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58 タム先生
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「わあ、上手」
「はは、ありがとう」
私とラセルはタムのスケッチブックを覗き込んでいる。中には木と木の葉っぱが細かい線で書き込まれ、丁寧な小さな字でたくさんの書き込みがしてある。
「これはそこに生えている木だね」
「ああ、ショウの木と呼ばれている。ショウの木は独特の香りがあり、夏にはショウの実がなるね」
「知ってる! 大人が好きな奴でしょう」
「ふふ、そうだ。ショウの実は少し辛いから、採取してそのまま薬味にしたり、干して一年中使うね」
「後ね、ちょっと臭い肉につけると食べやすくなるってサイのおばさんが言ってた」
「その通りだ。殺菌作用もあるから、肉の漬け込みスパイスによく使われる」
タムは植物学者になりたかった。徴兵もされ、金も無かったタムは諦めたというけれど私はタムに命令したんだ。
「タム。王立図書館へ行って下調べをして欲しい。ヘムダ地方の自生植物についてだ。現地で食べられるもの、毒になるもの、薬になる物、全部頭に入れて来い」
「えっ……将軍、何故私が?」
まあ不思議そうな顔をしていたけれど、それはクレヤボンスからの情報だよ。まあ、そんなことはどうでも良いんだ。
「タム。軍属はいずれ終わる。老いれば嫌でも追い出される。それまで利用できることは利用するんだ。平民なら入れぬ図書館も軍の要請なら問題ない。読みたかったんだろう?植物に関する本を浴びる程に」
まだ若かった私はまだ若かったタムのその時の顔を忘れていない。感情を殺したいのに殺せていない、困惑と歓喜が入り混じった顔。そして真剣で真摯な眼差し。
「承りました、イアン様」
「頼むよ、ヘイズなんかには頼めない仕事だ」
「ははっ。図書館を爆発させてしまいますね」
はっきり言えば自生植物なんて割とどうでも良かった。タムの想いを枯れさせるのはあまりに不憫と思ったから、図書館へ行っても良い口実を与えただけのつもりだった。
「アムフェル、痺れ草とトルンの実で麻痺解除薬の調合分かるか?」
「希少薬草のポタンダの根が手に入れば作れますが、ポタンダはなかなか出回りませんよ」
「あるんだよ、ここの森の野営地の近くに、ホラ」
「タムっ!あなたが神か!」
「いや?この気象条件ならって思ってね、調べたらやっぱりあったよ」
数人を伴って走って行くアムフェルとタムの後ろ姿を微笑ましく見守ったっけ。
その後、この麻痺解除薬で何人もの兵士の命が救われた。
「知らなければ希少薬草もただの草と踏みつけていたかも知れない。でも知っていれば有効だと分かる。本は凄い」
「でもタムさん。俺ら字をまだ読めねぇッス」
「あー、お前ら勉強中かぁ……どうするかなぁ」
そこからだと思う。タムが絵を描き始めたのは。元々の画材はミニィのお古だったし、最初は子供の落書きより酷い絵で、この絵の植物がなんだかさっぱり分からなかった。
「枝が枯れている?これは鳥の巣?」
「棘と花だろう!見りゃわかる!」
「いやぁ……これは無理ッスよぉ」
でもタムの絵はどんどん上手くなっていって何を描いているかすぐに判別がつくようになった。
「噴水のところの黄花延命草だろ?」
「いや、庭園の白花延命草だ。葉のつき方が違う」
「あ、ほんとだ」
こうしてタムは実物そっくりの細密な絵を描くようになった。タムの下にはやけに植物に詳しい奴らが集まり、薬なのか食用なのか毒なのかなど色々な議論を交わされている。
タムの描いた絵が入った紙の束は、我が軍の極秘資料並みに貴重な物になっていたっけ。
あれ内緒で出版出来ないかなぁ、きっとタムは腰を抜かして驚くだろうなぁ。
タムはもう立派な植物学者だと思う。
「タムさん、あれは?」
「あれは毒がある。そのままだと大丈夫だが生木を火で炙ると……」
「そうなんだ!」
今、新しい生徒も1人出来たことだしね!
