【完結】おっさん軍人、もふもふ子狐になり少年を育てる。元部下は曲者揃いで今日も大変です

鏑木 うりこ

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227 分からないのに好きなんだ

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 私の名前はイアン。それしか分からない。私は暗闇の中に捨てられた。何も見えないけれど、そこで話しかけてくれるものがいた。

あらあら!まあまあ!
ほほほ、なるほど

 真っ暗な中で何かが話しかけてくる。そしてやってくる目を開けなくても見える存在。それから目を開けないと見えない存在。

「嘘でしょ?! どうしてまだ生きてんのよ」
「魔獣の血のせいだわ……早く死ねば良いのに!」

 たまに暗闇に光がさす時があり、誰かの気配がしたけれど、すぐにまた闇になる。それでも私は死ななかった。どうしてか分からないけれど、私は死にたくなかった。

「最近、気づかれてる気がする……お供えに離乳食が乗ってんだよね」
「だろうな、まあ奴ららしい」

 目を開けなくても見える存在は小さい方と大きな方がいる。その存在はいつも口に美味しい物を運んでくれる。

「地下水は飲めるけど、いくらなんでもこれは」
「それでも生き抜けるのは流石イアンだとしかいいようがないな」

 よく分からない、何も分からない。ただ死にたくなくて、誰かの顔をみたい。それだけ。声だけしか聞こえない存在は色々話しかけてくれるし寂しくはなかった。
 
 どれくらい暗闇にいたか分からないけれど、その日は大きな音があちこちで聞こえたのは覚えている。

「やれ!」
「はっ!」

 バキン!と大きな音がして、暗闇に光が差した。眩しくて目を閉じる。

「う、うわぁ……」

 光の中で誰かが呻いた。

「ぢぢゔえぇぇぇえええーー!」

 知らない人にぎゅっと抱きしめられた。とても暖かくて懐かしい匂いのする人だった。

「ワイアード公爵っ! 汚れます」
「ぢぢゔえぇーぢぢゔえぇーー!おひざじぶりでございまずぅううう!あれがら6ねん、わでだばあめのびもがぜのびもぉおおおわあああーー!」

 知らない人は私に抱きついて何か凄く喜んでいるようだった。

「汚れがなんだ! あー!義父上、こんなに小さくなっちゃって……んん……?ひょろひょろのガリガリですね。ご飯を食べさせて貰ってなかったんですね、大丈夫ですよ、すぐにまんまるのぱっつんぱっつんにしてあげます」
「??」

 よく分からない。何のことだろう?

「ワイアード公爵っ! それは呪われた子供です! それのせいで我が家は」
「はあ?! こんな祝福された可愛い子は他にいませんよ。あー可愛い可愛い! 真っ赤な魔力に今度も狐の魔力が混じってるんですね? どこで拾ってきた狐だろう、それとも前のままなのかな? 今回も狐になれますか? 義父上」

 この人はどうして私のことをチチウエって呼ぶんだろう?私はこの人のことを知らないのに。

「ミニィ、義父上なんて呼ぶからこの子が不思議な顔をしてるじゃないか。マシュー子爵、この子供私達が貰って行っても構わないですよね?」
「も、勿論構いませんよ、アイザック様……し、しかしそれは呪われた魔獣の血を持った子供です、それは災いしか呼び込みません! それのせいで妹は離縁され気が狂い……」
「そんなことはどうでも良いんで。この子を貰えるかどうかお答え下さい」
「わ、我が家の……疫病神を持って行ってもらえるなら……」
「やったー! 義父上、今日から私と一緒に暮らしましょうね!」

 やっぱりよくわからないけれど、どうやら私はこのちょっと可愛らしいおじさんの家で暮らすらしい。

「ではこれはお礼金です。この方をこの世に送り出してくれたことと一応今まで保護してくれたことへの。今後一切の関わりは無用、手切れ金も含まれていると思って下さい」
「ひ、ひえっ?! こ、こんなに!」
「さあさあ、ミニィ。私にもイアン様を抱っこさせてくださいな。あなた達のせいで私まで立派なイアン様大好きクラブの一員ですよ」
「いやですぅ~私が抱っこするんですぅ~」
「じゃ、じゃあイアン様を抱っこしたミニィを抱っこすることにしますっ」
「やめてっ」

 何も分からないけれど、私を代わりばんこに抱っこするおじさん達は嫌いじゃないと思った。
 

 ガタゴトとどこかへ運ばれ、ついた所は嫌な感じはしなかった。

「きゃー! 予想より可愛いー!」
「おうおう、情報通りガリガリだったんだな」
「普通なら死んでましたよね? ティン様達かなー?」

 ここでもおじさん達が私を代わりばんこに抱き上げる。

「まず洗ってやろうぜ。それから服を着せて」
「ご飯が先でしょ。さあさあ六年ぶりのパムのご飯を召し上がれ!あ、でもティン様達が持って行ってたとすると六年ぶりではないですかねぇ?」
「ちげーねぇ!」

 目の前に出された良い匂いのする物は美味しかった。手でつかんで口に入れたら皆ニコニコが大きくなった。

「まんま行ったぜ!」
「可愛いですねー」
「スプーンの存在に気がついてない!」
「スプーン知らないんじゃないかな? 可愛すぎて鼻血が出そう」

 この人たちは私が何をしてもニコニコしている……よく分からない。でもこの人達はとても好きだと思った。

 


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