【第一章完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ

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第一章

傾国王子の永久就職

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 パンパンパン!!!
「は!?」
 転移し帰還したアレスターを待ち受けたのは派手なクラッカーと迎えの拍手。彼の邸の広間は深夜にも関わらずさながらパーティ会場だった。
 特別な日の日本のご馳走が並び、花々がそこかしこを彩り、見慣れぬ国旗らしき布を何十枚も繋げたものが頭上に飾られている。
 両親に長兄夫妻、カズサ、ガーシュ、マルタにシェルダン。真っ赤になったツェーレンは何故か頭からマントを被っている。親しい友人や隣の領地の幼馴染、副師団長の姿まである。使用人も勢揃いだ。
 グレイシアが一堂に会するのは珍しい。



「お帰りヒーロー!」
「お疲れ様でした」
「立派になったわねえ」
「え、何。これナニ」
「結婚式やるよー」
「どうも団長。自宅からあなたの従者にあなたの魔封縄で拉致されましたが恨み言は言いません。祝いの席なので。例え妻に逃げられそうでも、めでたい事なので。魔法師団員全員何度も強制的に仮死状態にされましたが、改めてご結婚おめでとうございます」
「!? いやそれ充分恨み籠ってるよね? 実験はゴメン! 臨時手当弾むから!」
「えっ実験て、アレス、副師団長さんにも口移しであれを」
「ツェリ違うから!! なんでむさい男どもに僕の唇をやんなきゃなんないのさ!? 想像だけで吐き気がするよ!!」
 被害者なのに更にディスられる魔術師団。



 よく見れば片隅に疲れた顔の司祭がいる。
「……聖女の話は聞かなかった事にします。教会に奪われるのをあなたは望まないでしょう。大聖堂を壊されるのは御免です」
「ああ、よろしく頼みます」
 何かと秘密の多い一家に関わってしまってからずるずる付き合いが続いている人だ。
 今度ソル司祭の好きなワインと馬を贈ろうとアレスターは決めた。



 しかし式はすんなりとは始まらない。ツェーレンの隣に連れていかれ、乾杯のグラスを持たされたアレスターがまだ困惑していると長兄ノエルが爆弾の口火を切る。
「させないよ、魔女さん。私はこれが良かったと思う。キマった、と感心した」
「え! な、な、な」
 遠隔視か、誰の魔術だ。そう言えばさっき聖女の話を司祭がしてた! ノエルの隣で額を押さえてる義姉のマリアがやったか。前科がある。ガーシュは本命だ。じゃなくて!



「ツェーレンは貰い受けます、が素敵だったわよ。あの人見知りのアレスが知らない人にたくさん話してるのもびっくりしちゃった」
「任された、の使い所があって良かった。私も是非使いたい」
 両親も情け容赦がない。からかってはいないが天然なのだ。
「返すよ、ヴィーダ。シンプルクールでは」
「魔術師団視点としては、紛い物のあんたと違って僕は本物の魔術師だ、でしょうか。本物なら師団長の仕事も堅実にこなして頂きたいところですが」
「シンプルに僕の最愛、でしょ」
「あれだろう、僕とツェーレンは互いの唯い」
「イヤぁあああーーーあがなさばだだやめてくれぇええーーえ!!!!」
「アレス!」



 危うく魔力暴走しかけたアレスターを一家の守護獣みんなで抑える。
 割と食い意地が張った守護獣はご馳走を台無しにされたくなかったし、アレスターの魔力も彼らは大好物だった。
 巨大な黒蛇がアレスターをぐるぐる巻きにし、龍が周りを飛び回る。発散された魔力を楽しげに追いかける狐とオオカミ。
 グレイシアに関わる者には驚きはないが、マルタとシェルダンは初めて見る光景に圧倒されて口をあんぐり開けていた。
 同じく初でもツェーレンの反応は異なる。
「やっぱり皆かわいいな……義父様の子はヘビか。いいなあ俺も欲しい」
 伊達に十一回も死んでない肝の座り方だ。
 



「……ごめんアレス。覗き見て」
 まだフード付きマントに埋もれ、もじもじと照れるツェーレン。アレスターはといえば魔力を守護獣たちに喰われ青息吐息で自室のソファに横たわっていた。
「いや……うちの家族が済まない。情緒がぶっ壊れてるとこあるから、ツェリの気持ち思いやれなくて」
 恥ずかしさはさて置き、全て知ってしまったツェーレンは傷ついているだろう。ギリムと共に転移したアレスターの到着から、遠隔視は行われていたらしい。ヴィーダの独白を全て聞いてしまったという事だ。
 実の母に殺され続けたなんて。



