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5 黒魔女の死
馬車から転がり落ちるように、私達は大きな神殿に駆け寄ります。馬車は精一杯のスピードで走ったのに、日没に間に合わないのです。もう目の前にあの魔法陣があるのに、明るい燃えるようなオレンジの一欠片が地平線の闇に吸い込まれてしまったのです。
「お急ぎを!」
「日が落ちました!」
「まずいっ、来た!」
私達を庇うように神官さんが影に立ちはだかります。
「神よ! 汝の子を守る盾を我に!」
そんな物が私に通じるか!
あの魔物は腕を一振りするだけで、神官達2.3人をまとめて薙ぎ払いました。なんて恐ろしい力なのでしょう。
おねぇえさまぁー!ちょうだい、ちょうだいよぉっ! 私の体が死んでしまったの。皆に裏切られて! だからあなたの体を私にちょぉだいよぉ! いつも通りにちょぉだいよぉ!
「ひっ!」
神官達が身を挺してくれても、足がもつれ、靴が脱げてしまった私は魔法陣の中に逃げ込むことができません。黒い腕が伸ばされ、私の足を掴もうと襲い掛かってきます。ルルが私の体を必死で引っ張ってくれますが、ルルの力では限界があります。
あ、足、足に! 足に手がかかる!
助けて! お母様!
何故そう思ったのかは分かりません、でも私はお母様に助けを求めました。冷たくロクサーヌばかり愛していたお母様。それでもメイド達が私に優しくしてくれたのは、家の中を取り仕切るお母様の許可があったからではないのでしょうか? それでもお母様はロクサーヌが生まれるまでは私をとても愛してくれていたのです……そう、愛してくれていたのです。
魔物のようなロクサーヌの黒い手は私の足を掴みます。
ずるり
なによ、これぇ! なによお!!
サイズの合っていないツギの当たった靴下と靴が引き抜かれ、ロクサーヌの手に残りました。
素足の私は無傷でなんとか魔法陣の中に転がり込むことができたのです。
こんなもの! こんな子供騙しの加護で! お母様の浅知恵かしらぁ?!
ロクサーヌは靴を靴下を乱暴に捨てました。あのボロの靴下は誰から貰った物だったかしら……貰った時から、穴を繕ってあった靴下。それは心を込めて繕われた物だった? ぐずぐずと溶け、黒い芥に変わって行く古い靴下……あれはもしかしてお母様が私に下さったものだった? 思い出せぬまま、私達はまたロクサーヌらしき魔物と一晩対峙する事になったのです。
レティシアあああ!!! すべてを私にちょおだいよおおお!
「囲め! 閉じよ!」
これまで守ってばかりだったのに、今夜は神殿が動きました。私達を守っている魔法陣の維持の他にたくさんの神官達が現れ、ロクサーヌに向けて光の鎖を放ち始めたのです。
「魔女の本体はもう死滅している! あとは精神体を破壊するだけだ! 縛鎖で結界を閉じよ!」
人間のくせにぃー! このわたくしを殺すと言うのかぁああ!! レティシア、力を! 力をおよこしぃ! お前の若さを命を私の力とするっおよこしいいいいいっ!
恐ろしい恫喝が続きます。でも隣にいるルルの暖かさに、私はなんとか正気でいられるのです。私達はお互いにお互いの体を抱きしめあいながら震えて夜が明けるのを今か今かと待ちわびます。狂気の声に心が竦み上がり、いっそこの魔法陣を出て楽になりたいと何度も何度も願いました。
「お嬢様っお嬢様っ! もう少しです、頑張って、頑張って!!」
そのたびに震えるルルの声が私を引き戻してくれました。ルル、私……頑張るわ、私、負けないわ。もうロクサーヌに何も与えない、もう何も奪わせない!
ああああ!!!! 死ぬ死んでしまう! わたくしがぁ! わたくしがああ!
結界に封じられ、登ってきたお日様に焼かれ多分ロクサーヌであっただろう影はチリになり消えて行きました。明るい朝日に照らされて黒い影は何も残さず浄化されたようでした。
「し、死んだの……?」
「ええ、ええ! 良く頑張りました! レティシアお嬢様! ああ、神よ感謝します!」
ルルが私の横で涙を流して喜んでくれますが、全てが現実味がなく、ぼうっとしてしまうのです。私は私に残った唯一のものを守ることができたのでしょうか……?
国を追われて、ロクサーヌらしき影がチリになり……もう襲ってこないと確認されてから、私は王宮に呼ばれて全てを聞くことができました。
「ロクサーヌが古の黒魔女の生まれ変わり……?」
「うむ……そなたら一家はなんの落ち度もなかった。ただ、選ばれてしまった、それだけだった」
私の妹として恐ろしい黒魔女の生まれ変わりとしてロクサーヌは生まれました。生まれた時から、邪悪な力を持っていたらしいのです。
そしてロクサーヌは私を使って完全に力を取り戻すつもりだったようでした。
「レティシアの両親はなんとか君を助ける方法を探して……そして徹底的に君を貶めることにした。ロクサーヌを可愛がり、君から遠ざけたんだ。両親の異常な君に対する厳しさはいわば君のためであった……それが正しいことであったか、私は分からない。だが、君はこうして命を繋いでいる。その事実だけは忘れないで欲しい」
あの両親の態度は全部私のため? ロクサーヌの興味を私からそらすための? 嘘でしょう?
