戦争が勃発。戦勝国は惶覇帝国ただ1国のみ。9つの敗戦国は帝国の属国となるか、多額の賠償金により財政難に陥るかの2択しか残されていなかった」
知ってるよ、とリョウはすらすらと答えた。
だって俺は惶覇帝国の第十二皇子だったから。父さん…皇帝の顔すら見たことなかったけれど。
「そこまで分かっているのなら……分かるでしょう、リョウ。この国は危うく、あの亡国と同じ運命を辿るところだったのよ。皇子が彼の、破壊に特化した魔物に成り果てかけていたのだから」
アズサは大きく息を吸った。
「私たちは!ヒトキは!この国の為に皇子を殺したの!この国の為に!なのに…どうしてこんなに悪人扱いされないといけないの!?」
「アズサ……」
「アンタが何と言おうと、私はヒトキを見捨てられない。皆の為に殺ったのに、こんな目に遭わされて。私は、私だけは、ヒトキと一緒に」
「もういいよ、アズサ」
リョウでもアズサでもないもう一人の声がした。
「元々、アズサは助っ人だ。君を組織の都合に巻き込んでしまったのは俺だ。気にすることはない」
「ヒトキ……」
アズサは刀の先を下ろして、3メールほどの石壁の上に腰を掛けているヒトキを見上げた。
「幸運にも、君があの暗殺に関与していたことは誰も知らない。……そこのチャラ男以外は……。しかし、チャラ男も君が関与していたことを誰にも言うつもりはないみたいだ」
そうだろう?とヒトキは銃口を自分に向けているリョウに言う。
「だから、君は今まで通りに過ごせばいい。俺なんかに同情することはない。こうなることは覚悟の上だしぃ」
「嫌よ!どうしてよ!どうしてヒトキがこんな目にあわないといけないの!?アンタが何を言っても私は私の正義のままに、アンタを」
石壁からひょいと羽のように軽やかに地面に降り立ったヒトキにアズサは近寄り、騒ぎ立てる。
「ありがとう。その気持ちだけで十分だ」
「こんな時に格好つけんじゃないわよ!このクソガキ!」
目を赤くするアズサに、ヒトキはこの場面に不釣り合いな人を小馬鹿にした笑みを作る。
「心配御無用。むしろ、お前が居ない方が逃げやすいさぁ」
「な…アンタねぇ!」
食ってかかってくるアズサの首にヒトキは指先を当てた。
「“雷の聖印“」
電気ショックを適切に与えられたアズサはその場に倒れた。どうやら気絶してしまったようだ。
「うん。アズサが電気ショックに強いタイプの人間じゃなくてよかったよ」
ヒトキは独り言にしては大きい声で言った。
「連れていけばいい」
「……」
リョウは両手に持った2丁の銃に視線を泳がせた。
「連れていけばいい。たかが助っ人のアズサをこれ以上巻きこみたくない」
ヒトキがもう一度言ってようやく、リョウは銃をベルト横に戻し、アズサを慌てて背負いあげた。
そして、そのまま立ち去ろうとして……何を思ったのか、ヒトキの方を向いた。
「ヒトキ、すまない」
「別に。こっちとしても好都合」
「違う。そうじゃなくて……君らがここにいることを特定したのはゲンキだ。俺はアズサだけを引き渡して貰う条件でこの場所を教えて貰ったんだ」
それだけを言い残して、リョウは走り去って行った。
突然の言葉に残されたヒトキの顔が暗闇でもわかるほど不自然に白くなる。
「な……っ!?」
驚きの声をあげるや否や、ヒトキは反射的に両手を前に出し防御術を張った。
すかさず、そこに重たい衝撃が走る。
「タクマの野郎はコウキの奇襲で逃がしたが……今度の獲物は逃がしはしねぇ……」
深夜の色と同じ黒色の目の魔導師が、そこにいた。
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