元王太子からは逃げられない!前世からの婚約者らしいですが幸せにはなれるらしい

鏑木 うりこ

文字の大きさ
24 / 62

24 甥のノイエール

 ぽかん、そんな言葉がよく似合う顔で私は次の日を迎えた。

「ぼ、ぼっちゃま……あの、私はサリエンではお給金が払えないので、雇えませんと言ったのですが」
「あ! 大丈夫ですよー! 私達は一生分のお給金をレイジェス様から頂いておりますから!」
「へ?」
「……大切な人を死の淵から救っていただいているんです。あの方に少しでも恩を返したくてこちらに無理やりついてきたんです。さあ、お食事にしましょ! マーサさん、こちらでよろしいですか?」
「あ、はいー!」

 うちに父の代から長年仕えてくれているメイド長のマーサがすっ飛んで来て起こされた。どうやら、レイジェスが連れてきた人達が本格的に動き出したらしい。
 見知らぬ顔が何人も笑顔で屋敷の中を動き回っている。

「シャノン様、おはようございます」
「あ、ああ。君もレイジェスの?」
「はい! ジェーンです、お見知りおきを」
「う、うん。よろしくね」
「はい!」

 マーサに叩き起こされ、新しくきたジェーンに着替えを手伝って貰い、食堂へ向かう。自室から食堂へ向かう廊下もピカピカに磨かれている。いつもの廊下は人手が足りず、艶なんかここ最近見たこともなかったのに。埃のかぶっていた花瓶はきちんと磨かれて、花も生けてある。こんな所まで手入れしてくれているんだと感心してしまう。

「おはようございます」
「しゃにょん! おはようごじゃいます」
「おはよう、ノイエ。今日はご機嫌だね」
「きいてくだしゃい、しゃにょん! なんときょうののいえのあさごはんは、くまさんらしいのです!」

 私が食堂で一番最初に挨拶をしたのは長兄の遺児である甥のノイエールだった。三歳のノイエールにも苦労をかける生活をさせていてとても情けないのだが、今日は目がキラキラしていた。

「くまさん? どういうことかな?」

 まさか熊肉? あれは非常に獣臭いから、子供は誰も食べたがらない筈だけど。

「なんと! のいえにはパンケーキをだしてもらえるんです! そしてパンケーキがくまさんで、あまいちょこのおめめにいちごのおはながあるんですって!」
「おお! それはすごいね、ノイエ」
「はいっですから、しゃにょん、はやくあさごはんをいただきたいですっ」

 わくわくと興奮が収まらない様子のノイエ。なるほど、ノイエの後ろにはやはり顔の知らないメイドがニコニコ笑顔で立っていた。そのメイドを振り返ってみて、ノイエは満面の笑みを見せてた。

「しょーなんだよね! メアリー」
「はい、私の妹が食堂にお邪魔しておりまして、料理長に許可を貰ってお作りしました。すぐお持ちしますね」
「うわぁー! たのしみぃ~」

 もう私以外の人達は揃っていて、すぐに朝食が運ばれてきた。

「おはようございます、シャノンさん。朝からこんなにいただいて大丈夫なんでしょうか?」
「えーと」
「問題ないですよ、ダイアナ様。食材は昼前にフィールダールから追加が届きます。少し多く手配してしまったので、食べないと勿体無いです」
「そ、そうなんですか……」
「はい!」

 運ばれてくる朝食の量と品数がいつもの倍はありそうで、ダイアナ様が目を回しかけている。貧乏なサリエンは私達の食事も貧しい。パンと豆スープだけでも食べられるからありがたい、そんな生活だったのに、朝から卵やフルーツが並んでは心配するのも当然だ。

「この辺もレイジェスの指示?」
「指示は荷物を送っただけで、後は皆がやってくれています」
「そうなんだ」

 ノイエールは出てきたくまさんのパンケーキに歓声をあげ、一生懸命に食べ始めた。サリエンでは高級品の甘いはちみつまでたっぷりかかっているらしくて、頬を赤てうっとりしている。

「おいしーです! おかあさま、しゃにょんさん!」
「よかったわね、ノイエール」
「ありがと、れいじぇすさん!」
「もっとたくさん食べてくださいね、ノイエール」
「はぁい! ほっぺおちるくらいいただきます~」

 こんなに美味しそうに朝食を食べるノイエを見たのは久しぶりだ。父や兄達が亡くなってから、小さなノイエも色々気を使って我慢をしているのは分かっていた……でもどうすることもできなくて不甲斐ない日々だったのに、こんな笑顔を見せてもらえるなんて嬉しくて涙が出そうだ。

「ありがとう、レイジェス」
「いえ、どういたしまして。あ、今日の荷物で大きなベッドも届くので運び込ませていいですよね?」
「おいこら」
「あっ!」

 やっぱりちゃっかりし過ぎだろう! 私の感動が少し減ったじゃないか。
感想 4

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

声を失った悪役令息は北の砦で覚醒する〜無詠唱結界で最強と呼ばれ、冷酷侯爵に囲われました〜

天気
BL
完結に向けて頑張ります 5月中旬頃完結予定です その後は、サイドストーリーをちょこちょこ投稿していこうと思ってます

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…