「ツェリ、その……母君にした仕打ちを怒ってない?」
「───いいんだ。好かれてはいないと感じてたし。あんな理由で何回も殺されて俺だって悔しいよ。代わりに怒ってくれてありがとう」


 実の母の仕打ちに傷つかない筈はない。愛されないだけでなく憎まれていたのも心が痛む。そんな母であれ、あの処遇には憐れみも感じた。
 だが自分が落ち込んでアレスターが気に病む方が嫌だ。だからもう忘れると決めた。
 何より、直接ではないが何度もツェーレンへの愛を言葉にしてくれていたから。ツェーレンもいちばん大事なものを大切にしなければ。



 アレスターの帰還前、遠隔視で全てを知ったマルタ夫婦が滂沱の涙でツェーレンを抱きしめ続けた。
 何度もの死に戻り、それにまつわる辛い出来事、実母に疎まれ呪われたこと。
 その全てを言葉にはせず労りと愛情を抱擁に込めていた。
 それが嬉しかったのだとアレスターに告げる。



「えっ待ってシェルダンもきみを抱いたの」
「変な言い方止めろよ……。まあつまり、俺にはちゃんと心配してくれる家族がいる。彼らや、兄も二人いるし父も。グレイシアの家族もな。何より、アレスがいる」
「そうだね」
 後でシェルダンを問い詰めよう。ツェーレンのそばに居て好きにならないなんておかしいし、好きなら許せないしとアレスターは決心した。



「兄上の気持ちは知らなかったけど、きっと楽になりたくて承諾してた」
 びくりと反応する肩にツェーレンの手がそっと置かれた。
「アレスと会っていなければ、な」
「……ツェリ」


「……だからさ、貰ってくれるんだろ? アレスター・グレイシア・フォックス、俺を伴侶にしてくれますか」



 マントが落とされアレスターは絶句する。ツェーレンが清楚な白のドレスを纏い、髪は生花をあしらい肩から前に流している。
 言葉も出ない。ただただ見つめてしまう。
「ドレスは初めてだからすげー恥ずかしい……。けどアレスには両方の俺を全部貰ってもらうから、少し早まったけど、宣言通りのプロポーズな」
 恥じらいながら零す笑みは、アレスターの思考すべてを彼方へ吹っ飛ばした。




 今まで、人の美しさはアレスターの心に響かなかった。どんな美女も目にうるさいだけ。惹かれたのは幼いツェーレンのみ。
 今の晴れ姿にはときめきと愛しさと泣きたくなる気持ちと、『全部貰ってもらう』の言葉には鼻血が出そうで内心忙しい。 
 


 この素晴らしく美しい伴侶には死ぬまで勝てないだろう。
 昔も今も、彼しか見えない。
 何度死んでも誰も恨まず前向きでひたすら優しい、その心持ちを何より愛している。



 ツェーレンはアレスターを照らす温かな光、かれの秘宝だ。最愛で唯一の比翼の鳥。奪おうとする奴がいるなら、それがたとえ魔王でも神でも叩き潰してやろう。
 決意を胸に寝台から起き上がると、愛しいひとの前に跪く。



「改めて。ツェーレン・イェルレヒト殿下、もといツェーレン・グレイシアン。病める時も健やかなる時もそばにいたい、いて欲しい。仮初ではなく私の妻になってください」
「喜んで…!」




 アレスターが立ち上がり、ふたつの影が重なる。司祭を待たせたまま、先走った誓いの口付けだったがふたりは既に夫婦、誰にも遠慮はいらない。
 白の誓約書はツェーレンが仮死とは言え一度亡くなり解除された。
 婚姻自体は継続している。死がふたりを別つとも、である。



 マルタとシェルダン、マリア、副師団長、使用人たちそして司祭の常識組の引き留めをくぐり抜け、全員が覗き見ていたのをアレスターが知るまであと少し。







「ギリム王太子も呼べば良かったのに~」
「死体蹴り禁止。悪魔か」
 宴もたけなわ。散々飲まされたアレスターを美しい新婦が膝枕で介抱するのを眺めつつ、ガーシュの冷酷さに呆れるカズサ。一部始終を見せられた一同は無言でカズサに同意した。
 非難の視線を気にも留めず、ガーシュが明るく言い放つ。
「残念、吸血鬼でーす」
「そうだったな」
「「「「「!?」」」」」




********************



マルタたち夫婦は王国の秘密や巻き戻り、ディーダの悪行、ギリムの想いを知ってしまい動揺していました。しかし守護獣大運動会やガーシュの正体に驚愕し、とりあえず忘れました。
いずれ彼らも、何事にも動じないグレイシア家使用人となっていきます。


本編は完結ですが、番外編に続きます。

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