【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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打倒!元実家!

95 職人に

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「ふん」

 何かと敵は多いし、秘密を知ろうとする商売敵も多い。但し、バチュールの白虎、今はウィシュバーグの猛虎と呼ばれるギアナは、それを自分で返り討ちにする力量を持ち合わせていたし、情報戦も苦手ではなかった。

「隣の国の商会か。まあ俺を狙ったのは褒めてやろう」

 ギアナの足下には、顔を覆面で覆った暗殺者が3人倒れており、ギリギリ生きていた。
 これから、あらゆる手段で雇い主を吐かされるのだ。

「リトや家族を狙ったらどうなるか分かっていたようで何よりだ」

 実はリリー一家は何度も狙われかけていた。その度にギアナは徹底的に、計画の時点でそれはそれは念入りに潰していた。
 これで何人の貴族が一族郎党事消えたかは、ギアナとエイムド王子しか知らない。

「やり過ぎではないか?」

「その油断が何を引き起こした?」

「……猛虎には猛虎たる所以があるのだな」

 王子は公的に、または裏処理で痕跡を消して行く。

「人の命は同等、それは詭弁だ。俺は、俺の最愛の命は俺の物より重いと考える。守れなくして何が夫だ」

 過保護か?いいや、愛する者を守りたいただそれだけだ。

「我々は目立ち過ぎている。自覚はあるが、罰を下さなければ俺が治まらん。そのわがままに付き合わせているんだ。出来る限りの事はする」

「ついでにウィシュバーグの闇も切ってくれる」

「リトと、家族が住む国だからな。サービスだよ」

 虎の過剰サービスにエイムドは苦笑する。何十年かかってその対価を払わされるのだろうか?

「はは。早めに跡継ぎをもうけなければならないようだな」

「分割で構わんよ?利息は貰うがな」

 この男に対しての借金は永遠に減らず、雪だるま式に増え続けて行く未来しか見えず、絶望した。



 高い借りを作り、豪奢であり得ない程の輝きを放つクリスタルガラスのシャンデリアがウィシュバーグの大ホールに設置された。
 ホールは光に満ち溢れ、風を受けてシャララ、シャララと音を奏でるウィンドチャイムが更に彩を添える。

 各国の要人がこぞって天井を見上げる様をウィシュバーグ王は満足そうに見やる。国が誇れる良い物を、誇って良い現実は非常に心地良い。


 そしてウィシュバーグは栄え始める。神がリトに作れと命じた神殿が本格的に力を持ち始めたのだ。
 

 力場、神が感知するほどの力が貯まる場所ドンピシャに作られた神殿は、それだけでも物凄い加護の力を持つ。
 それに加えて、リトが作ったミニ神像達があちこちから祈りを集め、凝縮還元して行く。
 ガラスの神像はキラキラと毎日光を集めより輝き。ハニーレモンジュースは売れ、更に噂は広がる。

「えへへ、やった!」

 とうとう今日、至高神の像の後ろの窓一面にステンドグラスが完成する。学園の休みを縫ってコツコツとリトが作り上げていたのが完成したのだ。

「幕を外しますね!」

 天気の良い日を選んだ。脚立に上がって、リトは保護のためにつけていた遮光の幕をざざっと引っ張る。

「わぁ……」

 歓声はあまり上がらなかった。

 良くお爺さんに描かれる至高神は若いすらりとした青年で、ゆったりとした衣を纏い、白百合の野を行く。

 百合は途中からピンクのバラに代わり、愛と美の双子神がまだ幼い姿で遊んでいる。
 空には日輪が細かい線で描き出され、空色を基調としながらも目を引く色で彩られている。

 誰も何も言ってくれないので、リトはオロオロしていた。
 脚立からゆっくり降りて、辺りを見回し、そっとギアナの横に立つ。

「あの……俺、頑張って作ったんですけど……駄目でしたか?」

 答えがなかった。

 見る間に眉毛が下がってがっくりと項垂れる。褒めてもらう為に作ったんじゃない。でも一言くらい、頑張ったね、と言って欲しかった。
 自分で作った作品を見ても大きな失敗はないと思うけれど、みんな何も言ってくれなかった。

 泣きたい気持ちをぐっと抑え、俺が勝手に作りたくて作った……邪魔だったんだな、と反省する。
 それでもつらくて、ギアナの手をそっと握ってみた。何か、何か一言で良いから声をかけて貰いたかった。
 握った手を、ぎゅっと力強く握り返されて驚く。

「ギアナ、さま?」

「すごい、すごいよ、リト」

 ギアナの視線はずっとステンドグラスに向けられていた。

「俺は熱心な信者じゃない……なのに、これは凄い。こんなに美しい物は初めてみた」

 陽の光を取り入れたステンドグラスは華々しい色を作り出す。そこでやっとリトは全員の視線がステンドグラスに注がれていることを見て取った。
 目を見開く者、口をぽかんと開けるもの。誰もずっとステンドグラスしかみていない。ほんの少しの勇気を出して囁く。

「あの、あの。上手に出来たでしょうか……?」

 ギアナは握りしめた手に力を入れたまま、リトの顔を見た。

「ああ、素晴らしいものだ」

 良い、柔らかい笑顔でそう言ってくれた。この人が言うなら、リトは全部信じられた。

「え、えへへ……嬉しいです!」

 自分の仕事に自信が持てた瞬間だった。

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