【完結】愛する親友とゲーム転生をしたのに捨てられ賢者の俺は元魔王に愛されすぎてつらい

鏑木 うりこ

文字の大きさ
26 / 33
ゲームの世界へ転生召喚?

26 アレストリア滅亡の序曲3

しおりを挟む
「な、何か起こった?!」

 結界を作っていた研究所は、跡形もなく吹き飛んだ。作り上げた研究成果も、ディアーナの言葉を信じてる走って逃げた研究員だけを残して、人も皆消え去った。

「わた、わたし、わた、わたくし、は……悪くない……!」

 緊急脱出用の札で1人だけあの大爆発から逃げおおせたアリシアルタはガタガタと震えていた。
 
 アリシアルタが魔導コアに魔力を流した途端に、コアは暴走を始めたのだから。

「アリシアルタ様?!何をなさってのです?!」

「わ、わたくし、少しだけこれに魔力を……」

「馬鹿な!それは調整に調整を重ねた上でギリギリいっぱいの魔力が蓄えられているんですよ?!」

「駄目だ!コアが!」

「逃げろ!ああ!駄目だ!逃げられない」

「吹き飛ぶぞ!」

「あんた!何やってくれたんだ!」「この女が!」「私には子供がいるのに!」「俺は結婚したばかりなんだぞ!」

「お前か!」「お前が!」「恨むぞ」「人殺し」「死ね!」「死にたくない!」「うわああーー!!」

 魔導コアが暴走を始め、爆発するまで少しの時間があった。その間、アリシアルタは沢山の研究者に責められ続けた。

「何が聖女だ!この人殺し!」
「どうせお前のせいで勇者がおかしくなったんだろう!」

「わ、わたくしの、わたくしのせいては」

「お前のせいだ!!!」

 取り囲まれた人々から逃れた瞬間、アリシアルタだけ転移で逃げたのだ。

 怨嗟の声がずっと耳に残る。

「わたくしは……悪く、ない……」

 ふらりと立ち上がって、城に向かって歩き出す。帰る場所はそこしかないのだから。

「アリシアルタ!研究所が爆発した!何か知らぬか!」

 城も蜂の巣を突いたような騒ぎだった。王に聞かれても現実味がなく、ぼんやりとアリシアルタは答える。

「わたくしは……何も知りません……」

「やはり魔族の攻撃なのか……?ああ!結界はどうなってしまうのだ!」

 魔族の……攻撃……?恐怖で霞がかかったようだったアリシアルタの脳に一筋の光明が挿したようだった。

「そう……魔族。魔族よ……」

 わたくしは悪くないわ、魔族がやったことよ!わたくしは悪くないのだから。

「やはり魔族が!辺りに潜んでいるやもしれん!討伐隊と救援を早く行かせるのだ」

 国王は近くの家臣に怒鳴りつけ、慌てて宰相に取り次ぐ。宰相は騎士団長を呼び出して会議をし、その後に討伐隊と救援隊が組まれるだろう。

 いつ出発するか誰にも分からない。

「お、お父様!わたくしの婚約の件は如何なさいました?!」

 アリシアルタは必死に国王に問いかけた。

「この緊急時に何を言っておるのだ?!ええい!その辺りにお前の元婚約者の父親のコリス侯爵がおったわ、聞いてみるが良い」

 混乱の中、アリシアルタはコリス侯爵を探し当てる。

「侯爵様!ジェド様とわたくしの婚約の件、いかがなさいましたか!」

 コリス侯爵は迷惑そうに眉を寄せたが、聖女姫を無碍にも出来なかった。

「アリシアルタ様。貴女と息子ジェドの婚約は貴女が旅に出るときに解消されました。貴女も同意したはずです」

「そうです!でもこうして無事に戻ってきたのですから、もう一度」

「ジェドは後継です。幸運にもすぐに新しい婚約者が決まりまして、来月にも式を挙げる予定でございます」

「な、何ですって……どなたと……どなたと婚約したのですか?」

「リグリット公爵令嬢です」

 アリシアルタの脳裏にあまり美人ではないが、いつも朗らかに笑っている女性の顔が浮かんだ。

「失礼ですが……あまりお美しい方では……」

 顔だけなら、アリシアルタの方が美人だと言えただろう。

「リグリット公爵令嬢は素晴らしい方ですよ!いつもジェドの事を想ってくださる。私達にも良くしてくれる!彼女を貶めるような発言はいくらアリシアルタ様でもお控えくだされ!」

 それでもアリシアルタは直接会えばジェドは心が変わるのでは?と期待をする。

「ジェド様に一度お会いしたいのですが?」

「息子達は今、西方の叔母を頼っており、ここにはおりません」

 コリス侯爵の言葉が荒くなって行く。忙しいのだ、今、アリシアルタと婚約の話など長々としている場合ではないのだ。それに……。

『父上!アリシアルタ様にはもう限界です!お願いします!婚約を解消していただくようお願いします!!』

 昔から何度も何度も息子ジェドに言われて来たのだ。コリス侯爵もアリシアルタに良い印象を持ってはいない。
  勇者が来て、婚約が解消された途端、ジェドはさっさと新しい婚約者を見つけてきた。前々から相談に乗って貰っていたらしい。リグリット公爵令嬢ならば、家柄も相応しいし、人柄も良かった。
 コリス侯爵は両手を上げて歓迎し……アリシアルタ帰還の話を耳にした瞬間に2人を国外へ逃したのだ。

 先手を打ってよかった。コリス侯爵はほっと胸を撫で下ろす。そして、若い2人を国外へ逃して本当に良かったと。
 
 この国はもう駄目だ……。良識ある者は国外への脱出を決めている。コリス侯爵も今日屋敷に戻り、そのまま既にまとめ終えた荷物を持って国外に出る予定だ。

「そう……ですか」

 しょんぼりと俯くアリシアルタに同情も何もない。せっかく魔王を倒したのに、この姫のせいで国は滅びるのだから。

 きっと誰もアリシアルタの婚約者にはならないだろう。本人と王は知らないだろうが、アリシアルタの性格の悪さは年頃の貴族子息の間では有名だった。アリシアルタ帰還の話を聞きつけた貴族たちが一斉に自分の息子を遠方に隠したくらいだ。

 せっかく勇者が厄介な姫の受け入れ先になった!と安堵したのに!

 コリス侯爵は深々とため息をついた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...