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1話

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悪役令嬢の私はもちろんのこと、貴族の令息令嬢はどんなゲームでも必ず登場する。
しかしそれはあくまでNPCとしてであり、プレイヤーが自由に動かすことが出来る駒のようなものだ。
悪役令嬢としての私も、私の分身であるミシャも……プレイヤーの指示に従うだけの存在に過ぎない。
それなのに……今ここに居る私は、一体なんだと言うのだろう? 私がこんな思考に至ることが出来たのは、前世の記憶と現世の記憶が混乱したせいだろうか? そのおかげで前世から引きずってきた心の闇が晴れてきているような気もするのだが……それはあくまでも私の気のせいなのかもしれない。
「ミシャさん!ミシャさん!!」
その時、ガタッという音とともに馬車が大きく揺れると、御者の焦ったような声が聞こえてきた。
「どうされましたか!?」
「敵だ……盗賊が現れた!」
「え!?」
御者の言葉に慌てて窓の外を見ると、そこには10人前後の男たちが馬車を取り囲むようにして立っていた。
どうやら本当に盗賊のようだ。
「くそっ……!どうしてこんな所に盗賊が?」
御者は悪態をつくと馬を操るスピードを上げた。
「ミシャさん!しっかり掴まっててください!」
「え、ええ……!」
私は言われた通りにしっかりと馬車にしがみついた。
この人数差では戦っても勝ち目はないと思ったのだろう、御者の男は必死に馬を操るが一向に距離が広がらない。
……いや、むしろ盗賊たちはじりじりと距離を詰めてきているような気がする。
御者もそのことに気がついているのだろう。額には玉のような汗が浮かんでいた。
するとその時、突然どこからか矢が飛んできて馬の足元に刺さった。
「うわっ!?」
その衝撃で馬は大きく跳ね上がり、馬車は横転してしまう。
私はとっさに馬車から飛び出した。
そして近くにあった木に捕まりながら、なんとか地面に叩きつけられるのを防いだ。
「ミシャさん!!」
御者の叫び声が聞こえてきたが、私は木にしがみついたまま動けなかった。
(そんな……っ)

木の陰に隠れて盗賊たちの様子を探ると、彼らはすでに馬車を取り囲んでおりニヤニヤしながら武器を構えているのが見えた。このままでは御者の命が危ない! だけど、私の力ではどうすることもできない……!私が無力感に打ちひしがれていると、盗賊の一人が御者の首に剣を突きつけた。
「おい、命が惜しけりゃ大人しくしてろ」
「ひっ!?」
盗賊に脅された御者は顔面蒼白になりながらもじりじりと後ずさる。その行為が気に入らなかったのか他の盗賊が舌打ちをしたかと思うと、そのままナイフを投げつけた。
「ぐあっ!」
それは見事に御者の男……その足元に刺さっていた矢を放った人物の胸へと命中した。
「助けてくれ!」
御者の男は痛みと恐怖で動けずにいる。それを見て盗賊たちは下卑た笑い声をあげると一斉に襲いかかってきた。
(このままじゃあの人が……!)
私は覚悟を決めると木の陰から飛び出し、地面に倒れ伏す御者を抱え込んだ。
「……え?」
突然の出来事に、盗賊たちも驚いたように目を瞠った。
「ミシャさん!?」
驚いたように私を見つめる御者と視線を合わせると、私は小さく頷いた。
「この人に手を出すことは私が許しません……!」
私の言葉を聞いた盗賊たちは一瞬キョトンとしていたが、すぐに大声で笑い出した。
「おいおいお嬢ちゃん、もしかしてヒーローごっこでもしてるのか?」
ここで引くわけにはいかない、そう思った私は武器を取りだし、彼らに向かっていった。
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