「はは、ありがとう」
私とラセルはタムのスケッチブックを覗き込んでいる。中には木と木の葉っぱが細かい線で書き込まれ、丁寧な小さな字でたくさんの書き込みがしてある。
「これはそこに生えている木だね」
「ああ、ショウの木と呼ばれている。ショウの木は独特の香りがあり、夏にはショウの実がなるね」
「知ってる! 大人が好きな奴でしょう」
「ふふ、そうだ。ショウの実は少し辛いから、採取してそのまま薬味にしたり、干して一年中使うね」
「後ね、ちょっと臭い肉につけると食べやすくなるってサイのおばさんが言ってた」
「その通りだ。殺菌作用もあるから、肉の漬け込みスパイスによく使われる」
タムは植物学者になりたかった。徴兵もされ、金も無かったタムは諦めたというけれど私はタムに命令したんだ。
「タム。王立図書館へ行って下調べをして欲しい。ヘムダ地方の自生植物についてだ。現地で食べられるもの、毒になるもの、薬になる物、全部頭に入れて来い」
「えっ……将軍、何故私が?」
まあ不思議そうな顔をしていたけれど、それはクレヤボンスからの情報だよ。まあ、そんなことはどうでも良いんだ。
「タム。軍属はいずれ終わる。老いれば嫌でも追い出される。それまで利用できることは利用するんだ。平民なら入れぬ図書館も軍の要請なら問題ない。読みたかったんだろう?植物に関する本を浴びる程に」
まだ若かった私はまだ若かったタムのその時の顔を忘れていない。感情を殺したいのに殺せていない、困惑と歓喜が入り混じった顔。そして真剣で真摯な眼差し。
「承りました、イアン様」
「頼むよ、ヘイズなんかには頼めない仕事だ」
「ははっ。図書館を爆発させてしまいますね」
はっきり言えば自生植物なんて割とどうでも良かった。タムの想いを枯れさせるのはあまりに不憫と思ったから、図書館へ行っても良い口実を与えただけのつもりだった。
「アムフェル、痺れ草とトルンの実で麻痺解除薬の調合分かるか?」
「希少薬草のポタンダの根が手に入れば作れますが、ポタンダはなかなか出回りませんよ」
「あるんだよ、ここの森の野営地の近くに、ホラ」
「タムっ!あなたが神か!」
「いや?この気象条件ならって思ってね、調べたらやっぱりあったよ」
数人を伴って走って行くアムフェルとタムの後ろ姿を微笑ましく見守ったっけ。
その後、この麻痺解除薬で何人もの兵士の命が救われた。
「知らなければ希少薬草もただの草と踏みつけていたかも知れない。でも知っていれば有効だと分かる。本は凄い」
「でもタムさん。俺ら字をまだ読めねぇッス」
「あー、お前ら勉強中かぁ……どうするかなぁ」
そこからだと思う。タムが絵を描き始めたのは。元々の画材はミニィのお古だったし、最初は子供の落書きより酷い絵で、この絵の植物がなんだかさっぱり分からなかった。
「枝が枯れている?これは鳥の巣?」
「棘と花だろう!見りゃわかる!」
「いやぁ……これは無理ッスよぉ」
でもタムの絵はどんどん上手くなっていって何を描いているかすぐに判別がつくようになった。
「噴水のところの黄花延命草だろ?」
「いや、庭園の白花延命草だ。葉のつき方が違う」
「あ、ほんとだ」
こうしてタムは実物そっくりの細密な絵を描くようになった。タムの下にはやけに植物に詳しい奴らが集まり、薬なのか食用なのか毒なのかなど色々な議論を交わされている。
タムの描いた絵が入った紙の束は、我が軍の極秘資料並みに貴重な物になっていたっけ。
あれ内緒で出版出来ないかなぁ、きっとタムは腰を抜かして驚くだろうなぁ。
タムはもう立派な植物学者だと思う。
「タムさん、あれは?」
「あれは毒がある。そのままだと大丈夫だが生木を火で炙ると……」
「そうなんだ!」
今、新しい生徒も1人出来たことだしね!
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