「君たちの犠牲があって黒魔女という厄災から世界は守られた。人として礼を言わねばならない。ありがとう、そしてすまなかった、レティシア」
国王陛下に頭を下げられたが何も頭に染み込んで来なかった。
「お急ぎを!」
「日が落ちました!」
「まずいっ、来た!」
私達を庇うように神官さんが影に立ちはだかります。
「神よ! 汝の子を守る盾を我に!」
そんな物が私に通じるか!
あの魔物は腕を一振りするだけで、神官達2.3人をまとめて薙ぎ払いました。なんて恐ろしい力なのでしょう。
おねぇえさまぁー!ちょうだい、ちょうだいよぉっ! 私の体が死んでしまったの。皆に裏切られて! だからあなたの体を私にちょぉだいよぉ! いつも通りにちょぉだいよぉ!
「ひっ!」
神官達が身を挺してくれても、足がもつれ、靴が脱げてしまった私は魔法陣の中に逃げ込むことができません。黒い腕が伸ばされ、私の足を掴もうと襲い掛かってきます。ルルが私の体を必死で引っ張ってくれますが、ルルの力では限界があります。
あ、足、足に! 足に手がかかる!
助けて! お母様!
何故そう思ったのかは分かりません、でも私はお母様に助けを求めました。冷たくロクサーヌばかり愛していたお母様。それでもメイド達が私に優しくしてくれたのは、家の中を取り仕切るお母様の許可があったからではないのでしょうか? それでもお母様はロクサーヌが生まれるまでは私をとても愛してくれていたのです……そう、愛してくれていたのです。
魔物のようなロクサーヌの黒い手は私の足を掴みます。
ずるり
なによ、これぇ! なによお!!
サイズの合っていないツギの当たった靴下と靴が引き抜かれ、ロクサーヌの手に残りました。
素足の私は無傷でなんとか魔法陣の中に転がり込むことができたのです。
こんなもの! こんな子供騙しの加護で! お母様の浅知恵かしらぁ?!
ロクサーヌは靴を靴下を乱暴に捨てました。あのボロの靴下は誰から貰った物だったかしら……貰った時から、穴を繕ってあった靴下。それは心を込めて繕われた物だった? ぐずぐずと溶け、黒い芥に変わって行く古い靴下……あれはもしかしてお母様が私に下さったものだった? 思い出せぬまま、私達はまたロクサーヌらしき魔物と一晩対峙する事になったのです。
レティシアあああ!!! すべてを私にちょおだいよおおお!
「囲め! 閉じよ!」
これまで守ってばかりだったのに、今夜は神殿が動きました。私達を守っている魔法陣の維持の他にたくさんの神官達が現れ、ロクサーヌに向けて光の鎖を放ち始めたのです。
「魔女の本体はもう死滅している! あとは精神体を破壊するだけだ! 縛鎖で結界を閉じよ!」
人間のくせにぃー! このわたくしを殺すと言うのかぁああ!! レティシア、力を! 力をおよこしぃ! お前の若さを命を私の力とするっおよこしいいいいいっ!
恐ろしい恫喝が続きます。でも隣にいるルルの暖かさに、私はなんとか正気でいられるのです。私達はお互いにお互いの体を抱きしめあいながら震えて夜が明けるのを今か今かと待ちわびます。狂気の声に心が竦み上がり、いっそこの魔法陣を出て楽になりたいと何度も何度も願いました。
「お嬢様っお嬢様っ! もう少しです、頑張って、頑張って!!」
そのたびに震えるルルの声が私を引き戻してくれました。ルル、私……頑張るわ、私、負けないわ。もうロクサーヌに何も与えない、もう何も奪わせない!
ああああ!!!! 死ぬ死んでしまう! わたくしがぁ! わたくしがああ!
結界に封じられ、登ってきたお日様に焼かれ多分ロクサーヌであっただろう影はチリになり消えて行きました。明るい朝日に照らされて黒い影は何も残さず浄化されたようでした。
「し、死んだの……?」
「ええ、ええ! 良く頑張りました! レティシアお嬢様! ああ、神よ感謝します!」
ルルが私の横で涙を流して喜んでくれますが、全てが現実味がなく、ぼうっとしてしまうのです。私は私に残った唯一のものを守ることができたのでしょうか……?
国を追われて、ロクサーヌらしき影がチリになり……もう襲ってこないと確認されてから、私は王宮に呼ばれて全てを聞くことができました。
「ロクサーヌが古の黒魔女の生まれ変わり……?」
「うむ……そなたら一家はなんの落ち度もなかった。ただ、選ばれてしまった、それだけだった」
私の妹として恐ろしい黒魔女の生まれ変わりとしてロクサーヌは生まれました。生まれた時から、邪悪な力を持っていたらしいのです。
そしてロクサーヌは私を使って完全に力を取り戻すつもりだったようでした。
「レティシアの両親はなんとか君を助ける方法を探して……そして徹底的に君を貶めることにした。ロクサーヌを可愛がり、君から遠ざけたんだ。両親の異常な君に対する厳しさはいわば君のためであった……それが正しいことであったか、私は分からない。だが、君はこうして命を繋いでいる。その事実だけは忘れないで欲しい」
あの両親の態度は全部私のため? ロクサーヌの興味を私からそらすための? 嘘でしょう?
「君たちの犠牲があって黒魔女という厄災から世界は守られた。人として礼を言わねばならない。ありがとう、そしてすまなかった、レティシア」
国王陛下に頭を下げられたが何も頭に染み込んで来なかった。
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