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8 私お財布忘れて来ちゃったわ、毎回。
貴族街近くの大きなお店。その傍には馬車止めも完備しているオープンテラスのティールームがある。そこは高位貴族も良く利用している格式の高いお店。分かっていてそこにした。この店に私のような貴族の娘が来ても特に問題はないだろう……ただ、一人でというのは良くないけれど。
「もうおかしな約束はしていないわよね……」
「お嬢様ぁ良かった、良かったです! 目を覚まされて」
椅子に座った少し後ろでルシーが泣いている。何度も何度もルシーに注意されたわよね、一人で下町近くの店に出かけるなって。社交界でも噂になってしまうって。実際戻る前の過去で私は下町をうろつくと嘲笑されていた……二度としないわ。
「あー! アネモネ、もうついてたの? 一人でお茶飲んでるなんて狡い! 私も行くわ」
「……出ましょう、ルシー」
「ええ、お嬢様」
約束の時間より遅れてついたダリアが通りからテラス席にいた私の姿を見かけたらしく、外から大きな声を上げている。はしたないと思うのだけれど、そういうことをされると男性は喜ぶらしい……でも普通の令嬢なら真似したいとも思わない。だって自分を安く見せる行為だもの。そういうことをする女性は粗雑に扱われるって私は前の人生で気が付いたのよ。
「ええと、私この一番高いケーキセットを……」
「何か用事があるのではなくて?」
「えっ? もう出ちゃうの?? 私もケーキとか食べたいんですけど!? あっ待って!」
店で注文をしようとしていたダリアの横を通りながら声を一応かける。一番高いケーキセットを食べたいなら、ご自分でどうぞ? どうせ私の財布を期待しての一番高い物の注文なのでしょうけれど、もううんざり。ダリアが私を買い物に誘うときはいつもそうだった。
「ねえ、一緒に買い物に行かない?」
「えっ……私欲しい物はないわ。それに必要なものなら家に商人が来るからそこから買うの」
「えーっ良いじゃない、行きましょう! 二人で行ったら楽しいわよ!!」
「そ、そうかしら?」
ダリアに言葉巧みに街へ誘われ、入った高級店で言われるのだ。
「ねえ、このペン素敵! お揃いで買わない??」
「え、お揃い……? 同じものを持つって事? それっておかしくないかしら」
貴族は同じものを好まない。真似をした、似せたなどと在らぬ非難を浴びるから。
「でも凄く仲のいい友人っぽいじゃない! 姉妹みたいに」
「そう……?」
「そうよ、絶対そう! だって私達親友じゃない!」
「そ、そうね? そうよね」
そして自分の趣味ではない派手な花柄のペンを2本買い求め、支払いは何故か全部私だった。支払いの段階になるとダリアはどこかへ消えているのだ、トイレに行ったとか、向こうの棚をみていただとか。私は金銭感覚も疎かったし、その程度なら、といつも支払っていたけれど食事もすべて私が払っているのはどう考えてもおかしい。ダリアと街へ出かけ酷い時にはこんなことをいわれた事もある。
「あっ、私今日、お財布忘れて来ちゃった!」
そんな馬鹿な話がある? 呆れて笑すら漏れるわ。
「ねえ、待って! 私、新しいノートが欲しいの。そこの店に寄ってちょうだい」
このまま馬車に乗って帰ろうかと思ったけれど、ダリアが追い付いて来た。
「私は買う物がないの。もう帰るわ」
「少しくらい付き合ってよ! 」
きっちり否定してやらないと駄目みたいね。
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