【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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1 偉大なる慈悲将軍の最後

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嵌められた。

 その思いが頭の片隅から離れなくなったのはもう10日も前のこと。私は追われに追われている……。

「っ!」
「申し訳、ございません……」

 かつてともに戦った仲間だった。それが辛そうな顔で私に向かって剣を振り上げる。

「申し訳……ございませんっ!!」

 私はガルエン王国に仕える魔導士だった……いや、罷免されてはいないからまだ魔導士なんだろう。没落寸前の伯爵家の三男として生まれた私は魔力が元々高かった。それに学ぶことを苦に感じなかったので、軍部の魔導士になる事を決めたのはかなり早い時期からだった。家は兄上が二人もいるのだから私が家から離れても問題はなかった。
 飛び級で入った学園でありがたい事に私の才能は花開いた。そして魔術の勉強も楽しかった。膨大な本を読み、覚える。魔力を使ったポーション類も一通り作れるようになったし、体力も必要かと思い剣を習ったりもした。
 そして首席で学園を卒業し、腕を磨き王宮魔導部隊に入り……何度も厳しい状況を潜り抜けてきた。いつも必死だった、自分の与えられた役割を果たすことと、生き残ることに。そして運よく生還し、28を迎える頃に同期は誰も生きてはいなかった……筆頭魔導士と呼ばれるようになっていた。
 そして少しだけ周りが見えるようになると、我が国の我々への扱いは非常に厳しいものだということに気が付き始めた。魔導士や戦士……騎士なども使い捨てのように厳しい戦場に放り込まれロクな支援もなく戦わされていた。

「何ということ……」

 そこからだった。私が不幸になる部下や仲間達を何とかしようとし始めたのは。学園でなんとなしに覚えた薬の知識が役に立った。安く薬草を仕入れてはポーションを作り、常備させるようにした。この国は十分なポーションも用意せずに戦いに赴かせている。作戦も無茶なものは異を唱えたし、事前調査にも時間をかけるようにした。情報に詳しい者を個人で雇ったり、敵国のことをよく探るようにした。
 できることならば戦いではなく話し合いで戦争をしなくてもよいように動いた。敵国の捕虜も大切に扱うようにしたし、こちらの国との捕虜交換も積極的に行うようにして、なるべく国に帰れる者を増やした。
 自腹で薬草などを買い求めたから実家に少し仕送りをしたらあまり高くない給料はすぐに無くなった……それでも良かった。養わなければならない家族がいるわけでもない、婚約者がいるわけでもない。だから好きに使うことが出来た。実家も私のやることを笑顔で応援してくれた。

「仕送りなどしなくても大丈夫だよ」

 そうまで言ってくれたが、我が家が火の車なのは分かっていたからそれだけは続けさせてもらった。たまの休みにゆっくり午後まで眠らせてくれる家があるだけでありがたかった。

 そうして30を過ぎる頃には学園を卒業して新人として入ってきた魔導士達にも名前が知られているようになっていた。

「イアン・ワイアード様だ! 慈悲将軍!」
「慈悲将軍……? 何だそれは」
「……ワイアード将軍ほど部下を思い、軍を思い、国を思ってくださる方はおられないからですね。皆そう呼んでいますよ」
「……初耳なんだが?」

 そうですか? と苦笑する副官を見ながら不思議に思う。ただ、出来ることをしただけなのに大層な名前をつけられたものだなあと。そして自分の知らない所でそんな呼び名が広がっていたのだなと少しだけうすら寒いものを感じた……。

 その日から2年後、私は王太子暗殺の冤罪をかけられ国から追われる立場になった。誰もが首を傾げ、そして冤罪であると気づく事だが、王太子自らが私に殺されかけたと大々的に声明を発表したのだから口を閉ざすしかない。

「イアン将軍の名声が上がり過ぎて……王太子より人気が出たのが気に入らなかったんだ……」
「シッ! 口にしちゃならん!」

 それでも次期王の命令は絶対だった。私は追われに追われ辺境まで逃げ落ちた。何の罪もない追手を傷つけるのも躊躇われ、ただ逃げるしかない。他国へ逃亡するしかない……そう決め、国境付近の村へ差し掛かったところで罠にはまった。
 まさか何も知らない村人達を巻き込んで、大規模魔法を打ち込むなんて誰が思いつくだろう。私、たった一人を仕留める為に、村人の大半は炎の渦に巻かれてしまった……。

「なんと……なんということを……」

 ああ、逃げなどせずこの首を差し出していれば良かった、そう思ってももう遅い。致命傷を負いながらもフラフラと村はずれへと移動した。私がいればまた迷惑がかかる……ならば人がいない方へ。

 誰もいないはずの村のはずれに……予想外に人がいた。まだ小さな男の子だった……その少年は何か獣を腕に泣いていた。

「……どうした、坊主」

 ちょうど追手の気配が切れていた、だからつい声をかけてしまったのだ。

「イアンが……イアンが、死んじゃう」
「……イアン?」
「この子……ぼくのたったひとりの家族」

 少年の腕には白い狐の子供が大切そうに抱きかかえられている……脇腹から血を流し、前足もおかしな方向に曲がっている。

「……酷い怪我だ」
「村の方から飛んで来たがれきからぼくをたすけてくれたの……代わりにイアンが」

 自分と同じ名前の狐の子はあと数分で死んでしまうだろう。ならば

「少年、おじさんがこの狐を治してみよう。そしてもし良くなったらすぐこの場を離れるんだ、まだ怖い人達がたくさんうろついているからね」
「え……」
「分かったかい?」
「うん!」

 回復の魔術など使った事もなかったが……私の中にある生命力をすべてこの狐に移せば、理論上命をつなぐことができるのではないかと目を閉じ神に祈った。私はもうすぐ死ぬだろう、その前にこの小さな命を一つ救わせてくれと……。

 願いは聞き届けられ、私の目は静かに閉じられてゆく。子供が何かしゃべっているがもう音は聞こえない。

「行け」

 音は発せたようで、子供は悲しそうな顔をしたが背を向けて走り出した。それでいい。ぺたりと地面に座り込むと大地から揺れが少し伝わってくる。きっと大勢の人間が軍靴を鳴らしこちらに近づいてくる揺れだろう。ここに私がいればきっと彼らは狐を抱いた子供など気にしない。私を捕らえ、すぐさま首を切り落とし王都へ帰っていくはずだ。

 悲しいかな、こんな国に生まれてしまった宿命だったのかもしれない。私は目を閉じ、そして暗闇に沈んで行った。もう何も分からない。誰かが声をかけたのか、誰かが私を揺すぶったのか、なにも、なにもわからない……。

 イアン・ワイアード、32歳。 反逆者としての生涯を閉じた。


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