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221 私は
しおりを挟む目が覚めると、知らない部屋だった。でもこの部屋の主の匂いはタムだったし、積んである本は全部植物関係、壁に幾つも貼ってある走り書きのメモも癖のあるタムの字だったから、ここはタムの研究室だということはすぐに見当がついた。そしてタム臭いベッドで寝ていた……。きっと温室でお弁当をつまんで食べたあと暖かさに負けてそのまま寝てしまったんだろう。そのままじゃまずいからタムが研究室まで連れてきてくれたってところかな?
部屋の中には部屋の主はおらず、これまた書類が山積みになった机の上に走り書きで言伝が残されていた。
「ミニィんちに行ってくる」
ミニィの家ってここからは遠い街はずれのタウンハウスだよね? 何か忘れ物でもあったのか、急なことだ。
「さて、私はどうしよう……」
取り繕って学生として勉学に励むこともしなくても良さそうになった。実際、学園の剣術や魔法は基礎中の基礎で、私達が使うときは省略して使っている物の方が多くて、特に得るものはない。
「ラセルは……自分で強くなった方がいい」
多分私がアドバイスすれば、強くなれる。でもその場合、常に私はラセルの師匠になってしまい、ラセルの前を行くものか、後ろで見守る者のどちらかに分類されてしまう。それはラセルが求めるものじゃない。
「ラセルに必要なのは師匠じゃなくてともに強くなる仲間だ」
例えばレオン、セドリック、フィン辺り。
「私は、要らない子だな」
タムのベッドの上からポンと飛び降りる。多分万年くしゃくしゃのベッドなんだろう、きれいにしていく必要もない。扉には鍵は掛かっていないようだが、何となく窓から出た。研究室は一階だったから何の問題もなく外に出ることができた。
「タムは、長年の夢だった植物学者さんになった」
「ミニィには頼れる人が隣に立った」
「パムは……まあ、何とかなるだろう。いつも料理美味しいし」
「ヘイズは元々そんなに私の手は要らない奴だった。長男だし元々責任感のある男だ」
あまり学生が来ないだろう温室近くは学園内だけれど、草丈が高く雑草が生えている。そこの背の低い所を狙って歩いていく。
「さて……」
「俺の願いは叶えてくんないんすか?」
「お前は何を望んでるかよく分からないからなぁ」
「俺はね」
いつから近くにいたのか知らないけれど、いつの間に隣にクレヤボンスがいた。昔から気配を消すのは上手かったけれど、ここ最近はどこにいるか本当に全然分からない。
「大将が俺の知らない間に消えないで欲しい、ですね」
「闇の中でも見つけられるお前の知らない間なんてあるの?」
めちゃくちゃ不機嫌な気配が撒き散らされた。
「はあ? 何いってんすか? 人間界ならまだしも、気がついたら仙界にいて、仙人のじーちゃんと仲良くなって酒を呑んでたり、精霊界に足を突っ込んで一ヶ月帰ってこなかったり、妖精界でうとうとして攫われそうになったりした癖に!」
「む、昔のことじゃないか……」
書類が溜まってるのに、妖精の悪戯で一週間帰れなかった時は皆に怒られたっけなぁ。いや、ほんとに10分くらいうたた寝してたつもりだったんだよ? ちゃんと書類も終わらせたんだからあんなに怒らなくても良かったのに……。
「あの時は無事に帰ってこれたから良かったですけど! ……人間界にいたって馬鹿王太子に追われて、俺達を庇って一人で追っ手を引き付けて……一人で死ななくても良かったじゃないですか……」
「それは……」
これ以上口を開いたらまた怒られそうだ。私の部下の中で私を一番叱るのはクレヤボンスだから、私もそんなに怒られたい訳じゃない。
でも仕方がなかったんだ、あの時は。私は自分の命があそこで終わる予感がしていたんだ。しかも周りにいる人達を巻き込んで死ぬ運命だって。
だから、皆に近くにいて欲しくなかった。だから、遠ざけたんだけどな。
「今度は一人で死なせませんよ。俺はついてきます」
「はあ? 何不吉なこといってるの? クレヤボンス。まるで私が死んじゃうみたいなこと」
「俺は腕を磨きました。情報網も昔より格段に細かくしました。部下もいますし、俺が居なくなったら後を継ぐ者も決まってます。ついでに占星術も学んだし、持ち物から居場所を特定することもできるようになりました」
「まさか、そのために私の毛を集めてたんじゃないよね?」
「それもありますが、ぬいぐるみ作りは俺の趣味です」
「あ、う、うん。趣味を持つことはいいことだね……」
恐ろしいことにクレヤボンスは至極本気だということだ。いつもは闇を見通す鋭い視線で私の胸中すら覗き見ようとしている。まったく油断のならない男になってしまった。
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